適切な「行動指導」で意欲は後からついてくる
学生・新人世代との円滑なコミュニケーションに向けて
対談・座談会 金間 大介,相撲 佐希子
2025.08.12 医学界新聞:第3576号より

初めから想いや感情をベースにした指導をするのではなく,まずは具体的な行動を指示することで若者から抵抗なく受け入れられ,その積み重ねがやがて成長実感につながる――。
日々看護学生を育成する相撲氏と,近年の若者心理についてモチベーション論の視点から研究する金間氏による対談で,価値観に隔たりのある世代間のコミュニケーションを円滑に運ぶヒントを探ります。
相撲 現在は大学で看護教員をしている相撲と申します。離職を報告に来る卒業生が多いことから,卒業後も支援を行う悩みサポートホットラインを昨年学内に設置しました(連載:「新人看護師の離職防止:卒業生の未来を支える母校の取り組み」参照)。新卒看護師の離職は増加傾向にあり,2024年度はやや改善したとはいえ,卒後1年以内に離職する看護師は依然として存在します。努力して取得した資格を無駄にしないよう,支援の必要性を感じる日々です。本日は,看護の外側の視点からのご意見をいろいろお聞かせいただけるとうれしいです。
金間 看護にかかわる研究にも最近着手したところですが,医療に関しては素人ですので本日お話を伺えるのを楽しみにして来ました。
私の専門はイノベーション論です。イノベーションを生む人への関心から,モチベーションや人材育成を研究しています。そうした研究では,キラキラした,挑戦的でリスクテイクも厭わない若者と多く接する一方,「より多数派の,目立つのが怖いと思うような若者を研究したほうが面白く,世のためになるのでは」と考えるようになり,得られた知見を書籍『先生,どうか皆の前でほめないで下さい――いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)1)にまとめました。
相撲 事前にご著書を拝読して,近年の若者の複雑で微妙な心理,金間先生が「いい子症候群」(MEMO)と呼ぶ傾向性については共感する部分もあると同時に,聞いてみたいことがたくさんあります。
金間 私はあくまでも若者の目線から見たお話を展開できればと考えていまして,ちょっと厳しい意見を申し上げてしまうかもしれませんがご容赦ください(笑)。
MEMO いい子症候群
素直でまじめだけれど,本当のところは何を考えているかわからない。人の話はよく聞くけれど,自分の意見は言わない。言われたことはやるものの,それ以上のことはやらない。目立つことに対する抵抗感は大きい。そうした傾向を持つ若者世代を指す,金間氏による造語。氏の見立てによれば,若者世代の半数程度が「いい子症候群」であり,対極に位置する「自己実現系」とされる層が1割,残りの3~4割は中間的存在。なお,「いい子症候群」は1つの社会現象であって社会課題ではない,すなわち解決すべき問題ではないと金間氏はとらえている。なぜならこの現象は,置かれた環境の中で自身が幸福に生きるための若者たちによる選択の結果にすぎないからだ。
看護学生の「キラキラ」は本物か?
