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めざせ「ソーシャルナース」! 社会的入院を看護する

連載 石上雄一郎

2024.11.12

膵がん患者の80歳女性。抗がん薬治療を行っていたが,本人の身体的負担が強くなり,本人は治療中止を希望されていた。同居し介護を行っているキーパーソンの長男とも病状や治療方針は共有され,残された時間は在宅医療を希望されたため調整を始めていた。しかし,遠方に住む長女が病棟に現れ,「ここの病院のせいで悪くなった。大学病院に転院させてほしい。このまま死んだら訴えてやる」と,全く異なる意見を述べた。大学病院をはじめ,さまざまな病院へ情報提供を行ったが受け入れ先はなく,その間に状態が悪化し,在宅医療も導入できず亡くなられた。

 正式な病名ではないが,疎遠であった家族が治療方針の急な変更を要求することは,カリフォルニアドーター症候群と呼ばれている1)。今回は意見の対立の総集編として,これまでの記事を復習しながら読むことをお勧めする(第916回参照)。

 カリフォルニアドーターの家族が来院すると,医療者は疲弊し治療にも影響が出てしまうのでその発生を未然に防ぐことが重要である。遠方に家族がいるとわかった時点でリスクと認識すべきと筆者は考える。日本では家族内で相談して治療方針を決めることが一般的であるが,情報が誰にどの程度共有されているかは家族によって差が大きい(家族内でSNSなどを用いて共有している場合や,家族内の対立があり心配をかけたくないため病状の悪化は伝えていない場合など,さまざまな状況があり得る)。特定の家族だけを呼ぶと一方に肩入れしていると判断され得るので,一度に全員を対象に一貫性を持って説明する。また,説明内容を書面に残すことも重要である。

第1314回参照〕

・とても重要な話なので,遠方のご家族も一緒に聞いたほうが良いと思います。病院に来るのが難しかったり,話が難しくてうまく伝えられなかったりすることも多いので,私から一度電話してもよろしいでしょうか。

 ここからは実際にカリフォルニアドーターが来院した時のことを考えよう。時間をかけて丁寧に話し合いを重ねた末に決まった方針をちゃぶ台返しされた場合,医療者が怒りを感じるのは当然である2)。家族から「訴えるぞ!」と脅されることもあり,それまでの多大な時間や感情的な労力を考えると疲弊しても不思議ではない。ただし患者の価値観に沿った治療を行うためには,怒りに任せて正論だけを述べて闘ってはいけない。医療者自身がアンガーマネジメントを身につけよう。

第15回参照〕

 患者家族はなぜカリフォルニアドーターになるのだろうか。遠方の家族は病状を知ったとき,信じられないという否認の気持ちと,もっと親孝行をすればよかったという自責の念や罪悪感を覚えると言われている。また,周りと軋轢を起こすことで介護者としての自分の存在を確立したいという説もある。いずれにせよ,家族は遠方であっても第2の患者であり,悲しみの二次感情として怒りが表出されやすい。相手が怒っている場合には事態を収めるために共感表明謝罪を行う。「家族内で伝えていると思っていた」などと言っても怒りがさらに増すだけなので,NURSEスキルを用いて感情に対応しよう()。

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 NURSEスキルを用いたカリフォルニアドーターへの声掛けの例

 セカンドオピニオンや転院の希望は,医療者のいろいろな考えを聞いて確認したい場合もあるが,病院や主治医への不信感が募った結果から発せられることもあるため注意が必要だ3)。患者家族の怒りの感情レベルが少し下がってきたところで,患者本人への思いを聞くことはとても重要であり信頼関係の構築にもつながる。

第16回参照〕

 患者本人や他の家族に,カリフォルニアドーターがどんな人物かを尋ねることは比較的容易だろう。医療者の感情として少し困惑していることを患者や家族と共有することで協力が得られやすくなると感じる。

・長女さんはどんな娘さんでしたか? おそらくご心配だとは思うのですが,急にいろいろと言われたため,私たちも少し困惑してまして。
・どんな仕事をされてるんですか?
・普段から話をされますか?
・最後にお会いされたのはいつですか?

 家族内で意見の相違がある場合は,治療方針の擦り合わせが必要となるので,再度家族全員が参加する話し合いの場を設ける。遠方であればビデオ電話なども活用すると良い。医療者は次回の話し合いの日程を決めて家族内で話し合うことをを促し,患者本人の変化は随時家族に共有する。

 なお,セカンドオピニオンは患者の権利であり,断らないことが原則である。断ると,病院は何か隠していることがあるのではないか? とさらに不信感を強めてしまう。

 現実的には患者に残された時間との兼ね合いで転院はできなくても,電話や手紙での迅速な相談を試みるプロセスを踏むことが重要になる場合がある。ただし,明らかに不適切な要求で,患者に利益をもたらす可能性がない場合や治療義務の限界を超えていると判断される場合は,要求された治療を行う義務は倫理的にはない4)。こうしたケースでは,複数の医療者での判断や透明性を持ったプロセスで対応し,カルテ記載を行うことが重要となる。

 亡くなった後,看護師から長女へ電話をかけたところ,「仕事が忙しいことを言い訳に,実家にも帰れず,母に何もしてあげられなかった。コロナ禍でずっと面会もできておらず,一緒の時間もなかった。せめて家族の役割としては,できる限りの治療方法を探すという選択肢しかなかった」と自責の念を語り,涙されていた。

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 カリフォルニアドーターが来院したときのポイント

1)J Am Geriatr Soc. 1991[PMID:2010590]
2)J Palliat Med. 2010[PMID:20597714]
3)Crit Rev Oncol Hematol. 2021[PMID:33675905]
4)Am J Respir Crit Care Med. 2015[PMID:25978438]

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