ナイチンゲール『看護覚え書き』入門
「看護とは何か」──ナイチンゲールの言葉はいつの時代も色褪せない
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ナイチンゲールの『看護覚え書き』は、看護を学ぶにあたり、1度は読んでほしい書籍です。しかし、いきなりその翻訳のすべてを読み通すのは、簡単なことではないかもしれません。本書は、特に重要なナイチンゲールの言葉を引用し、ナイチンゲール研究者の著者による解説により、『看護覚え書き』のエッセンスを理解することができます。ナイチンゲールの言葉から、現代にも通じる看護の基盤を学ぶことができます。
著 | 平尾 真智子 |
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発行 | 2024年08月判型:A5頁:136 |
ISBN | 978-4-260-04970-2 |
定価 | 1,760円 (本体1,600円+税) |
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序文
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はじめに
ナイチンゲールの看護における大きな業績の1つは,『看護覚え書き』を出版したことです。この本には,看護の本質が込められており,現代の問題と照らし合わせて何度も読み返す価値をもっています。なぜなら,その多くは時代を超越したものだからです。『看護覚え書き』に示されたナイチンゲールの考えは事実上,近代看護の最初のモデルであり,現在でも通用するものです。
看護の歴史は,人類の歴史と同じだけ長いものですが,看護の概念を明らかにしたのはナイチンゲールが初めてです。看護師は何をする人かについては,それまでも述べられたことはありますが,「看護とは」を言った人はいませんでした。このテーマに正面から取り組んだ最初の著作が『看護覚え書き』です。ナイチンゲールの看護の概念は「看護とは,自然が働きかけるように最善の状態にその人を置くことである」という言葉に集約されます。
近年アメリカの出版社が,自社の創立200年記念にナイチンゲールの『看護覚え書き』を再発行しました。その本には現代の有名な看護理論家であるフィッツパトリック,ジョンソン,レイニンガー,レビン,ペプロウ,ロジャース,ロイ,ワトソンなどの論文が一緒に収載されており,ナイチンゲールの考え方が自己の理論の形成にいかに影響を与えたかについてそれぞれ述べられています。またヘンダーソンも『看護論』のなかで,ナイチンゲールの考え方が近代看護の発展に影響を与えたと述べており,『看護覚え書き』は現代看護理論の土台となっていることがわかります。
このような位置づけにある『看護覚え書き』ですが,後述するように複数の版が出版されています。本書はそのなかで,ナイチンゲールの看護の考え方が最初に著された1859年の初版を取り上げ,特に重要な内容を引用し,解説していきます。この初版にはナイチンゲールが考える看護の本質が十分に述べられて,読みやすく,彼女の考えを丸ごと理解するには適切な本だからです。
『看護覚え書き』が出版された19世紀半ばは,それまでの伝統的医学が科学的医学となっていく途上にあり,細菌学が確立されていく時期に相当します。病原微生物が顕微鏡で発見され,実証されたのは1881年のことです。『看護覚え書き』を執筆した1859年当時,伝染病の原因として大気説(環境説)と接触説(細菌)がありました。ナイチンゲールは大気説(環境説)を信じていましたが,1880年代以降は細菌の存在を理解するようになっています。またベッドサイドには体温計もありましたが,大型で時間がかかり,近代的な水銀体温計が開発されたのは1860年代後半でした。このような時代による医学の動きを理解しないと19世紀の看護論を正しく読むことはできません。本書はこのような『看護覚え書き』が書かれた時代の動きについても解説しています。医学・看護学の歴史のなかで『看護覚え書き』が果たした役割についても理解することができるでしょう。
看護を学び始めた看護学生の皆さんに,この本がナイチンゲールの看護を学ぶための一助となれば幸いです。