金間 まずは,学生さん,卒業生とのかかわりの中で感じていることを伺いたいです。
相撲 先ほど「キラキラ」とおっしゃいましたが,看護師をめざして入学してくる学生は,最初はモチベーションが高く見えます。ただ,途中で挫折する人もいますし,親世代から「資格を取ったほうがいい」と言われとりあえず看護の道にやって来た学生もいます。
弊学の実習では学生5人に1人の教員がついて,近い距離感で膝を突き合わせて指導を行います。学生個々の性格も把握しながら密にコミュニケーションを取る形です。そうして育て上げた卒業生が,時間がたたないうちに大学にやって来て,「もう嫌になった」「メンタルにダメージを受けた」「辞めたい」とこぼし,実際に辞めてしまいます。
卒業生が就職後にどのような状況にあったのかを知りたく,就職先の看護部長と面談をしたところ,メンタル面の支援を行い,離職を防ぐよう働きかけていたそうです。しかし,「何か悩みはないですか?」と尋ねても,大抵の子は「大丈夫です」とだけ答えるようです。そしてその1週間後に突然辞めてしまう。先生のご著書に書いてある通りの動きですね。看護部が主体となってメンタルサポートを行っても,面談相手は新人看護師にとっては自身を評価する先輩や上司であり,緊張してしまう相手です。そのため,利害関係のない出身大学の教職員であれば卒業生たちの本音が聞けるのではと考え,学内にサポートホットラインを立ち上げたのです。
金間 なるほど。まずお伺いしたいのは,どこを見て看護学生のモチベーションが高いと感じるのか,ですね。
相撲 看護師に「なりたい」と入学してくる学生が多いと見受けられるからです。加えて,推薦入試では面接があり,そこで志望理由を生き生きと語る受験生が多いためでしょうか。面接で語られるエピソードの中には,受験対策として高校で指導を受けてきたと思われるものもありますが,その中でも看護師になりたい気持ちを真剣に語る学生を見極めていますし,そういう学生に入学してほしいとも思っています。
金間 私の立場から見ていると,全ての業界の方が口をそろえて同じことをおっしゃいます。面接の時は熱意があるものの,いざ入ってみるとすぐにおとなしくなる。一般企業も同じなんです。思うにこれは,若者世代にとってのテンプレートなのではないでしょうか。高校時代までにそういうトレーニングを積んでいるのではないかと私は考えています。彼らは大人向けのコミュニケーションのテンプレートを持ち,表面的には感じよく振る舞いつつも,本音を明かさない自己防衛的な姿勢を取っているのではないかと。
そもそもの価値観が違うんじゃない?
相撲 先日ある病院の看護部長と会った際に,「厳しい指導はやめた」と言われました。患者さんの生命に直結する業務の性質上,私はある程度の厳しさは必要だと思っています。看護という仕事への想いと,それに伴う厳しさです。学校では看護の仕事に潜む厳しさも含めて伝える一方で,病院側が厳しくするのをやめたとなると,教育内容にギャップが生じるのではと心配しています。また,現場で教育に当たる看護師にしても,自分たちの受けてきた教育とは異なるスタイルで新人を教えろと言われたところで,葛藤の中で教育することになるわけです。これで本当に大丈夫なのだろうかとの懸念を抱えています。
金間 優しくするということは,態度面もそうかもしれませんが,業務量を減らすことも含まれていますよね。その負荷は誰かが代わりに請け負うのでしょうか。
相撲 結局は中堅層がカバーしています。ですから私は学生たちに「あなたたちをカバーするのは誰かを常に考えなさい」と伝えています。
金間 構造的にどの現場も似ているのだなと思いながら伺っていました。
例えば公教育の現場でこのような話を聞きました。小学校の新人教員で,必ず定時の17時に帰ってしまう人がいると。翌日の授業準備はできているのかと他の教員が確認するとできておらず,代わりに40代の中堅教員が21時までかかって資料を用意したそうです。一方の新人教員はこの問題をどうとらえているのか。当人に確認したところ,授業準備はきちんと行い,問題ないと考え帰宅しているとのこと。実際の授業を確認したところ,テンプレート通りの授業はこなせていたようです。
相撲 中堅教員としては,子どもへの教育としてそれで良いのかとの葛藤を抱えてしまいそうです。
金間 それに関連して,先ほど看護への想いといったキーワードがありました。その価値観を新人にも求めることは果たして正しいのでしょうか。先輩側は新人の数倍の仕事をこなしていると認識しているかもしれませんが,その数倍の仕事はその人がやりたくてやっている仕事だと若者は考えます。そのギャップが,インタビュー調査をしていると如実に表れます。私個人としては先輩側の言い分はとてもよくわかります。素晴らしい仕事をしていることも。けれども,それを他の人にも同じように求めていいのかは別です。
