新年号特集 免疫の謎を解き明かす
個別化医療の実現に挑む
寄稿 椛島 健治,平原 潔
2026.01.13 医学界新聞:第3581号より
免疫は全身性と局所性,内因性と外因性を問わず,膨大な数の疾患群にかかわっている。一方で各疾患が呈する病態は臓器ごとに多様性があるため,疾患を層別化して患者ごとに最適な治療を提供する個別化医療の実現に向けては,各臓器の専門領域に根ざした研究の深化が不可欠と言える。本稿では臓器別の免疫研究と臨床応用について,めざましい進歩が見られる2分野を取り上げる。
皮膚
皮膚は,免疫系,神経,血管,上皮が数10μmという極めて近い距離で相互作用するユニークな臓器です。繰り返し観察やサンプル採取ができ,外用薬による介入も容易であるため,ヒト免疫研究の最前線として大きな役割を担っています。こうした特徴を背景に,皮膚疾患の診療は,病態を精密に層別化し,個々の患者さんに最適化された治療を提供する「個別化医療」の実現へと近づいています。その進展を象徴するのが,大きく3つの柱です。
第一の柱は「神経―免疫―バリアのつながり」の解明です。皮膚の痒みはもはや単なる症状ではなく,病態を悪化させる大きな要因ととらえられています。例えば,神経細胞に受容体が存在するIL-31を標的とした治療薬(IL-31受容体抗体)は,痒みを強力に抑制することで睡眠やQOLを劇的に改善し,時には行動様式にまで良い影響を与えます。痒みの的確なコントロールは,炎症の鎮静化と皮膚バリアの回復を促し,病態の悪循環を断ち切るための重要な鍵となります。
第二の柱は「再発に関わる免疫記憶」の解明です。皮膚には組織常在記憶T細胞(tissue-resident memory T cells:TRM)と呼ばれる免疫細胞が留まり,寛解後も炎症再燃の原因となります。筆者の研究グループが報告した,後天的に形成されるリンパ組織「iSALT(inducible skin-associated lymphoid tissue)」は,こうした免疫細胞の集積や再発に深く関与しています(図1)1, 2)。現在,OX40やIL-15などを標的とし,この免疫記憶を制御することで,長期的な寛解維持をめざす治療戦略が期待されています。
第三の柱は「バリア機能の低下と炎症を同時に断ち切る外用薬」の登場です。例えば外用JAK阻害薬は,炎症シグナルを強力に抑えながら,皮膚の角層機能を回復させることが可能です。これは「バリアを回復させる免疫治療」という新たな位置づけを確立しました。計画的な維持療法であるプロアクティブ療法や,痒みへの早期介入と組み合わせることで,副作用のリスクを抑えつつ患者さんの負担を大幅に軽減できます。
こうした研究成果は,実際の臨床にも大きな変化をもたらしています。アトピー性皮膚炎や結節性痒疹の臨床試験では,痒みが主要評価項目として標準化されました。さらに,患者さん自身の報告(PRO)と,TEWL(経皮水分蒸散量)や血清TARC値といった客観的指標を組み合わせることで,より精密な層別化が進んでいます。乾癬の領域では,IL-23/IL-17経路を標的とした薬剤により「皮疹の完全クリア」という目標が現実のものとなり,その概念はアトピー性皮膚炎の治療にも応用され始めています。
また研究のアプローチも進化しています。国際的なデータ共有や臨床データベースの活用により,「患者から学び,モデルで検証し,再び臨床へ還元する」という双方向の研究サイクルが加速しています。さらに,単一細胞解析や空間トランスクリプトーム解析,二光子励起顕微鏡による生体可視化といった先端技術により,個々の患者さんの病態変化を分子・細胞レベルで「見える化」できるようになりました。
今後は,①痒みの神経回路への精密な介入,②免疫記憶を標的とした寛解維持,③バリア機能と抗炎症の同時達成,④ヒトのデータに基づく層別化臨床試験,という4つの柱を統合することで,皮膚免疫学は「病態の発見→層別化→治療介入→再発予防」という理想的なサイクルを実現しつつあります。皮膚はまさに免疫学の臨床応用をリードする最前線であり,そこで得られた知見は,皮膚にとどまらず全身の疾患の理解と治療にも大きく貢献していくことが期待されます。
参考文献
1)Exp Dermatol. 2015[PMID:25865042]
2)Annu Rev Immunol. 2025[PMID:40279307]

椛島 健治(かばしま・けんじ)氏 京都大学大学院医学研究科皮膚科学教室 教授
1996年京大医学部卒。2003年同大大学院医学研究科博士課程修了。専門は皮膚免疫学,痒みの神経免疫回路,iSALT・TRM,二光子顕微鏡による生体可視化。IL-31受容体抗体,外用JAK阻害薬,抗OX40などの臨床応用を推進する。シンガポールA*STAR客員主任研究者,JACI編集委員。趣味はジョギングとゴルフ。
呼吸器
