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総合医リカレント教育の今とこれから
第17回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会の話題より
取材記事
2026.06.24
第17回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会が2026年5月29~31日,「つながる,つなげる。つなげる,つながる。」をテーマに開催された。
『医学界新聞プラス』では,前野哲博氏(筑波大学)と菅家智史氏(福島県立医科大学)が座長を務めた指定シンポジウム12「総合医リカレント教育の現在地と展望」の模様を報告する。政府の「骨太の方針2025」では、キャリア中途医師の総合的な診療能力習得に向けたリカレント教育の推進が明記され、医師の学び直しを支援する仕組みづくりが本格化している。当日は、制度設計に携わる関係者や実践者らが登壇し、総合医リカレント教育の到達点と今後の課題について議論を交わした。
人口動態の危機と「診療幅の拡大」がもたらす医師偏在対策
まず登壇した前野哲博氏は,超高齢化のピークと人口減少の深刻化,いわゆる2040年問題を背景に,総合診療の社会的ニーズと医師偏在対策,そして,学び直しを支援するリカレント教育への期待について講演した。
同氏は,急性期医療の集約化が進む一方で,各地域で回復期・慢性期医療,在宅医療,救急対応などを包括的に担う人材が不可欠になると説明。地域包括ケア体制を維持するには,臓器別専門医療だけではなく,幅広い健康問題に対応できる総合診療能力が求められるとした。しかしながら,総合診療領域の専攻医登録者数は専攻医全体の3%前後にとどまっており,「2040年には到底間に合わない」と指摘。そのため,すでに臨床現場で活躍する医師が働きながら総合診療能力を身につけるリカレント教育こそ,これからの地域医療を支える重要な方策になるとの見解を示した。
「医師偏在対策として単に人を動かそうとしても限界がある。診療の幅が広いほど,医師はより広い地域で活躍できる」と前野氏は述べ,教育を通じて医師一人ひとりの対応力を高めることが、地域医療の維持と偏在是正の双方につながると強調した。
東京都で進む総合診療リカレント教育
東京におけるリカレント教育の実践例を報告したのは,東京都立広尾病院総合診療科の小坂鎮太郎氏である。東京総合診療推進プロジェクト(TOKYO Generalist Alliance Project:T-GAP)の責任者を務める同氏は,コロナ禍において在宅療養患者への訪問診療支援に携わった経験を振り返り,「多死社会や災害などの有事に対応できる総合診療医を地域に配置する必要がある」と強調した。
実現に向けて東京都は,総合診療専門医とリカレント教育修了者を合わせて毎年100人規模で育成することを目標にT-GAPを始動。日本プライマリ・ケア連合学会や全日本病院協会が整備したオンラインコンテンツを基盤としつつ,災害医療や外国人診療といった東京都特有の課題に関する学習を追加し,総合診療を学びたい医師に対して効率的な学習機会を提供している。
さらに,家庭医療クリニックや訪問診療の現場,精神科病院などでの地域医療人材実地研修(OJT)を組み合わせることで,地域で求められる総合診療能力の習得をめざす。また,受講者同士のネットワーク形成や政策提言能力の育成にも力を入れている点がT-GAPの特徴だという。
小坂氏は、単なる臨床スキルの向上にとどまらず,BCP(事業継続計画)対策,多職種協働,患者協働を推進しながら地域課題の解決に取り組む「地域実装型ソーシャルワーク」ができるリーダーを育てたいと今後の展望を語り,取り組みを東京都の地域医療計画と連動させながら発展させていく重要性を訴えた。
病院団体と学会が連携し,総合医の学び直しと活躍の場を創出
続いて登壇した全日本病院協会の井上健一郎氏は,2018年から日本プライマリ・ケア連合学会と共同で進めてきた「総合医育成プログラム」の概要と,その発展形として2025年度に開始された「総合医リカレント実践事業 ReGeneral」について紹介した。
超高齢社会の進展に伴い,誤嚥性肺炎や心不全などのコモンディジーズを抱える高齢患者が増加する一方,臓器別専門医療の需要は相対的に減少していくと分析した全日本病院協会は,多疾患併存患者を包括的に診られる病院総合医の育成が,今後の地域医療を支える上で重要になるとして,総合医育成プログラムを推し進めている。
同プログラムはこれまでに約600人が受講し,200人以上が修了。近年は40~50代の中堅医師の参加が増え,外科系を含む他診療科からの受講も広がっているという。さらに2025年度には,厚生労働省の「総合的な診療能力を持つ医師養成のためのリカレント教育推進事業」に採択された「総合医リカレント実践事業 ReGeneral」を開始した。ReGeneralでは,従来の総合医育成プログラムを基盤に,受講料の半額化やeラーニングの導入による学び直し支援に加え,全国の医師20万人超への情報発信や,総合医を「温かく迎える」医療機関を登録するGeneral Medicineネットワークの整備を進めている。
井上氏は,総合診療専門医だけでは今後の需要を満たすことは難しいとした上で,「通常勤務を続けながら学べる仕組み」「質を担保した教育」「活躍の場の確保」の三位一体の整備が重要だと述べ,学会や病院団体,地域医療機関が連携して取り組む必要性を強調した。
プログラムの進化と教育効果
シンポジウムの後半では,総合医育成プログラムの教育設計と教育効果について報告が行われた。ReGeneralのカリキュラム開発を担当する菅家氏は,受講者の多忙さや知識レベルのばらつきに対応するため,2025年度からプログラムを刷新したことを紹介。従来の6時間連続のオンライン研修を,事前学習用の動画教材と確認テスト(非同期型学習)と,Zoomによるディスカッション中心のライブ研修(同期型学習)を組み合わせたブレンド型学習へ移行した。ライブ研修時間を約半分に短縮しながらも双方向性を維持したことで,受講者アンケートでは9割を超える高い満足度が得られているという。
続いて前野貴美氏(東京慈恵会医科大学)は,同プログラムの受講開始から1年が経過した医師43人を対象とした調査の結果を報告した。受講前後を比較したところ,「ショックの診断と初期対応」「心肺停止患者への救急対応」「アドバンス・ケア・プランニングの実践」などで実施割合の向上が認められ,約7割が「診療行動に変化があった」と回答した。
またチームマネジメントやミーティングファシリテーションなどのノンテクニカルスキルについては,調査した11項目全てで活用状況の向上がみられた。総合医育成プログラムが診療の幅を広げるだけでなく,組織運営や人材育成にも好影響をもたらす可能性を同氏は示し,今後も継続的な効果検証を進める考えを述べた。
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