めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する
[第13回] 意見の対立をどう乗り越えるか?⑤患者の意向が家族の説得により変わるとき
連載 石上雄一郎
2024.05.14 医学界新聞(通常号):第3561号より
CASE
大腸がんステージ4の75歳女性。夫と2人暮らしで息子が遠方に住んでいた。抗がん薬治療を行っていたが,効果がない状況となっており,「抗がん薬の治療は本当に大変だったからやめたい。夫と家で苦痛なく過ごせたらそれでいい」と本人は述べていた。この発言を受けて今後の治療方針を話し合うため患者家族も交えて面談したところ,「できる限り息子のために抗がん薬治療を継続したいので,他の病院を受診したい」と患者本人が表出する気持ちが変わっていた。この気持ちは患者の本心なのか,担当看護師はモヤモヤしていた。
今回は,患者の意向が家族と話した後に急に変わるケースを考える。患者の意思は家族から“不当な影響”を受けることがあると言われている1, 2)。例えば「本人が話せる状態であるのに,一緒に来ている家族が一方的に話し,本人が話せないケース」「元気でいてほしいからと家族が治療をお願いしているケース」「年金や保険金の受領など金銭的な理由で家族が治療を希望するケース」などさまざまである。こうしたケースに直面した際,医療者もまた感情的になりやすいため,慎重に対応したい(図)。
医療者は自分から見えていない世界があることを認識する必要がある。患者は家族・社会の中で生きているため,本人の意向以外も意思決定に大きく影響し,本人の気持ちより家族の気持ちを優先する自由が当然存在する。特にアジア圏では「関係性の自律」という概念も浸透しており,自己決定より家族との和を重んじることはよくある。患者自身の自由よりも,家族に負担をかけたくないという思いが優先されるのかもしれない。
家族はモビールにたとえられることがある。家族の悲しみは本人にも影響し,患者家族の気持ちが揺れたら患者本人も揺れることがある。家族を悲しませたくないという理由で治療を選択している場合もある。「とても熱心なご家族さんだと感じました。どんなご家族さんですか?」と,家族が同席していない時に患者本人の気持ちや,家族への気持ちを聞くことや,家族との話し合いに至る経緯と内容を探ることは重要である。
より良い意思決定をするためには,家族システムの把握と,家族メンバーの人となりを知ることが必要となる。
1)家族の力関係・ジェノグラム(家族図)・家族の病気を把握しよう
家族
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