アナロジーに基づく一般化の活用法
連載
2008.06.23
研究以前のモンダイ
〔 その(15) 〕アナロジーに基づく一般化の活用法
西條剛央 (日本学術振興会研究員)
本連載をまとめ,大幅に追加編集を加えた書籍『研究以前のモンダイ 看護研究で迷わないための超入門講座』が,2009年10月,弊社より刊行されています。ぜひご覧ください。 |
(前回よりつづく)
今回は前回定式化した「アナロジー(類推)に基づく一般化」を実際の研究にどのように活かせばいいのかについて解説します。
数量的研究への導入例
まず次のような研究を例に考えていきましょう。1995年時点で介護士を対象に意識調査を実施した結果,通常母集団へ一般化できるとされる“統計学的に有意な結果”が得られたとします。しかし,本連載第13回で確認したように,原理的にはこうした研究結果を母集団に直接的に一般化することは不可能です。1995年に得られた結果はあくまでも“その時点の介護士の意識”に関するものであり,それ以降の介護士の意識に当てはまる保証はないからです。
こうした原理的不可能性を超える方法概念が,アナロジーに基づく一般化であり,ここでは「構造の類似性」を視点として知見の適用可能な範囲を判断していくことになります。例えば,1995年時点における介護士の意識調査の結果は,介護保険制度が施行された(介護制度という構造が大幅に変更された)2000年4月以降には当てはまらない部分が大きいのではないかと類推できるかもしれません。
しかし,1995年に得られた結果は,制度構造に大きな変化がない1999年までであれば,当てはまるケースも多いと判断しても問題ないと考えられるかもしれません。統計学的に1%有意水準をクリアしている知見であれば,その知見(構造)が偶然得られたと考えられる確率は1%ということですから,研究対象について構造の連続性(同型性)が仮定できれば,さしあたってその知見を当てはめて考えてもよいということになるでしょう。
つまりこうした場合,“構造の連続性が仮定できるかどうか”といった視点から一般化可能な範囲を模索していけばよいことになります。
他の例を挙げてみましょう。従来ならアメリカのある州で行われた看護師に対する大規模な意識調査の結果は,その時点のその母集団から得られたものである以上,日本にそのまま当てはめて考えることはできないということになります。
しかしアナロジーに基づく一般化によれば,こうした場合でも,自分の関心に照らしつつ研究の「構造化に至る軌跡」を検討し,類似性が確認できたとすれば日本における一般化可能性を検討してもよい,ということになるのです。ただしこういったケースでは,類似性といっても労働環境や制度といったことのみならず,歴史的,文化的背景など,さまざまな要因が複雑に絡んでくるため,実際にはより慎重に一般化可能な範囲を類推する必要があるといえるでしょう。
事例研究に導入するポイント
さて,前回も触れたように「どこまで一般化できるのか」と指摘されて最も困るのは,一事例研究の場合です。アナロジーに基づく一般化の真骨頂は,通常同じとみなせない対象についても類推することを理論的に基礎づけた点にあるため,事例研究における一般化可能性を拓くことができます。
アナロジーに基づく一般化によれば「構造化に至る軌跡」が明示されている限り,それを手がかりにして「この症例報告はあの患者さんに似ているから,同じプロセスをたどるかもしれない」と類推することが可能となります。
これは逆にいえば,みなさんが事例研究を行う際には,自分の知見が当てはまるかどうかを他者が吟味することができるような“提示の仕方”をしなければいけない,ということでもあり...
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