- 医学
急性期の強い味方になる漢方
寄稿 加島雅之
2026.09.08 医学界新聞:第3589号より
本来は急性期のために形作られてきた体系
急性期に漢方なんて!?と思われる読者は多いかもしれない。しかし,近代化以前の東アジアにおける正当な医学は漢方であり,医学の第一のニードが急性期への対応であったことは,古今東西変わりはない。つまり,漢方も本来は急性期のために形作られてきた体系といって差し支えないだろう。このため漢方には,西洋医学で現在対応している全ての問題に対して何らかの方法論が存在しているといっても過言ではない。
もちろん,急性期における抗菌薬や手術療法といった病原体を排除する治療,輸液や昇圧薬,人工換気などの呼吸循環維持療法に関しては西洋医学の効果に圧倒的な軍配が上がる。一方で,多因子が関与する感染症・組織侵襲に伴う炎症や水分の偏在,自律神経の影響などの西洋医学の介入が難しい急性期の問題には,漢方の治療は劇的な効果を得ることができる。また,重篤疾患/侵襲的治療の律速段階となっている回復遅延やフレイル,その背景にある睡眠,食事,運動,疼痛管理などの問題に対しても漢方は実にさまざまな方法論を有している。
さまざまなシチュエーションで漢方を想起しよう
漢方の2大治療法として漢方薬と鍼灸が存在する。鍼灸は即効性が高い上,特に疼痛に関する効果が高く,救急現場での疼痛管理にも有用である可能性を示唆した論文1)も存在しているが,本稿では漢方薬について取り上げたい。
例えば,外傷に伴う創部の疼痛や腫脹に対しては,治打撲一方(ぢだぼくいっぽう:89)が有効である。同薬剤には肋骨骨折において非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と比較してより早く疼痛が改善したとの二群比較試験も存在している2)。また,熱中症などでしばしば経験する筋痙攣,腸管蠕動や尿管結石に伴う腹痛に対して芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう:68)は,内服後5~10分程度で極めて速やかに症状改善することも多い。他にも雨天などの気圧変動によって誘発された頭痛発作には五苓散(ごれいさん:17)が有効である。いずれも通常の治療の効果不十分例に追加,または1回量を通常の倍程度使用すれば単独でも頓用で十分に効果を発揮する。こうした処方は,頻繁に出会う病態との1対1対応で覚えておくことも可能であるが,もう少し漢方的な見方を取り入れて使い分けを行うと,さらに幅広い漢方薬の使い方ができる。
浮腫への処方を考える
現在,筆者をはじめ急性期に漢方を活用している7人のエキスパートが結集し,急性期漢方アカデミア(Acute phase Kampo Academia: AKA,註)と銘打ち,2023年から急性期での漢方治療の普及・啓発に取り組んでいる。これまでにAKAでは2回のwebセミナーを開催した。第1回は急性期における浮腫を,第2回は急性気道感染症をテーマに,AKAプロトコールとして漢方薬の使用法を解説した。
本稿では,第1回で取り上げた,急性期病院で比較的使用しやすい浮腫に対する漢方薬のガイドを紹介したい。局所か全身性の浮腫か,熱感や発赤を伴うものか,冷感を伴うものかで処方を検討すべき漢方薬の分類をしている(図1,2)。例えば,蜂巣炎などの局所性の熱感・発赤が強いものに対しては越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう:28)が選ばれる。うっ血性心不全などで全身性の四肢の冷えを伴う浮腫の場合は真武湯(しんぶとう:30)を応用することができる。五苓散は,いずれの場合の浮腫にも応用可能で,他の処方だけで効果不十分な場合に併用を試みることもある。こうした状況下において,これらの処方を実際に使用していただけるとその効果はすぐに実感できるであろう。
※弁膜症合併など
※遷延した炎症により生じている浮腫
参考までに,敗血症性ショック後の腸管浮腫に伴う下痢,腹水および全身浮腫の症例に対して柴苓湯を使用し,著効を得た症例を紹介したい。
90歳代男性。慢性骨髄性白血病,慢性腎臓病G4,虚血性心不全の症例で,入院前3週間の内に,直腸血管拡張による下血で2回入院。今回,結石性腎盂腎炎に伴う敗血症性ショックで入院加療となった。ショック離脱後も水様下痢と全身浮腫,C.G-CCr 6前後の腎機能の急性増悪を来していた。CTで腹水,腸管浮腫が認められ,採血でCRP3台の炎症の遷延が認められた。遷延化した炎症に伴う全身性の浮腫として柴苓湯を通常の2倍量で投与したところ翌日から下痢が消失。浮腫も改善し,C.G-CCr 15前後に安定した。
*
漢方は現代医学の病名に対して治療法を開発したわけではなく,漢方の病態診断概念である「証」に対して開発されてきた。このため,証の概念を応用すれば,先ほど紹介をしたように,より効果的にさまざまな病態に対して漢方薬を応用することができるようになる。それを知るためには,ぜひ日本最大の漢方系の学会である日本東洋医学会をのぞいてみてほしい(AKAメンバーは東洋医学会認定漢方専門医である)。読者の思われている以上に深くて広い,驚くような漢方臨床,そして研究の世界が待ち受けているはずだ。
註:AKAを構成するメンバーは,中永士師明氏(秋田大学),鍋島茂樹氏(福岡大学),熊田恵介氏(岐阜大学),吉永亮氏(飯塚病院),入江康仁氏(聖隷横浜病院),落合秀信氏(宮崎大学)と私の計7人である。第3回AKAwebセミナーは,12月12日(土)17時より,急性期の痛みを取り上げる。救急総合診療で著名な林寛之氏(福井大学)をゲストに迎え,急性期の疼痛のピットフォール,西洋医学的治療の問題点を解説いただく予定である。その後,AKAメンバーによる急性期の痛みに対応できる漢方薬の使い方を紹介する。
参考文献
1)Acupunct Med. 2018[PMID:29581138]
2)Evid Based Complement Alternat Med.2012[PMID:22888367]

加島 雅之(かしま・まさゆき)氏 熊本赤十字病院総合内科 部長
2002年宮崎医大(当時)卒業後,熊本大総合診療部に入局。同大病院,国立熊本病院(当時),熊本赤十字病院,沖縄県立中部病院で研修を行う。04年熊本赤十字病院に救急医として入職し,その後総合内科へ異動。19年より現職。23年には急性期漢方アカデミア(AKA)を立ち上げ,急性期における漢方活用の啓発・普及に尽力している。著書に『漢方医学概論』(東洋学術出版社),『漢方薬の考え方,使い方』(中外医学社)など。
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