上気道から始まり肺の末梢肺胞へと続く呼吸器系はガス交換を担う器官であり,外界の空気を吸って吐くという,いわゆる“呼吸”を常に行っています。体外の異物に常に晒されている呼吸器系は,病原体排除のための物理的・免疫学的防御機構が発達している一方,免疫系が深く関与する呼吸器特有の疾患が多数あります。
病原体排除における呼吸器特異的な免疫機構は,COVID-19パンデミックを契機に研究が飛躍的に進みました1)。特にSARS-CoV-2感染における適応免疫応答の詳細な解析から,呼吸器粘膜における局所免疫の重要性が改めて認識されました2)。具体的には,上気道および肺における組織常在記憶T細胞(TRM)の局所感染防御における重要性が明らかになり,血中の免疫細胞や抗体価という全身免疫応答だけでなく,呼吸器粘膜局所での免疫応答を評価することの臨床的意義が示されたのです2)。
また,COVID-19の病態形成における免疫系の役割として,早期のT細胞応答が軽症化と関連することが示されました3)。さらに,COVID-19の重症化に,インターフェロン(IFN)に対する自己抗体産生や免疫細胞の活性化による肺内の血管炎誘導が関与することが明らかになりました4, 5)。これらの知見は他の呼吸器感染症にも応用可能であり,抗IFN抗体などの自己抗体,血管炎の程度と相関する血中myosin light chain 9値などの重症化リスク評価への活用が期待されます。ワクチン開発においても,mRNAワクチンの成功により,呼吸器病原体に対する新規ワクチンプラットフォームの可能性が示されました。特に,全身免疫と粘膜免疫の両方を誘導する次世代ワクチンの開発が注目されるほか,経鼻投与型ワクチンなど,呼吸器粘膜で直接免疫を誘導する手法は,他の呼吸器感染症への応用が期待されます6)。
免疫系が発症に深く関与する気管支喘息,COPDなどの慢性炎症疾患の分野では,病態形成の重要な役割を果たす上皮細胞由来のアラーミンサイトカイン(IL-33,TSLP,IL-25)を標的とした治療開発が進んでいます7)。アラーミンは,その受容体を高発現する2型自然リンパ球や炎症性CD4+TRMなど組織に常在する細胞集団を中心に活性化します。炎症性CD4+TRMは,転写因子HLFによって制御されることがわかっています8)。慢性炎症肺組織では異所性リンパ組織(TLS)の一種である「iBALT(induced bronchus-associated lymphoid tissue)」が形成され(図2),同部位でB細胞の成熟や抗体産生が起こるだけでなく,特異的な抗原情報を記憶したTRMが維持されます9)。さらに,iBALT特異的に増加する脂肪酸は,CD4+T細胞でのIL-33受容体発現を通じて,炎症性CD4+TRMの誘導に関与します10)。一方,気道上皮細胞,線維芽細胞などは,エピジェネティックな機序を通じて非特異的な炎症情報を記憶します11)。このように,TRMと炎症組織の構成細胞が相互に補完することで“組織の炎症記憶”を形成することから,TRM,炎症組織のTLSおよび構成細胞を「組織炎症記憶」として包括的にとらえて解析することが,難治性ヒト慢性炎症疾患の病態解明には重要と言えます。
今後は,単一分子標的治療から複数経路を同時に制御する治療への移行,TRMを標的とした新規アプローチ,気道上皮バリア機能の修復を促す治療法の開発などが期待されます。さらに,オミクス技術を活用した精密なバイオマーカー探索による個々の患者に最適な生物学的製剤を選択する真の個別化医療の実現が,呼吸器疾患治療の次なる目標となるでしょう。
参考文献
1)Cell. 2021[PMID:33497610]
2)Nat Immunol. 2025[PMID:39875584]
3)Cell. 2020[PMID:33010815]
4)Science. 2020[PMID:32972996]
5)Proc Natl Acad Sci USA. 2022[PMID:35895716]
6)Nature. 2025[PMID:40335714]
7)Immunity. 2019[PMID:30995510]
8)Science. 2025[PMID:41379973]
9)Nat Rev Nephrol. 2023[PMID:37046081]
10)Sci Immunol.2025[PMID:41134875]
11)Nature. 2018[PMID:30135581]

平原 潔(ひらはら・きよし)氏 千葉大学大学院医学研究院免疫発生学 教授
2001年新潟大医学部卒。08年同大大学院修了。09年米国立衛生研究所Visiting Fellow,13年千葉大学大学院特任准教授,准教授を経て,22年より現職。呼吸器内科医として臨床医療に5年以上携わった後,基礎医学の世界へ飛び込み,肺の慢性炎症の原因となる組織炎症記憶を解明する研究に取り組む。
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