相撲 確かに,おっしゃる通りかもしれません。
金間 先輩方にも言い分はあって,学校であれば「子どもたちの未来の問題」,病院であれば「命の問題」になろうかと思います。でも,それはやはり価値観の違いでしかないのです。新人からすると,「子どもの未来を考えてやった結果がこれです」という感覚でしかなくて,先輩側が価値観のギャップを正義に置き換えてしまうと,新人に引かれておしまいです。
相撲 それで言うと私は完全に学生たちに引かれていると思います……(笑)。それはいいとして,教える側の看護への想いは,若い世代に伝わっていないのでしょうか。
金間 おそらく伝わっています。こういう立場からこういう風に考えてアドバイスしてくれているのだなと理解はしているでしょう。ただ,自分の価値観とは異なるわけです。価値観とは生きる尺度ですから,そこが異なっているならば,互いに相手を尊重するしかないのだと思います。
「キャラ変更」は不可能という現実
金間 そうした価値観のギャップを感じたとき,若者がどう対処するかというと,その場では従順に振る舞うんですね。「ためになる話をありがとうございます」「来週から頑張りたいと思います」。そう言って,その場をやり過ごす。
相撲 学生たちは私の前ではとてもいい子です。素直に言うことを聞いてくれます。
金間 表面上はそうですよね。違う価値観を生きる目上からのアドバイスには逆らわず,1秒でも早くその場を切り上げたほうが楽ですから。
相撲 おっしゃることはよくわかりますし,自分自身反省するところもあります。しかし同時に,やはり看護への想いや熱いものは必要ではないかとも思うのです。生身の患者さんと向き合う仕事ですから,最低限をこなしているだけでは済まない場面が出てくるのではないかと。例えば,この看護師さんは自分を気に掛けてくれていると,患者さんは病気でつらいときだからこそよくわかるのだと思います。私自身も臨床で患者さんと接する中でこんなに面白い職業はないと徐々に看護師の仕事に惹かれていきました。ですから学生にもつらい部分を含めて,人に揉まれながら成長していってほしいと,どうしても願ってしまいます。
金間 繰り返しになりますが,その点については本当に大切だと思うし,共感します。ただ,だからといって価値観の変容まで望んでいいのかということです。価値観という内的なものを,他人が外側から変更することはできませんし,そもそもやってはいけないんじゃないでしょうか。青が好きなのに,「赤のほうがいいよ」と他人から言われて赤を好きになることはありません。基本的に,今現在の価値観は変わらないとの前提で接するしかないように思います。相手を一人の大人として尊重するのは,そういうことなのではないかなと。
相撲 その通りですね。ただ,今持っている価値観は変わらないとの前提には疑問もあります。看護師として働く中で,自分も知らない自己の側面に驚くことがしばしばありました。実践をするうちに自分の中で変わっていく部分が確かにあるのではと思います。
さりとて失いたくはない,優れた看護実践
金間 その感覚はよくわかります。そして,話してきた内容のターニングポイントが今のご発言にあるように感じています。
冒頭で看護にかかわる研究に着手したと述べましたが,具体的には中堅クラスの看護師さんに協力していただき,参与観察やインタビューを行っています。その中で,看護師さんが21時半頃に一通りの書類仕事を終えて,そろそろ休むのかなと思って見ていたら,もう一度病棟の見回りに行くという出来事がありました。戻って来たときに「どうして今見回りに行ったのですか。定期巡回の時間でしたか」と尋ねたら,「そうではないですが,今朝ある病室の患者さんが言っていたことが気に掛かり,時間ができたらもう一度見に行こうと思っていました」と返答がありました。何でもないことのように,すっとそう言うんです。私はその行動や態度になんだか感動してしまって。この人の価値観が表れた行動なのだろうと考え,続けて何のための行為なのかを尋ねると,「明日ご家族がいらっしゃるから,昨日の夜,大丈夫でしたよと伝えられたらと思って」ということでした。こうしたことを毎日のように実践しているわけです。その行動の価値は計り知れなくて,地域全体のウェルビーイングや幸福度の向上につながっていると確信しました。
相撲 良い実践ですね。働きながらそうした側面を学んでいけばいいし,実習は優れた看護場面を目にする絶好の機会です。淡々と業務としてこなせばいいのではなく,良い看護実践の源には看護に対する想いや気持ちがあることを学生には学んでほしいです。
