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『がん患者の皮膚障害アトラス』より

連載 宇原久

2024.02.23

 分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬の登場により,がん薬物療法は大きく進歩した一方で,患者に見られる皮膚障害は複雑になってきています。さらに担がん状態では薬剤と直接関連しないさまざまな皮膚障害もあらわれます。書籍『がん患者の皮膚障害アトラス』は全ての医療者のために,がん患者に起こりうるすべての皮膚障害を「症候・症状」「薬剤関連」の切り口から網羅しました。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,「多形紅斑」,「帯状疱疹と単純ヘルペス,伝染性膿痂疹,皮膚カンジダ症」,「移植片対宿主病による皮膚障害」,「EGFR阻害薬・抗EGFR抗体薬による皮膚障害」の項目をピックアップし,4回に分けて紹介します。

移植片対宿主病による皮膚障害

危険度:★★☆
頻度:★★☆
皮膚科コンサルトのタイミング:診断を確定する必要があるとき(生検の依頼など)。紫外線療法を希望するとき


Point! 
1. 皮膚症状は急性GVHDの初発症状であることが多く、手掌、足底、顔面に斑状丘疹状皮疹として好発する。
2. 急性GVHDの確定診断には病理組織学的診断が必要であるが、皮疹が典型的な場合には生検は必須ではない(診断のために治療を遅らせることは避ける)。
3. 急性GVHDの重症度gradingに与える皮膚所見は、GradeⅠ:体表面積50%以下)、Ⅱ:50%以上、Ⅳ:全身性紅皮症、水疱形成である(Ⅲはなし)。
4. 慢性GVHDの診断基準に含まれる皮膚病変は、多形皮膚萎縮症、扁平苔癬(皮膚および粘膜)、硬化性苔癬である。参考所見(特徴的所見)は、色素脱失や鱗屑を付す丘疹性病変、発汗障害やそれによるうつ熱、魚鱗癬様変化、毛孔角化症、色素異常、紅斑、斑状丘疹性紅斑と瘙痒症、爪病変、脱毛(慢性GVHDに特徴的)である。
5. 鑑別診断は前処置関連毒性、アレルギー疹、感染症である。

 


GVHDとは1

 GVHDは急性と慢性に分類される。急性は移植後100日以内に発症する古典型(斑丘疹状の皮疹、嘔気・嘔吐、るいそう、水様下痢、イレウス、胆汁うっ滞性肝炎などの典型的な臨床症状を呈する群)、非典型的(古典型が100日以降も継続、100日以降に古典型の再燃、100日以降に発症した遅発性急性型)を含む。慢性型は発症時期を問わず、急性GVHDでは認められない徴候より診断する。また、慢性GVHD診断後に急性GVHDが出現した場合なども重複型として慢性GVHDに含める。

GVHDに認められる皮膚所見1

 急性GVHDでは斑状丘疹型(毛孔一致性のものもある)の形態を呈し、手掌、足底、四肢末梢、前胸部などに好発する。瘙痒感を伴う場合がある。急性GVHDの皮疹は生着症候群や薬剤の副作用との鑑別を要し、生検による病理学的診断が必要である。しかし、『造血細胞移植ガイドラインGVHD(第5版)』1は、臨床的にGVHDの皮疹として典型例では皮膚生検は必須ではなく、診断のために治療を遅らせることは避けるべきであると述べている。
 慢性GVHDの皮膚病変は診断に用いられる診断的徴候と慢性GVHDに特徴的な臨床所見ではあるが単独では確定診断できない特徴的あるいは参考所見に区別されている。診断的徴候は、多形皮膚萎縮症(毛細血管拡張、色素沈着と脱失を伴う萎縮性病変)、扁平苔癬(紫紅色の平坦な丘疹・紅斑局面)、斑状強皮症(モルフェア:限局性の光沢のあるなめし革状の病変)、硬化性病変(蝋様の光沢のある平滑な硬化局面)、硬化性苔癬(lichen-sclerosis:灰白色の光沢のある萎縮病変)の4つである。参考所見(特徴的所見)は、色素脱失や鱗屑を付す丘疹性病変、発汗障害やそれによるうつ熱、魚鱗癬様変化、毛孔角化症、色素異常、紅斑、斑状丘疹性紅斑と瘙痒症、爪病変、脱毛(慢性GVHDに特徴的)である。

