めざせ「ソーシャルナース」! 社会的入院を看護する
[第16回] 怒っている患者にどう対応するか?②患者や家族の怒りのマネジメント
連載 石上雄一郎
2024.08.13 医学界新聞(通常号):第3564号より
CASE
肺がん末期の90歳男性。薬も飲めなくなり,余命は数日かもしれないという状況であったため,娘は付き添いを希望していた。しかし,コロナ禍による病院のルールとして長時間の面会を断っていた。担当看護師は「最期の時間も一緒に過ごさせてもらえないのか? それでも看護師か?」と家族から怒りを向けられた。病院のルールと家族の思いの板挟みとなり,なんと答えれば良いか看護師は困っていた。
医療者が患者や家族の怒りに対応するために
患者の怒りにうまく対応できなければ,病歴や正確な情報すら引き出せず通常の医療が提供できなくなる。そして,時間とエネルギーを浪費して後味の悪さが残るだけでなく,医療者の人生にも傷跡を残し得る。まずは医療者自身が自らの怒りに向き合うことが必要であると前回(本紙第3563号)述べた。今回は,患者の怒りに対してどう向き合うかを紹介する(図)。

1)怒りの原因を見極める
怒っている患者にこう答えればうまくいくという定型的な回答はない。怒っている理由により,対応は当然異なるからだ。状況から理解できることもあれば,病気が背景にあることもある。怒りを向けられると自分が責められていると感じるものだが,多くは医療者を責めているわけではない。患者の怒りの大半は恐怖・罪悪感・自責の念などの悲しみの感情から生まれる二次感情である。終末期においてはグリーフ(喪失への反応)のプロセスとして怒りが起こることは珍しくない1)。また怒りには積み重ねの側面もある。目の前の患者の怒りが,過去に病院から裏切られたなどの怒りが蓄積した結果である場合もある。やり場のない怒りは医療者に向けられやすく,心理学的には「置き換え」と呼ばれる。
また,怒りの感情を表出するのでなく,無口になる,話してくれないなど,静かに怒りを表出するケースもあるだろう。そうした場合には,今までの医療への不信感や不満をオープンに聴くことが重要と考える。医療者に対する不信感を感じ取ったら,自分がいかに信頼できる存在で,患者の味方であるかを示す必要がある。不信感をオープンに語ってもらうことで信頼関係が回復し,より良いケアに向かえるだろう。
2)感情のレベルを下げる声掛けをする
相手が感情的に高ぶっている際の釈明は逆効果である。釈明がうまくいったとしても,それまでに蓄積していた他の怒りが出てきてしまい,売り言葉に買い言葉の状況が発生してしまう。病院のルールを一方的に話してしまうと怒りが増すため,ルールは感情レベルが下がってから伝えるほうが良い。
話し方としては,相手につられずに,ゆっくりと落ち着いた口調で話すことを心がける。そしてまずは,相手の感情をドレナージすることが必要であり,できるだけ中断せずに聴くよう努める。話していくうちに相手の感情レベルは下がってくる。ここでは,NURSEスキルを存分に用いて,怒りが正当な感情であることを認め,状況を理解しようと背景を探索し,患者が勇気を出して伝えてくれたことに敬意を払う言葉を使おう(表)。

また適切な謝罪,特に共感表明謝罪も重要である。医療者は,責められないように簡単に謝ってはいけないという教育を受けてきたために,「謝っても良いのか?」と思われる方もいるだろう。患者家族からすると,こんなことになったのに,「謝罪の1つもない。何とも思わないのか?」という怒りにつながることがある。医療者側に何らかの問題があるときは責任を認めるような謝罪は必要だが,医療者側に大きな問題がなくても,「このような状況になって申し訳ない」と“状況”について謝ることは誠実な対応と受け取られる2)。この時,問題を医療者と切り離すことも意識する。「先生が治...
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