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医学界新聞プラス
人間の本質が変わらない限り,看護は不変である
第38回日本看護学校協議会学会の話題から
取材記事
2026.08.27
第38回日本看護学校協議会学会(学会長=近森病院附属看護学校・山﨑正博氏)が8月6~7日,「AI時代の看護教育を考える――地域のいのちと暮らしを支えるために」をテーマに,新来島高知重工ホール(高知市)にて開催された。医学界新聞プラスでは,川嶋みどり氏(健和会臨床看護学研究所 所長/日本赤十字看護大学 名誉教授/日本て・あーて推進協会 代表理事)による教育講演「未来の窓を開ける鍵――変わらぬ看護の本質を求め伝えること」(座長=勤医会東葛看護専門学校・山田かおる氏)の模様を報告する。
原点に立ち返り,看護とは何かを問う
講演の冒頭,川嶋氏はAI化が超加速的なスピードで普及し,人間の価値観が根本から覆されかねない現代においてこそ,看護の本質に立ち戻る必要があると問題提起した。人間の能力を超えたかもしれない科学と技術の進歩を前に,「改めて看護とは何か,看護師とは何をする人か」を深く考えるための原点回帰が重要であると述べた。
氏は人類の歴史をひもとき,二足歩行を始めた人間が手を使って道具を作り,共同生活をする仲間のために食糧を分け合い,怪我人の世話をしてきた営みこそが「誰かの何かの役に立つ存在としての人間」の本質であり,技術の始まりであると説明する。神話の時代から現代に至るまで,形を変えながらも看護は常に存在しており,その背後には心身の苦痛を抱える病む人々を何とか救いたいという人間の普遍的な思いがあることを強調した。さらに,NHKの連続テレビ小説『風,薫る』の主人公・一ノ瀬りんのモチーフとなった大関知が1908年に出版した『実地看護法』の事例を引き合いに出し,かつて大関が行った,看護師の全人格を投入した優れた看護実践のモデルを紹介した。
医学の細分化と全人的な看護のアプローチ
20世紀後半以降,医学や医療技術は目覚ましい進歩を遂げた。画像診断や細胞・ナノレベルでの身体の改変,高度な手術や臓器移植が可能となり,人体の物質化や細分化が進んでいる。川嶋氏はこうした医療の発展の一方で,看護は身体面,心理面,社会面,そしてスピリチュアルな面までを統合した全人的なアプローチであり,医学の進歩とは相容れない独自の本質があると指摘した。
文明が進化しても,生命を維持する個体レベルの生理的機能や,人間特有の快・不快の感じ方など,人間の本質は不変である。食べる,眠る,排泄するといった日常的な営みが継続できなくなることは,病気そのものの症状よりも苦痛をもたらす。したがって,生命を維持する日常的・習慣的ケアである「身の回りの世話」こそが看護の専門性の座標軸であり,かつてヘンダーソンが説いたように「これらは医療チームの誰よりも看護師が最も優れていて,主導権を持って実施できる」と強調した。
全人的ケアで尊厳ある生と生活行動の支援をするのが看護であることは不変であり,人間の尊厳とはかけがえのない存在である個人そのものに宿る。人間が人間らしくあることは,ごく普通の生活を自分らしく送れることを意味し,認知症や障害を持つ高齢者であってもその人らしく日々の営みを送れるよう支援することが,人間の尊厳を尊重するケアにつながると語った。
効率性優先の環境が生む看護への危機感
一方で川嶋氏は,現在の臨床現場における「本質と実態との乖離」に強い危機感を示した。近年の外圧やタスクシフトの影響により,看護が「医行為」に傾き,独自の機能である療養生活の世話が疎かになっていると警鐘を鳴らす。
患者に触れず,キーボードに向かって業務を処理する傾向が強まる中,人間が人間らしくあるための日常的な営みを支えるケアの質が低下していると指摘。「看護師不足よりも,看護師がいても看護をしていない『看護不足』こそが患者を困惑させている」と述べ,効率性よりも人間性を重視し,医療機器や薬に依存しない看護の独自性を追求すべきであると強く訴えた。
看護師の手がもたらす治癒の力と未来への鍵
看護本来のアプローチは,看護師自身の手という身体ツールを用いて患者の自然の回復過程を整え,発揮させることにある。川嶋氏はナイチンゲールが『看護覚え書』で記した「病気ではなく病人を看護する」という思想を引き,自然治癒力に働きかけることこそが看護の基本であると解説した。温かいタオルでの清拭やマッサージケアなどの「手」を用いて行うケアは,交感神経の緊張を解き免疫力を向上させるなど,患者の自然治癒力を高める効果がある。このような機械化できない領域での手当ては苦痛の緩和や治癒に直結し,医療技術の追随を許さない優位性を持つと力説した。
最後に川嶋氏は,昨今の看護師不足の要因の1つとして,実践量の不足から看護師が達成感を得る機会が失われているのではないかと指摘。AI化の進展により医療の概念が問われる今こそ,効率性や身体的エビデンスのみを追究する道を是正し,患者のQOLの向上と同時に看護師自身の達成感を取り戻す必要があると説いた。そして,「医療機器や薬に依存せず,看護師自身の『手の力』を信じてほしい。看護の限りない可能性を立証し,未来の窓を開くのは看護師自身の手である」と力強く呼びかけ,講演を締めくくった。
座長を務めた山田氏は,川嶋氏の70年にも及ぶ実践・教育・研究に裏打ちされたこのメッセージを受け,「人間が人間らしくあることの保障,人間の尊厳を守るという看護の本質を私たちが手放していないか,改めて問われた」と総括した。タスクシフトが進み「患者に触れずキーボードに触れる」現状を前に,今,看護は岐路に立っている。人間は皆,ケアなしには生きていけない存在だからこそ,そのケアを担う看護の仕事に誇りを持ち,真剣に未来へ向き合っていくことの重要性を会場全体で共有し,本教育講演は幕を閉じた。
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