がん患者の皮膚障害アトラス
がん患者に起こる皮膚障害のすべてがここに。テキスト400頁超、症例写真555枚。
もっと見る
臨床での実用性とアトラスの網羅性。両方を兼ね備えた、がん関連皮膚障害の決定版。1章では皮膚障害に対する考えかたと向き合いかたを解説し、「症候・症状編」の2章から6章、「薬剤編」の7章から10章の2つに分け、がん患者に起こる皮膚障害のほとんどをカバー。診療科を限定せず、がん診療に関わるすべてのひと(医療者・患者・家族)に向けた一冊です。
編著 | 宇原 久 |
---|---|
発行 | 2024年02月判型:B5頁:432 |
ISBN | 978-4-260-05084-5 |
定価 | 14,300円 (本体13,000円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
この本の読みかた・使いかた──まえがきにかえて
本書について
2000年代以後の分子標的薬の登場によりがん薬物療法は大きく進化し、また、同時に特殊な皮膚障害も発現するようになった。特に2014年以後の免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連の副作用は、出現時期や有害事象のタイプと重症度が予測できないこと、臨床像や経過が通常の皮膚障害と異なる様相を呈するため、「免疫チェックポイント阻害薬関連の皮膚障害」としての特別な対応が必要になった。
本書は、がん治療の現場で遭遇する皮膚疾患を網羅したアトラスである。薬剤関連の皮疹に限定せず、がん患者に好発するcommon diseaseにも触れた。また、症例写真に加え、重症度の評価法、診察すべきポイント、緊急度、皮膚科医への紹介のタイミング、主科や患者自身で対応が可能な処置方法などについて、がん患者に焦点を当てて解説した。
本書は大きく分けて2つのパートから成っている。前半の第1~6章は「症候・症状編」として、皮膚関連の症候・症状にフォーカスし、それらの診断と対策について解説した。後半の第7~10章は「薬剤編」として、薬剤からみた皮膚障害について記載した。
執筆に際し、本文は公開されている公的なガイドラインやエキスパートオピニオンにできるかぎり沿って記載したが、それらとは別にNOTEまたはMEMOとして筆者のこれまでの経験や診療のコツなどの個人的な見解や工夫も述べた。こちらについては必ずしも一般的ではない見解が含まれていることに注意していただきたい。
ここで各章について簡単な紹介をしておく。
第1章 がん患者に何らかの皮疹が出現したときの診断と治療に関する一般的な考えかた
第2章 がん患者に起こる重症度別の皮疹のタイプとその特徴的な所見、対応方法
第3章 がん患者が罹患しやすい皮膚感染症
第4章 内臓がん(血液がんを含む)を疑うべき皮膚症状
第5章 薬物以外の治療や担がん状態で起こる皮膚障害・皮膚疾患
第6章 がん患者の口腔粘膜に起こる障害・疾患
第7章 免疫チェックポイント阻害薬による皮膚障害
第8章 分子標的薬による皮膚障害
第9章 細胞障害性抗がん薬による皮膚障害
第10章 支持療法(抗菌薬、NSAIDsなど)による皮膚障害
第1章は総論であり、がん診療で皮疹に遭遇した際の一般的な考えかたを述べた。誰もが頭を悩ませる「抗がん薬の再投与」についても触れた。皮疹の形状から、皮疹のタイプ、重症度、対応方法、皮膚科医への紹介のタイミングなどについて調べたい場合は前半の第2~6章を、薬剤からみた皮膚障害について調べたい場合は主に第7章から後半を参照いただきたい。そのほか、本全体としては章を跨いで紹介している皮疹や皮膚障害もあるため、索引を利用すると相互補完的に調べることができると思う。
本書の使いかた
本書の主な読者として想定したのは、①がん患者の診療に関わる医師・看護師・薬剤師を含めたすべての医療従事者(皮膚科以外)、②患者さんとそのご家族、そして③皮膚科医である。
①がん患者の診療に関わるすべての医療従事者(皮膚科以外)
・ 第2章では、皮疹の緊急度(皮膚科への紹介のタイミングを含む)を筆者個人の印象によって分類したタグを付した。色と緊急度との関係は「赤は緊急」、「橙はすこし急ぐ」、「黄はなるべく早く」、「緑は主科での対応が困難なら皮膚科紹
介」である。ご活用いただきたい。
・ 記載可能なものには、「皮膚科コンサルトのタイミング」も記した。各項目内では特に皮膚科へ紹介していただきたい症候や重症度について解説した。ただし、基本的には緊急度に関係なく気軽に皮膚科医に相談していただきたい。
