医学界新聞

連載

2008.09.22

研究以前モンダイ

〔 その(18) 〕
論文執筆のエッセンス

西條剛央 (日本学術振興会研究員)

本連載をまとめ,大幅に追加編集を加えた書籍『研究以前のモンダイ 看護研究で迷わないための超入門講座』が,2009年10月,弊社より刊行されています。ぜひご覧ください。


前回よりつづく

 今回は論文をはじめとした研究報告書の書き方のエッセンスをお伝えしたいと思います。ご存じの通り実証系の論文には【問題-目的-方法-結果-考察-引用文献】という基本的な型がありますので順次説明していきましょう。

「問題」のエッセンス

 さて,論文の冒頭は「問題」から始まりますが,このセクションにおけるエッセンスとは何でしょうか?

 一言でいえば「その研究を“行う”意義を論証する」ということになります。たまに「論文の冒頭は先行研究をレビューする場所だ」と誤解している人がいますが,そうではありません。同じ研究がすでに行われているならば,その研究を実施する意味はありませんから,関連する先行研究を調べ,その先行研究群の中に位置づけ,研究する意義があることを論証するのがこのセクションの目的なのです。

 具体的には「このテーマに関してはAという観点から検討された研究(田口,2004,立花,2005)や,Bに関する実証的研究(野口,2000)はあるが,Cという観点から研究されたものはほとんどないため,その観点から検討を重ねる必要があろう」といった形になります。

「目的」のエッセンス

 次に当該研究の「目的」を明示します。第16回でも説明しましたが,研究の成否はこの目的に照らして判断されるため,ここがマズイとそれだけで研究は失敗とみなされてしまいます。内容が同じAでも「Aの全貌を明らかにする」と「Aの構造の一端を明らかにする」ではまったく異なりますので,文末表現まで含めて十分吟味して書く必要があります。

「方法」のエッセンス

 次にその目的を達成するために,どのような施設やフィールド,事例を対象に,どのような認識論(メタ理論)を採用し,どのような分析枠組みに基づき,どのようにデータを収集し,分析したかを明示していきます。何の理由も書かず「○○を用いた」と書いてある論文も散見されますが,選択した枠組みの妥当性は基本的に目的に照らして判断することになるため,それを選択した理由を目的を踏まえつつ論理的に書かなければなりません(詳しくは第16回を参照)。

 また研究する際には,現実的な制約があるため,必ずしも理想通りに進められるわけではありません。そうした現実的な制約について触れておくことが有効な場合もあるでしょう。

 以上から,方法のセクションでは「○○という現実的制約を踏まえたうえで,本研究の目的を達成するのに適していると考えられるAを選択した」という書き方をするのが原則となります(この部分については,第2回第3回もご参照ください)。

「結果」のエッセンス

 このセクションでは,「方法」によって得られた「結果」(構造)を明示することになります。結果として提示された統計的な結果や仮説,分類,理論,モデルといったものは,いかに厳密なものに見えても,すべて特定の目的を達成するために加工された加工物(構成された構造)であるということを忘れてはなりません(第7回参照)。よって,その結果がどのような分析過程で得られたものなのかを明示する必要があります。

「考察」のエッセンス

 考察部分では,まず「その研究を“行った意義”を書く」ことになります。その際,いくつかのポイントがあります。前回も触れましたが,まず(1)当該研究領域における学術的意義を示...

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