鑑別診断

1)前処置関連毒性(regimen-related toxicity):多くは大量化学療法や全身放射線照射による。臨床病理組織学的に急性GVHDとの鑑別は困難である。
2)多くの薬疹。
3)感染症:毛包一致性の急性GVHDは、細菌、真菌感染症、放射線障害、ステロイドざ瘡に似る。また、急性GVHDにもHHV−6の活性化が起こり得る。

治療

 基本的に主科で全身療法が行われる。強皮症型の皮膚慢性GVHDに対し二次治療以外で効果が期待されるものにクロファジミン(抗炎症作用を持つ抗Hansen病薬)、エトレチナート313(ビタミンA誘導体)がある。PUVA療法などの光線療法が有効であった症例が報告されているが、GVHDは皮膚がん発症リスクが高いことから日常生活における紫外線防御が推奨されており、光線療法の長期的な安全性と有効性を評価する研究が必要である2

|GVHDによる皮膚障害(急性期)の経過

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1. 急性GVHD(移植24日後)。初診時。指間に細かい紅斑を認める。手足は初発部位である。
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2. 1と同一症例。手掌にはわずかに赤みがある。
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3. 1と同一症例。下肢にはほとんど皮疹はない。

|GVHDによる皮膚障害(急性期)の経過

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4. 1の症例の初診の3日後。指全体に皮疹が拡大してきている。
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5. 同じく初診の3日後。手掌の赤みも強くなってきた。
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6. 同じく初診の3日後。下肢にも細かい紫紅色の紅斑が増加してきた。

|GVHDによる皮膚障害(急性期)

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7. GVHD(移植26日後)。上眼瞼の浮腫と紅斑(皮膚筋炎のヘリオトロープ疹に似る)
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8. GVHD(移植32日後)。足趾に水疱を伴う小さい丘疹が散在している。
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9. 肘の淡紅色紅斑。皮膚筋炎のGottron徴候に似る。
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10. 指関節背面の淡紅色紅斑(皮膚筋炎のGottron丘疹に似る)。皮膚筋炎と急性期のGVHDの病理組織像は非常に似ている。

|GVHDによる扁平苔癬(慢性期の皮膚障害)

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11. 手掌。皮膚が萎縮して多数の皺を認める。球部には淡紫調の角化と鱗屑を伴う局面が散在している。臨床像は扁平苔癬である。
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12. 口唇と口腔粘膜のレース状白斑。通常の扁平苔癬の好発部位である。
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13. 移植1年後に発症してきた乾癬。組織学的には典型的な乾癬の像であった。活性型ビタミンDとステロイドの混合薬の外用で一時的に軽快したが、その後悪化したためアプレミラストを追加して皮疹は軽快した。

|移植後の乏毛

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14. 移植後に毛が細くなり以後、持続している。

|GVHDでTENに進展した例

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15. 初診時の背部。
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16. 初診から6日後の背部。表皮が剝離してきた。
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17. 初診から6日後。口腔内にびらんが出現してきた。
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18. 初診から6日後。右手掌の紅斑と小水疱。
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19. 初診から6日後。左手掌の紅斑と小水疱。
  • 参考文献
  •     1)    日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会GVHD(第5版)部会:造血細胞移植ガイドラインGVHD(第5版).日本造血・免疫細胞療法学会,2022
     https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_02_gvhd_ver05.1.pdf
  •     2)    Cowen ED: Cutaneous manifestations of graft-versus-host disease (GVHD). UpToDate, 2022
 

がん患者に起こる皮膚障害のすべてがここに。テキスト400頁超、症例写真555枚。

<内容紹介>臨床での実用性とアトラスの網羅性。両方を兼ね備えた、がん関連皮膚障害の決定版。1章では皮膚障害に対する考えかたと向き合いかたを解説し、「症候・症状編」の2章から6章、「薬剤編」の7章から10章の2つに分け、がん患者に起こる皮膚障害のほとんどをカバー。診療科を限定せず、がん診療に関わるすべてのひと(医療者・患者・家族)に向けた一冊です。

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