・ 所見の理解のために可能なかぎり多くの症例写真を掲載した(残念ながら、ほんのわずかばかり自験例の写真ではないものもありご容赦願いたい)。臨床写真のみから診断を導くのは皮膚科医であっても難しいが、皮膚科医以外の医療従事者にも診断や重症度判定のポイントが分かるよう心がけて解説した。
・ 抗がん薬治療前に想定される副作用(脱毛など)に関する患者さんからのよくある質問に対する回答例も用意した。
②患者さんとそのご家族
・ 本書は医療専門職向けの書籍であり、一般の方には難しい内容も多く含んでいるが、家庭でもできる対応方法やスキンケアを紹介している。また脱毛などの抗がん薬の副作用に関する想定質問と回答集も参考になるかもしれない。
③皮膚科医
・ 抗がん薬は新規に上市される薬剤の多くを占めている。皮膚科医は日々新薬による未知の皮膚障害と遭遇している。我々皮膚科医が薬疹を疑った場合は、最新版の薬疹情報〔福田英三、福田英嗣(編)〕や各薬剤のインタビューフォームや医中誌、PubMedで当該薬剤の薬疹のデータを参照する。しかし、日々の診療中の時間的な制約の中においてはすべての情報にアクセスできない場合も多い。そこで本書は2023年前半時点で入手できたなるべく最新の情報の記載を目指した。しかし、副作用情報は日々更新されているので、是非最新のインタビューフォームも参照いただきたい。皮膚障害に関して他科からのコンサルテーションに対して正確に対応し、紹介元に十分な情報を返すことは皮膚科医の仕事の重要な部分を占めている。日々新規の皮膚障害に向き合っている皮膚科医の少しでも助けになればありがたいと思っている。
謝辞
本書は札幌医科大学皮膚科学講座の総力を結集して執筆した。分子標的薬については信州大学皮膚科で抗がん薬の皮膚障害を専門に診ている芦田敦子先生と奥山隆平先生にお願いした。斉木実先生(長野市)にも臨床写真を提供いただいた。遺伝性疾患については、札幌医科大学遺伝子診療科の櫻井晃洋先生にご協力をいただいた。ポジショニングについては理学療法士の田中義行氏(大起エンゼルヘルプ)にWEBで直接ご指導いただいた。本書の作成に当たっては薬疹情報第20版(福田英三先生、福田英嗣先生)が大変役立った。1980年から40年以上の長きにわたり薬疹データを集積し、出版を続けてこられた両氏と関係者に敬意を表し感謝を述べる。なお、多くの方に執筆をお願いしたが、最終的に著者(宇原)の責任の下で新規のエビデンスを追加しながら改変した。本書における用語の記載については各種学会のガイドラインなどに従ったが、一部には学会間で異なるなどいまだ確定していないものもあり、それらについては執筆時に検討しつつ都度判断した。したがって本書の内容の責はすべて著者にある。本書の問題点などについてお気づきの点があれば是非ご連絡をいただきたい。
本書の作成を打診してくれたのは編集者の三橋輝氏で、数年間にわたる執筆を辛抱強く支えてくれた。患者さんとそのご家族を含め、ご協力いただいたすべての方に感謝する。
2023年12月
宇原 久
目次
開く
この本の読みかた・使いかた──まえがきにかえて
第1章 がん患者に発症した皮膚障害の基本的な考えかた
1 現時点における重症度の評価
2 重症化の予測
3 原因薬の検索
4 現在投与中の薬剤の中止の判断
5 薬剤投与の再開についての判断
NOTE アレルギーについて
疾患・症候編
第2章 がん患者の皮膚障害重症度別アトラス
最も危険な皮膚疾患(重症1)
1 スティーヴンス・ジョンソン症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN)
2 多形紅斑(EM)/多形滲出性紅斑(EEM)
3 薬剤性過敏症症候群(DIHS)
4 急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)
5 アナフィラキシー
6 インフュージョンリアクション
警戒すべき皮膚症状(重症2)
7 水疱
8 皮膚びらん潰瘍
9 出血斑(紫斑)
中等症
10 斑状丘疹状皮疹
11 蕁麻疹
12 光線過敏症(薬剤性)
軽症
13 ざ瘡様皮疹
NOTE ステロイド外用薬の副作用(酒さ様皮膚炎)
14 手足症候群
NOTE 健康サンダルは足によくない!
15 爪囲炎
16 爪の変化・爪剝離・爪脱落
NOTE 爪障害と靴の履き方
17 多毛症
18 脱毛
NOTE 脱毛Q&A──患者さんからよく聞かれる質問と回答例
NOTE ミノキシジル5%ローション(リアップ®5X)は放射線脱毛に有効?
NOTE 抗がん薬による睫毛の脱毛に対してビマトプロストは有効?
