めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する
[第14回] 意見の対立をどう乗り越えるか?⑥家族内の意見が対立する場合
連載 石上雄一郎
2024.06.11 医学界新聞(通常号):第3562号より
CASE
パーキンソン病の85歳女性。誤嚥性肺炎で入院し,抗生剤治療を行ったものの,嚥下機能が低下して食事が取れない状態となっていた。患者本人は現在,発語がなく意思が不明である。今後の治療方針について経管栄養を行うか,家族面談を行った。本人と同居し介護をしている次男は,経管栄養を希望した。一方,見舞いに来た長男は管につながれて生きていくのはかわいそうだから経管栄養をしないでほしいと希望している。家族内での意見の対立に担当看護師はモヤモヤしていた。
ケアに関する希望の食い違いや,悪い結果を受け入れる家族とそうでない家族がいるなど,家族内の意見の対立はよく経験する。こうした意見の対立の多くは,意思決定に複数の家族が関与していることに起因しており,病気とは無関係に対立する家族間の問題の再燃・悪化によるケースもある。また,時々しか介護をしてくれない家族への不満など,介護者と意思決定者が異なる時にも対立が起こりやすいため慎重な対応が必要となる(図)1)。これらの意見の対立はいずれ人間関係の対立につながる。詳しくは第9回(本紙第3550号)を参照していただき,気をつけてもらいたい。

「家族内のトラブルは医療と関係ない」と怒らない
緩和ケアを受けている患者の5人に1人が家族の中で問題を抱えているとされ,メンバー間で意見が対立している家族は複雑性グリーフのリスクが高いことが知られている2)。特に代理意思決定者が法律的に決まっていない日本では,医療者と患者本人と患者家族の3者のコンセンサスで意思決定されることが多いため,患者家族内で意見が対立していると治療方針の話し合いの上で大きなハードルになる。
双方の家族の意見を聞き,多方向の肩入れをする
医療者が,対立する家族間のどちらか一方の肩を持たず,「それぞれ一理ある」というスタンスで共感的に等しく話を聞いていくことは重要である。可能であれば,面談に出席している家族全員が発言できる機会を作る。ただし,八方美人に同調するのではなく,それぞれの意見の真意を聞くことに力を尽くしてほしい3)。
配慮するポイント
1)家族間の関係性を把握する。「仲が良いか」を尋ねる
家族内で全く意見が共有されない場合や,複数の家族から別々に病状説明の依頼が来る場合は家族内の対立が隠れていることがある。そうしたことが考えられる場合,筆者はダイレクトに「仲が良いか」を尋ねることにしている。仲が良いと即答された場合は問題ないが,答えに窮する場合には仲が悪いかもしれない。通常,家族内の不仲を他人に話したい人はあまりいない。この質問は仲が悪い理由を知ることが目的ではない。この質問をきっかけに実際の家族関係や過去の重大イベント,家族内の意思決定スタイルがわかり,意思決定支援に役立つことがある。初回の面談は,何かの意思決定を迫るのではなく,家族システムとメンバーの把握に焦点を当てることになる。
・変な質問で申し訳ないのですが,家族さん同士は仲が良いほうですか?
・時々仲が悪くて何年も話してないという関係の家族さんがいて,そうした場合には意見をまとめるのが難しいので心配してお聞きしようと思いました。
2)意思決定のキーパーソンにも面談に来てもらう
もちろん家族面談の中で一致団結して,家族内で折...
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