医学界新聞

看護のアジェンダ

連載 井部俊子

2024.08.13 医学界新聞(通常号):第3564号より

 昨年,ある講演で,看護の本質は人間の,あえて限定的に言えば患者の孤独からの回避が根底にあるのではないか,「療養上の世話」や「診療の補助」という業は,そもそも患者を置き去りにしないという考え方に基づいているのではないかと述べたことで,私はそれ以来「孤独」に関心を持ち続けている。

 孤独は非歴史的なものでも普遍的なものでもない。また,単一の感情でもない。孤独は恐怖,怒り,憤り,悲しみなどさまざまな反応からなる個人的かつ社会的な感情群である。その表われ方は,エスニシティ,ジェンダー,性別,年齢のほかにも,社会・経済的階級,心理的経験,国籍,宗教など,環境によってさまざまである。孤独は心理的であるだけでなく身体的でもあり,その出現は18世紀末にさかのぼることができる。ちょうどそのころ,独りでいることの否定的な感情体験を言い表す新しい語として,「孤独」(ロンリネス)が登場した。それ以前は,「ロンリー」や「ワンリネス」という言葉は単に自分以外に誰もいないことを示すもので,それに伴う欠乏感を表すものではなかったのである1)

 今回は,2024(令和6)年6月の社会保障研究会における元内閣官房孤独・孤立対策担当室長・山本麻里氏による「孤独・孤立対策の推進について」2)の講演内容を参照してまとめた。

 孤独は主観的概念であり,ひとりぼっちと感じる精神的な状態を指し,寂しいという感情を含めて用いられることがある。孤立は客観的概念であり,社会とのつながりや助けがない,または少ない状態を指すとして,一般的なとらえ方が説明される。孤独と孤立は密接に結びついているが,孤立しているが孤独は感じていない,もしくは孤立していないが孤独を感じているということもあり得る。政策の対象となるのは,「望まない孤独」と「孤立」であり,「一人でいること」自体が問題なのではなく,悩みや困りごとが生じた際に一人で抱え込んでしまうことによる複雑化・深刻化を問題とする。したがって,孤独・孤立対策推進法では,孤独,孤立の状態を,孤独または孤立により「心身に有害な影響を受けている状態」と定義している。

 一人で抱え込むこと・悩みや困りごとの複雑化・深刻化を防ぐためには,あるいは孤独・孤立の状態にならないためには,日常にある「つながり」が必要である。例えば,雑談できる相手,一緒に趣味を楽しむ仲間,気の合う人や自分のことを応援してくれる人などの存在は,孤独・孤立の予防という観点で重要である。つまり孤独・孤立対策においては,「日常生活環境(地域社会のあらゆる生活環境)における対応」(アプローチ1),「つながり続けること」(アプローチ2),「具体的に生じた課題を解決するための緊急対応(...

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