19 皮膚乾燥・瘙痒症
NOTE 筆者の疑問
NOTE 100円ショップのすぐれもの
20 皮膚萎縮
21 色素異常
第3章 がん患者における皮膚感染症
1 帯状疱疹と単純ヘルペス
2 伝染性膿痂疹
3 皮膚カンジダ症
4 白癬症
5 疥癬
第4章 内臓がんと関連する皮膚症状(デルマドローム)
1 デルマドローム総論
NOTE 内臓がんと膠原病──皮膚筋炎と強皮症
2 好中球性皮膚症
3 IgA血管炎
4 浮腫
5 腫瘍随伴性天疱瘡
6 転移性皮膚がん(がんの皮膚浸潤)
NOTE Mohsペーストの使用例
NOTE 亜鉛華デンプン粉による止血
7 遺伝性腫瘍に認められる皮膚病変
NOTE 分子標的薬と遺伝性疾患──BRAF阻害薬とCFC症候群
第5章 がん治療に伴うその他の皮膚障害
1 抗がん薬の血管外漏出
2 造影剤による皮疹
3 放射線治療による皮膚障害
4 移植片対宿主病による皮膚障害
5 栄養障害による皮疹
6 ストマ周囲の皮膚トラブル
7 褥瘡
NOTE 介護保険制度
第6章 がん患者の口腔粘膜障害
1 口内炎──薬剤性/あふた性/扁平苔癬・天疱瘡/感染症
薬剤編
第7章 免疫チェックポイント阻害薬による皮膚障害
1 紅斑(斑状)丘疹状皮疹
2 多形紅斑
3 白斑
4 扁平苔癬・苔癬型皮疹
5 乾癬型皮疹
6 水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡
7 SJS、TEN
8 免疫チェックポイント阻害薬によるその他の皮膚障害
第8章 分子標的薬による皮膚障害
1 EGFR阻害薬・抗EGFR抗体薬
2 マルチキナーゼ阻害薬
3 EGFR/HER2阻害薬
4 プロテアソーム阻害薬
5 BCR-ABL阻害薬
6 mTOR阻害薬
7 ALK阻害薬
8 抗CD20抗体
9 CDK4/6阻害薬
10 抗VEGFR抗体薬
11 抗Nectin-4抗体微小管阻害薬複合体(ADC製剤)
12 抗CCR4抗体
13 抗アンドロゲン薬
第9章 細胞障害性抗がん薬による皮膚障害
1 アルキル化薬
2 白金製剤
3 代謝拮抗薬
4 トポイソメラーゼ阻害薬
5 微小管阻害薬
6 抗腫瘍性抗生物質
7 その他の抗がん薬
第10章 支持療法による皮膚障害
1 抗菌薬・抗ウイルス薬による皮膚障害
2 NSAIDsによる薬疹
3 ステロイドによる皮疹
4 オピオイド(麻薬鎮痛薬)によるかゆみ
5 高尿酸血症治療薬による薬疹
6 降圧薬・抗血栓薬による皮膚障害
7 サプリメント・漢方薬などによる皮膚障害
NOTE 皮膚科医から言いにくい薬の中断や変更のお願い──原因薬の同定は難しい
索引
症例写真対応キーワード索引
あとがき
書評
開く
がん皮膚障害の現場へ強力推薦!私も虜になりました。
書評者:山崎 直也(国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科長)
本書を一目見て虜になりました。大変な驚きでした。需要がありながら今までに無かった本当に欲しかった一冊です。
がん患者にはがんそのものの進行によって起こる皮膚症状と,各種治療によって起こる皮膚障害があります。かつて,いわゆる抗がん薬治療で患者さんが良く知っていて恐れている副作用といえば,脱毛と悪心嘔吐がその代表でした。ところが21世紀になって,分子標的薬が次々に登場し,2010年代には免疫チェックポイント阻害薬の進歩によって免疫療法がはっきりとがん治療の太い柱になるに従い,がん薬物療法の副作用は様変わりし,皮膚障害は,その代表的なものの一つとして注目されるようになりました。しかし,各種臓器がんの治療医は皮膚障害の診断治療にまで手が回りませんし,逆に皮膚科医が日進月歩の多くの新規抗がん薬の皮膚障害マネジメントを的確に行うことは大変困難であるといわざるを得ませんでした。本書はその問題を一気に解決してくれる一冊です。
皮膚障害,皮膚疾患はその大部分が生命にはかかわらないものであることからどうしても軽くみられがちです。近年では“アピアランスケア”ということを耳にする機会が増えました。がん治療が外来へとシフトし,がん患者が社会とのかかわりを保ちながら治療を始め,長く継続することがとても増えてきました。直接生命を脅かさなくても外見の変化ががん患者の社会的な健康を脅かすことを考えなければなりません。もちろん見逃せば生命を脅かすいくつかの重症皮疹を早期に診断することも重要です。
本書はがん患者に何らかの皮疹が出現したときの基本的な考え方,重症度別の特徴的な所見と対応の方法から始まって,近年の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による皮膚障害に関する最新の知識だけでなく,従来の細胞障害性抗がん薬や鎮痛薬などの支持療法による皮膚障害,つまりいわゆる薬疹も改めて勉強できる構成になっています。その上がんの進行そのものによって皮膚が障害を受ける場合や内臓がんに随伴するデルマドロームとしての皮膚症状,さらにウイルス,真菌,細菌による感染症そして粘膜の障害まで豊富な臨床写真を使ってわかりやすく示されており,本書は内容の濃さとボリュームで群を抜いています。がん患者に起こり得る全ての皮膚障害をこれほど網羅した書籍は初めてです。臨床の現場で活用できる非常に実践的な一冊として強くお薦めいたします。