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新年号特集 免疫の謎を解き明かす カラー解説

寄稿 藤尾 圭志

2026.01.13 医学界新聞:第3581号より

 免疫系は本来,外来の病原体を排除し生体の恒常性を保つよう機能している(図1)。しかし,免疫系が自己抗原に過剰に応答すれば自己免疫疾患が惹起され,逆に応答が不十分であればがん細胞の増殖につながるなど,その機能異常はさまざまなヒト疾患を引き起こす。こうした病態は免疫介在性疾患と呼ばれ,免疫担当細胞の多様な応答により,複雑な臨床的表現型を呈する。これらの疾患の病態解明および創薬には免疫系の理解が不可欠である。これまではヒトとの免疫系の類似性を背景にマウスを用いた研究が免疫学の発展に大きく貢献してきた一方で,近年の技術進歩によって,ヒト検体を用いたゲノム・エピゲノム・トランスクリプトーム解析と,それらを統合したマルチオミクス解析が可能となり,ヒト免疫や免疫介在性疾患のさらなる解明が進む。マウスモデルは依然として重要な研究手段であるが,マウスとヒトの免疫系には本質的な違いも存在することから,マウスとヒトの双方向的な比較解析を通じた免疫学の再構築が求められている。

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図1 病原体に対する主な免疫システム
体内に侵入した病原体を感知・排除する自然免疫は,生物に生まれつき備わっているシステムである。一方,抗体とT細胞により病原体を特異的に排除する獲得免疫は後天的に得られ,抗原情報を記憶しておくことで,経験済みの異物に対してより迅速かつ強力な反応が可能になる。

 本稿では,免疫学の発展においてマウスモデルが果たしてきた役割と,マウスとヒトの免疫系における相違点に目を向けつつ,最新のヒト免疫研究の動向を概説する。

 マウスとヒトはタンパク質コード領域の約85%が一致するなど,一定の遺伝的相同性を有している。マウスを用いた研究は,主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex:MHC)やT細胞・B細胞,胸腺の機能,Toll様受容体(Toll-like receptor:TLR)の同定など,免疫系への理解を飛躍的に進展させてきた(図2)。特に1980年代以降は,均一な遺伝的性質を持つ近交系マウスが免疫研究の主要な実験モデルとして用いられるようになった。C57BL/6やBALB/cに代表される近交系マウスは個体差が小さく,実験結果の再現性が高い。さらに多世代にわたる交配や遺伝子改変系統の迅速な作製が可能である。

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図2 免疫学の発展と臨床応用の歴史

 加えて,マウスにおけるprogrammed cell death protein1(PD-1)/programmed death-ligand1(PD-L1)経路の研究から,この経路の阻害が腫瘍免疫応答を活性化し得ることが示され,免疫チェックポイント阻害薬の開発につながるなど,マウス実験にて病態の詳細なメカニズムを解明した上で,ヒト疾患の治療法を開発するという研究手法も確立された。

 マウスを用いた免疫系の解明が進む一方で,マウスモデルから得られた創薬候補がヒトの臨床試験で失敗する例が相次いで報告された1)。その一因として,ヒトとマウスの免疫系の違いが考えられている。ヒトとマウスの進化系統は約6500万年前に分岐しており,その免疫システムには細胞表現型,遺伝子発現,炎症応答,受容体発現といった複数のレベルで相違が存在する。以下,代表的なものを紹介する。

●末梢血白血球の分画 ヒトは末梢血白血球のうち好中球が50~70%,リンパ球が30~50%と好中球が豊富だが,マウスにおいては好中球が10~25%,リンパ球が75~90%と,リンパ球が優勢である。

●免疫細胞の表面マーカー発現 マウスで同定された細胞がヒトには存在しない,あるいは異なる機能を持つことがある。例えばマウスのB-1b細胞は,T細胞非依存的に,感染に対する迅速かつ抗原特異的な液性応答を担っている一方,ヒトにおけるT細胞非依存性抗体応答は辺縁帯B細胞やIgM陽性/CD27陽性メモリーB細胞が主に担っており,マウスのB-1b細胞に相当する細胞は存在しない。

●遺伝子発現制御とエピゲノム構造 マウスとヒトの間で,特に免疫の遺伝子に隣接するシス調節領域(プロモーター,エンハンサー,サイレンサー等)の配列構造が大きく異なることが,遺伝子発現の違いの主因である可能性が示唆されている。外傷・熱傷・エンドトキシン血症を対象に末梢血mRNAマイクロアレイ解析を行った比較研究では,ヒトとマウスの遺伝子発現変動パターンが著しく乖離していた2)。さらにヒトで有意に発現変化を示した約5000個の遺伝子について発現変動を調べたところ,ヒト-マウス間の相関係数は0.0~0.1とランダムレベルであることが明らかになった3)。これらの結果は,マウスモデルをヒト臨床に応用する際には慎重な解釈が不可欠であることを示している。

●パターン認識受容体(pattern rec-ognition receptor:PRR)の発現 TLRの1つであるTLR9は病原体由来DNAを認識する。TLR9はヒトでは主に形質細胞様樹状細胞およびB細胞に発現するのに対し,マウスではそれらの細胞以外に単球や骨髄系樹状細胞にも発現している。そのためマウスTLR9研究の観察結果から,ヒトにおけるTLR9活性化の効果を正確に予測するのは困難である。

●免疫病態形成におけるサイトカインの役割 抗ウイルス作用を持つサイトカインの一種であるI型インターフェロン(IFN)は全身性エリテマトーデス(SLE)の病態に深く関与しており,ヒトではI型IFN受容体サブユニット1を標的とするモノクローナル抗体であるアニフロルマブがSLE治療薬として承認されている。しかしマウスの場合,同じSLEモデルの中でもNZB/WF1マウスではI型IFN阻害によりSLE様病態が改善し,MRL/lprマウスではI型IFNは保護的に作用し,むしろII型IFN(IFN-γ)が病態を悪化させるといった複雑性を呈している。

 また免疫系そのものではなく,生物としての体のつくりや外部環境の違いも,免疫系の違いに影響を及ぼす重要な因子である。

●体重 ヒトとマウスの間には体重に顕著な差異が存在する。大型動物では1クローン当たりのB細胞数が体重に比例して増加する一方で,B細胞クローンの多様性やB細胞が体内を循環するのに要する時間の増加は,体重の増加に比して少ない。そのため体重が軽いと個々の細胞の代謝率が高くなり,細胞の増殖速度が上昇する。例えばウイルス感染後のCD8陽性T細胞の増殖速度は,マウスではアカゲザルの約2倍あると報告されている4)

●生活環境 ヒトの生活環境と異なり,マウスはSPF(specific-pathogen-free)環境で飼育される。よってマウスモデルとヒト免疫介在性疾患の類似性は限定的であり,マウスで得られた知見のヒトへのトランスレーションには,注意を払う必要がある。

 マウスモデルに基づく研究の限界が次第に明らかになるとともに,ヒト自身の免疫機構を,ヒト由来の検体を用いて直接的か...

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東京大学大学院医学系研究科内科学専攻アレルギー・リウマチ学 教授

1995年東大医学部卒。2001年日本学術振興会特別研究員。02年東大大学院医学系研究科内科学専攻博士課程修了。06年東大病院アレルギー・リウマチ内科助教,17年より同科科長および現職。臨床に従事する傍ら自己免疫疾患を中心としたヒト免疫の研究に尽力し,21年には東大病院アレルギー・リウマチ内科の患者データを基に構築した世界最大規模の機能ゲノムデータベース「ImmuNexUT(Immune cell gene expression atlas from the University of Tokyo)」の構築に携わる。