NHKスペシャル
人体 vs ウイルス
驚異の免疫ネットワーク

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2019年末に報告されてから世界中をパンデミックに陥れた新型コロナウイルス。人体、そして人間社会は、これまでどのように新型コロナウイルスとその感染症に対峙してきたのか。そしてこの先どのように共存していくのか――新型コロナウイルスがヒト細胞に感染するしくみ、ウイルスに抗う人体の免疫システムなど、豊富なビジュアル資料とともに描きながら、ヒトとウイルスの未来に迫っていく。

NHKスペシャル「人体」取材班 / 坂元 志歩
発行 2022年09月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-04962-7
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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はじめに

 生命誕生から40億年、幾度となく繰り返されてきたウイルスとの戦い。今、私たちはその最前線をリアルタイムで目撃しています。言うまでもなく2019年末に始まった新型コロナウイルスとの戦いです。目に見えない小さなウイルスが、無数の尊い命を奪い、私たちの暮らしを一変させ、社会と経済を混乱に陥れました。この文章を執筆している2022年7月現在、ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば世界の感染者数は5億5,000万人超、死者数は630万人にのぼります。まさに未曾有の規模となったパンデミック。一時期は、感染対策の徹底やワクチン接種のおかげで感染者数が減少し、終息の兆しが見えたかに思えました。しかし今、感染力を増したオミクロン株BA.5系統への置き換わりによって、再び世界的な増加に転じています。すでに日本も第7波に突入した可能性が指摘されています。新型コロナウイルスとは、本当に、本当に、厄介な敵であることを思い知らされます。
 ですが、私たち人類もやられっぱなしだったわけではありません。この2年余り、めざましい進歩を遂げたのが新型コロナウイルスをめぐる科学です。遺伝学やウイルス学、免疫学などを中心に、かつてないスピードで研究が進められました。本来、学術研究は激しい競争の世界です。しかし、この未曾有の危機を前に、科学者たちは互いに協力することを選択しました。インターネット上にはウイルスのゲノム情報を共有するしくみがつくられ、ほぼリアルタイムでウイルスの拡散や変異の追跡が可能になりました。それと同時に、まだ査読を受けていない研究結果やデータが、Twitterなどのソーシャルメディアや、bioRxivやmedRxivをはじめとするプレプリント・サーバーで次々と共有されていきました。リアルでのコミュニケーションが感染対策のために途絶する中、オンライン上で展開した地球規模の情報共有とディスカッションを通じて、“未知のウイルス”とよばれた新型コロナウイルスの正体が少しずつ解き明かされていったのです。
 NHKスペシャル『タモリ×山中伸弥 人体vsウイルス~驚異の免疫ネットワーク~』の企画が立ち上がったのは、まさに膨大な研究論文が公開されはじめた2020年4月のことでした。すでに、論文数は5万報に到達。そうした成果の中から、病気のメカニズムや治療の手立てが見つかりはじめた時期でした。ところが、現実の社会ではこのウイルスをめぐる混乱が加速しはじめていました。目に見えないウイルスが無症状の感染者によって拡散していく恐怖。加えて、不確かな情報やフェイクニュースによるインフォデミックの問題も顕在化。死者・感染者数の増加がニュースで伝えられるたびに、漠然とした不安感が高まっていく状況がありました。
 こうした状況を打破し、パンデミックの中にあっても、健やかに生きていくために公共メディアとして何ができるのか。私たちが挑んだのが、「新型コロナウイルスvs免疫細胞」の“徹底的な可視化”です。新型コロナウイルスはどのように人体に侵入し、感染を果たすのか。一方、私たちの人体に2兆個も存在するとされる多種多様な免疫細胞たちが、どのようにウイルスを検知し、連携し、撃退していくのか。貴重な顕微鏡映像と、精緻なコンピューター・グラフィックスによって、誰も見たことのないミクロの世界の戦いを映像化しました。最新科学が明らかにした私たち自身の「免疫」と「新型コロナウイルス」の激しい攻防の実態、そして免疫力の本質を深く知ることが、目に見えないウイルスへの過剰な不安を払拭し、正しく怖れるための手助けになると考えたからです。
 そして、番組のスタジオにはタモリさんとノーベル医学・生理学賞を受賞した研究者の山中伸弥さんを司会に迎え、お二人の豊富な知識とユーモアあふれる解説を交えながら、新型コロナウイルスの科学の最前線をお伝えしていきました。ありがたいことに、番組は総合視聴率15%超を記録するなど、大きな反響を得ることができました。視聴者からは、新型コロナウイルスの脅威性を深く理解できただけでなく、私たちの人体に免疫ネットワークともよべる素晴らしいしくみが備わっていること、科学の進展により治療薬・抗体薬などの戦う手立てが見つかりはじめていることに希望がもてた、といった声を数多くいただくことができました。
 『人体vsウイルス』の番組放送から2年余りが経ちました。その間に、次々と新たな変異ウイルスが登場した一方で、ノーベル賞級の成果とも言われるmRNAワクチンが実用化されるなど、新型コロナウイルスの科学はますます大きな進展を見せています。そこで本書では、番組のリサーチャーを務めたサイエンスライターの坂元志歩さんが、最新の論文を読み込み、独自に取材した内容をたっぷりと盛り込んでいます。
 chapter 1ではパンデミックを長期化させているウイルスの変異についてくわしく解説しています。そもそも新型コロナウイルスを含むRNAウイルスはなぜ変異を起こしやすいのか。そして、変異によってもたらされるウイルスのタンパク質の変化が、なぜ感染力の増大につながるのかを見ていきます。まるで精密なナノマシンのようなウイルスの姿にきっと驚かれることでしょう。
 chapter 7ではかつてないスピードで進んだmRNAワクチンがいかに革命的なものだったのか。その源流となる遺伝子治療の歴史にさかのぼりながら、驚くほどの有効性を示した新型コロナウイルスワクチンの秘密に迫っていきます。
 そして、最後のchapter 8では「ウイルスとともに生きる」というテーマで、生命とウイルスの分かちがたい関係を、進化の視点でひもといていきます。中でも興味深いのが、ウイルスとの戦いに欠かせない獲得免疫が、そもそもウイルス由来の遺伝子によってもたらされたという仮説です。生命40億年の中で、幾度となくくり返されてきたウイルスと生命の戦いがあったからこそ、今の私たちがあることを最新研究が教えてくれています。
 「人体vsウイルス」その長い歴史の賜(たまもの)として、私たちの体に備わった神秘的な免疫ネットワークの力を、この先どう活かしていくのか。そこに、この困難な時代を乗り越えていくヒントがあると信じています。

 NHKメディア総局 プロジェクトセンター
 佐藤 匠

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はじめに

introduction 新たな感染症の始まり

chapter 1 ウイルスと変異

chapter 2 ウイルスの侵入

chapter 3 潜伏期間の攻防戦

chapter 4 自然免疫の戦い

chapter 5 獲得免疫の戦い

chapter 6 重症化と後遺症

chapter 7 ワクチンの開発

chapter 8 ウイルスとともに生きる

あとがき

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