金間 こうしたすばらしい実践や態度を失いたくない気持ちはよくわかります。そして,相撲先生がおっしゃった「実践をするうちに自分の中で変わっていく部分」があるとのお考えにも同意します。一方で,まずは「想い」や「気持ち」が大事,という部分には一抹の疑問が残ります。
精神論から「行動指導」への転換で,可能性を拓く
相撲 看護は感情労働とも言われます。看護師である前に一人の人間としての形成が大切で,それは大学カリキュラムにも反映されています。優れた看護実践の手前には,想いや気持ちがあるのではないでしょうか。
金間 順番が逆の場合があってもいいのではないかと思っているんです。「感情労働」ではなく,言うなれば「行動労働」。行動の積み重ねが大切で,時には行動次第で感情すらも変わっていくものだとの考え方です。
例えば先ほどの病棟での見回りを例にとると,患者のことを思ってやる人もいれば,ルーチンとしてやる人もいる。最初はどちらでもいいんじゃないでしょうか。気持ちがあるかどうかではなく,どういう行動を積み重ねているかで見ていく。
このスタンスは,若者も理解してくれます。具体的行動を指示して,理由も説明するんです。21時頃に必ず一回見回りに出ることにする。翌日には家族に報告する。そういう行動を決めて共有すれば,新人はその通りに動きますよね。実際に行動した後には,フィードバックを行います。2階を先に回るほうがいいだとか。気持ちの話はせず,まずは行動へのフィードバックを大切にする。そうして行動とフィードバックのサイクルを回しているうちに,新人のほうでも新たな気付きを得たり,気持ちの上での変化が起こってきたりする。いかがでしょうか。
相撲 思い当たる節があります。学内では相互あいさつのルールがあって,教員・学生問わずあいさつをし合っているのですが,学外の方がいらした際に学生があいさつをしなかった。ですから,学外の方にもあいさつをしましょうと教員から学生に指示を出しました。すると学生たちはそれ以降きちんとあいさつをするようになったのです。それによって,あいさつにとどまらず学生が変わってきた実感を教員側が得ているとの報告を受けました。
金間 モチベーションがないから行動しないのではなく,行動を変えることで結果的に気持ちが変わる好例ですね。行動が先で,モチベーションは後からついてくる。もう一つの拙著『静かに退職する若者たち――部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)2)でも書きましたが,1on1で「やる気を出しなさい」と言ってもうまくいかない場合は,具体的な行動指導が効果的なのです。
*
相撲 価値観の押し付けではなく,行動で指導する。そうすれば意欲もついてくる。看護への思いばかりにとらわれていたところに,思わぬヒントをいただきました。同時に,行動指導もすでにたくさん実践していることに気が付きました。自身が行ってきたことにも接続して,膝を打つ思いです。
金間 行動がモチベーションを変える。これは若者世代を教育する際に重要であるだけでなく,現代の人材育成全般の鍵だと考えています。相撲先生の教育方針からも非常に多くを学ばせていただきました。
(了)
参考文献
1)金間大介.先生,どうか皆の前でほめないで下さい――いい子症候群の若者たち.東洋経済新報社;2022.
2)金間大介.静かに退職する若者たち――部下との1on1の前に知っておいてほしいこと.PHP研究所;2024.

金間 大介(かなま・だいすけ)氏 金沢大学融合研究域融合科学系 教授
2004年横国大大学院工学研究科物理情報工学専攻修了。博士(工学)。文科省科学技術・学術政策研究所などを経て,21年より現職。現在はイノベーション論,マーケティング論,モチベーション論等を研究。『先生,どうか皆の前でほめないで下さい――いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)など著書多数。

相撲 佐希子(すまい・さきこ)氏 修文大学看護学部看護学科 学部長
2019年愛知淑徳大大学院ビジネス研究科ビジネス専攻博士課程修了。博士(学術)。修文大看護学部看護学科教授などを経て,24年より現職。編著に『ICTを使った看護教育・実習ハウツーBOOK』(金芳堂)など。学内に立ち上げた離職防止サポートセンターについて,医学書院NEOにて連載「新人看護師の離職防止:卒業生の未来を支える母校の取り組み」を執筆中。
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