めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する
[第15回] 怒っている患者にどう対応するか?①医療者自身の怒りのマネジメント
連載 石上雄一郎
2024.07.09 医学界新聞(通常号):第3563号より
CASE
子宮がんステージⅣの75歳女性。痛み自体は気にされていないが,「今後どうなっていくのか?」という不安をとても強く抱かれている。本人は家に帰りたいと希望されているものの,娘さんは仕事をしているため在宅医療に対する抵抗があり,入院が続いていた。女性は娘さんによく電話をしていた。あるとき娘さんが病棟へやって来て「『痛みも取ってくれないし,病院は何もしてくれない』と母が言っていた」と看護師に怒りをぶつけた。さらに「先日病院へ行ったときも,持ち込みの備品が全然減っていなかった。もっとケアをちゃんとしてほしい」と言われ,看護師はやり場のない怒りを感じていた。
このようなケースだと,それを言うのなら「自分でみられたらどうですか?」と怒りたくなるかもしれない。怒っている患者を見たら,医療者は“自分に非はない”とつい防御的になる。しかし,怒っている相手に対して言い訳をしたり,事細かく事実関係を釈明したりすることは逆効果だ。相手が怒っている時は,どちらに非があるかの判断はせず,まずは相手と自らのイライラをなだめることが必要となる。
第9回(本紙第3550号)で紹介したように意見の対立をひもとく3ステップは,まず自分の感情に向き合うことから始まる。医療者がイライラし,自分の感情にとらわれている段階では,好奇心を持って「なぜそう思うのか?」と聞くことができないからである。今回は医療者が怒りとうまく付き合う方法について共有する。
怒りは二次感情
医療者は自分の感情に反応しないようトレーニングされているものの,医療者も人間であり,怒りの感情を抱くのは当然のことである。苦手な患者は誰にでもいる。「怒り」は危険に晒された時に大事なものを守るための自然な感情と言われている。
医療現場で生じる怒りの原因はさまざまである。感情,状況(睡眠不足,空腹,疲れ),疾患(せん妄,認知症),パーソナリティなどが複合した結果,二次感情として怒りが発生する1)。
アンガーマネジメントのスキルを身につける
アンガーマネジメントは1970年代に米国で生まれた「怒りで後悔しない」ためのスキルである。怒らないことが目標ではない。怒るべきことには上手に怒り,「まあ許せる」程度の怒る必要のないことに怒らないようにするスキルである2)。なぜ医療者がそこまで考えなければいけないのかと考える人もいるだろう。患者の対応だけでなく,医療者の教育においても「感情をぶつけるのは教育とは言わない」と語られることもある3)。怒りの感情を表に出すと損をする。怒る人は嫌われて人が寄ってこなくなり,孤立して疲弊していく。感情をうまく扱うことができたほうが長い目で見ても得をすると筆者は考える。
1)生理的欲求をまずは満たす
イライラした時にはまず生理的な欲求を満たしてもらいたい。睡眠不足であれば15~20分程度の短時間の昼寝(パワーナップ)をとる4)。空腹時は何かを食べて,トイレを我慢することはしない。生理的欲求が満たされるだけで,怒りが落ち着くこともある。
2)医療者自らの“べき”思考に気づく
思考のコントロールと行動のコントロールは普段からの心構えとしてとても重要だ。「〇〇すべき」「××するのが当たり前だ」という言葉は自分...
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