※『看護覚え書』を「かんごおぼえしょ」と読む学生もおり,本書では『看護覚え書き』の表記を用います。また訳は,1859年発行の初版(第1版)を翻訳した,小玉香津子・尾田葉子(訳)『看護覚え書き──本当の看護とそうでない看護(新装版)』(日本看護協会出版会,2019年)より引用し,色文字にしています。
2024年7月
平尾真智子
目次
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はじめに
第1部 ナイチンゲールと『看護覚え書き』──『看護覚え書き』を読み始める前に
第1章 ナイチンゲールはこんな人
1 ナイチンゲールの生きた時代と人物像
2 ナイチンゲールの功績
3 ナイチンゲールの看護理論──看護学を学ぶ学生のために
4 ナイチンゲールと看護の訓練──臨床実習で学ぶ学生のために
5 ナイチンゲールと看護研究──卒業研究を始める学生のために
第2章 ナイチンゲール『看護覚え書き』のひみつ
1 ナイチンゲールの『看護覚え書き』の執筆と出版
2 『看護覚え書き』の種類について
3 『看護覚え書き』の各版の特徴と内容
4 『看護覚え書き』の日本への紹介
第2部 読んでみよう! 『看護覚え書き』(1859)のエッセンス
まえがき
1 看護を考えるためのヒントを書いた
2 みずから学んでほしい
序章 看護覚え書き 本当の看護とそうでない看護
1 病気を回復させる自然治癒力がある
2 自然治癒力を高める外的条件を整える
3 健康の法則と看護の法則は同じである
4 看護はアートである
第1章 換気と加温
1 「看護の第一の原則は,屋内の空気を屋外の空気と同じように清浄に保つこと」
2 ナイチンゲールが第1章で「換気」について記述したことの意味
3 「保温に細心の注意をはらわなければならない」
4 患者のためを第一に考えている人たち
第2章 家屋の健康
1 家屋の健康について
2 病気と家屋について
3 『看護覚え書き』と「神の法則」について
第3章 ちょっとした管理
1 看護における「管理」の重要性
2 責任をもつこと
3 ナイチンゲールの他の著作と管理
4 「管理」の概念の発展と近代看護としての特徴
第4章 物音
1 患者にとって害になる音と有益な音
2 看護師や見舞客の不適切な言動の患者への影響
3 ナイチンゲールが主張していることの意味
4 コミュニケーションのとり方について
第5章 変化のあること
1 単調な生活に意識的に「変化」をあたえることで回復を促す看護
2 身体が精神に及ぼす影響は知られていない
第6章 食事
1 ナイチンゲールの食事に関する援助の前提
2 ナイチンゲールの食事援助に関する方針
3 食事の現代的意義
4 ヒポクラテスの養生法と食事療法の系譜
第7章 どんな食べ物を?
1 ナイチンゲールと食品管理
2 「病人食は化学ではなく観察が決めなければならない」
3 食事の援助には細やかな観察と注意が必要
第8章 ベッドと寝具
1 ナイチンゲールのベッドと寝具に関する考え
2 ナイチンゲールの「ベッドと寝具」に関する考えの意味するところ
3 排泄物の取り扱いについて
4 病室を快適に整えることは看護師の責務である
第9章 光
1 ナイチンゲールの日光の捉え方
2 日光とミアズマ
3 適度な日光の効果
第10章 部屋と壁の清潔
1 看護という仕事の大部分は,清潔に保つことから成り立っている
2 部屋のほこりと壁の清潔の意義
3 病人にとっての苦痛と体位・姿勢・移動への援助
第11章 身体の清潔
1 身体の清潔は換気と同じくらい必要である
2 看護師と手の清潔
3 皮膚の清潔の意義
第12章 希望や助言を気楽に言う
1 ナイチンゲールの病人の見舞客の言動に関する考え
2 医療史における病人のこころへの援助
3 病人のこころへの援助の現代的意義
第13章 病人の観察
1 ナイチンゲールの「病人の観察」に関する主張
2 「病人の観察」の現代的意義──観察と看護過程
3 科学的知識と看護
4 信頼と守秘義務──看護倫理
結論
1 ナイチンゲールが「結論」で述べていること
2 ナイチンゲールが「結論」で述べていることの意味
3 19世紀と看護学の専門分化
あとがき
索引
Column
1 ナイチンゲールと統計学
2 アンガス・スミス博士の空気検査計
3 ダーウィンの時代の科学と宗教
4 ナイチンゲールの時代の家政書
5 音楽とリラクゼーション
6 単調な生活を変える笑いの効能
7 光の不足
8 感染予防と環境整備
9 ナイチンゲールとアニマルセラピー(動物療法)
10 ナイチンゲールによるバイタルサインの観察──脈拍の測定