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『高次脳機能障害を読み解く——病態と評価から考えるリハビリテーション』より

連載 深田 和浩

2026.09.04

新刊『高次脳機能障害を読み解く――病態と評価から考えるリハビリテーション』は、身体機能の知識だけではひも解けない高次脳機能障害を、病態メカニズムの理解と評価の臨床応用を軸に捉える実践書です。各症候を「患者の行動や生活機能を読み解く手がかり」と位置づけ、現場で活きる評価の使い方や動作との関連、他障害との鑑別を解説するとともに、最新のエビデンスを踏まえた介入戦略も簡潔に提示します。若手・中堅療法士から学生まで、患者を新たな視点で捉え直し、臨床での推論力と展開力を高められる一冊です。

『医学界新聞プラス』では、本書の「Chapter3 高次脳機能障害の評価と治療のポイント」より、「3.pusher現象」の一部をご紹介します。

 

脳画像所見

脳画像を理解することは,あらかじめ出現する可能性のある症状を予測し,評価を円滑に進めるうえで非常に重要である.たとえば,初回の介入前に脳画像を確認し,どのような症状が出現するかを予測する.

その後,初回の離床や起立・歩行練習を開始した際に,身体が麻痺側へ傾斜する現象が観察された場合には,再度脳画像を確認する.その際,脳画像(脳出血であればCT 画像)において視床後外側部に病変が確認されれば,pusher 現象の可能性を強く疑い,スケールなどを用いて症状の有無を判定する.

このように脳画像をみることは,pusher 現象症状を判定するための評価やスケール(後述)を適用する根拠の一つとなり,臨床的判断を補完する重要な情報となる.

 

 1. 損傷領域および損傷体積との関連


Karnath ら26)は,視床損傷に伴うpusher 現象の脳画像の特徴について解析を行った.彼らは,voxel—based lesion—symptom mapping(VLSM)という手法を用い,複数の患者の損傷脳画像を重ね合わせることにより,pusher 現象の有無と関連する脳損傷部位を特定した.

その結果,pusher 現象のない患者では視床内側に病変が集中していたのに対し,pusher 現象のある患者では視床後外側に病変が集中していることが明らかとなった(図6).視床自体は,特定の機能を担うわけではないが,上行性線維の情報を受け取り,大脳皮質の各領域へ投射する「ハブ」としての機能を有している.このため,視床後外側の損傷は,姿勢制御や空間認知に関連する皮質ネットワークへ波及的影響を及ぼす可能性がある.

また,Karnath らの研究グループであるJohannsen ら27)は,pusher 現象を呈する急性期患者を対象に,視床以外の損傷部位とpusher 現象との関連性を半球別に検討した.彼らも同様にVLSM を用いて解析を行った.その結果,右半球損傷に伴うpusher現象では中心後回が,左半球損傷に伴うpusher 現象では上側頭回,島皮質,下頭頂小葉,および頭頂葉皮質下が関連領域として抽出された(図7).

さらに,Babyar ら28)は,sparse canonical correlation analysis という統計手法を用いて,pusher 現象の出現に関連する脳領域を検討した.対象はpusher 現象を有する脳卒中患者50 名と,基本情報および身体機能障害をマッチングさせたpusher 現象のない脳卒中患者50 名であった.その結果,中心後回およびそれに隣接する下頭頂小葉の一部がpusher 現象と関連する領域として同定された.加えて,左半球損傷患者においては,病変体積とpusher 現象の重症度との間に有意な正の相関関係が認められた(図8).

 

図6.png
図6 視床出血におけるpusher 現象の脳損傷部位の特徴
(Karnath HO, et al:Posterior thalamic hemorrhage induces“pusher syndrome”. Neurology 2005;64:1014— 1019 より改変)

図7.png
図7 視床損傷以外におけるpusher 現象の脳損傷部位の特徴:損傷半球別による解析
(Johannsen L, et al:Leg orientation as a clinical sign for pusher syndrome. BMC Neurology 2006;6:30 より改変)

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図8.png
図8 pusher 現象の損傷部位の特徴
pusher 現象の病変は中心後回と下頭頂小葉に集中している.
(Babyar SR, et al:Lesion Localization of Poststroke Lateropulsion. Stroke 2019;50:1067—1073 より改変)

 

 2. 機能的および構造的切断解析


従来,視床病変および皮質病変のいずれにおいてもpusher 現象の出現が報告されてきたが,近年では局所病変のみならず,損傷に伴う脳ネットワークの機能的・構造的切断(disconnection)を解析することで,より包括的な病態理解が進められている.

Karnath らのグループであるRosenzopf ら29)は,急性期~亜急性期の脳卒中患者124 例を対象に,pusher 現象に関連する脳ネットワーク障害を検討した.機能的解析としては,安静時 fMRI データに基づく lesion network symptom mapping を用い,病変部位から推定される機能的結合の変化を評価した.

さらに,構造的切断解析により,病変に伴う白質連絡の遮断を定量化し,視床および皮質の病変ホットスポット間の線維追跡も実施した.その結果,視床病変を有する pusher 現象例では,小脳,前頭葉,頭頂葉,側頭葉に機能的ディアスキシスが認められた.特に後部外側視床は,姿勢直立感覚におけるハブとして機能している可能性が示唆された.

一方で,皮質病変例では共通の機能ネットワークへの収束は認められなかった.構造的解析では,後部視床と側頭葉,中心前回・中心後回および中心傍小葉との連絡切断が pusher 現象と関連していた.さらに線維追跡の結果,皮質病変例においてpusher 現象の発現に寄与するのは,皮質損傷そのものよりも,それに伴う後部視床への連絡遮断である可能性が示された.

以上から,この研究では,pusher 現象は後部視床の直接損傷,あるいは視床—皮質間連絡の遮断によって生じるネットワーク障害であると結論づけている.

 

 3. pusher 現象の回復経過に影響を与える脳画像の特徴


Abeら30)は,右半球損傷に伴う重度のpusher 現象例を対象に,早期に回復した群と回復が遅延した群の損傷領域を比較し,pusher 現象の回復経過に関与する脳部位を特定した.その結果,回復が遅延した群では,前頭葉皮質下に病巣が存在していたことが示された.さらに,これらの領域はpusher 現象の出現に関与するとされる皮質脊髄路の通過部位や,USN と関連のある上縦束の一部と重複しており,このような神経経路の重複障害がpusher 現象の遷延化に寄与している可能性があるとしている.

また,Salazar ら31)も,pusher 現象の回復期間に影響する脳損傷部位を明らかにするため,VLSM 解析を用いた.その結果,下前頭回,海馬,下頭頂回,縁上回,角回,側頭葉皮質,矢状層,上縦束といった領域が,pusher 現象の遷延と関連する部位として抽出された.これらの領域は,空間認知,記憶,注意といった機能に関与する前頭頭頂ネットワークに含まれており,pusher 現象の病態は局所的な損傷ではなく,広範なネットワーク障害として理解する必要があることを述べている.

 

 4. 脳画像で観察するポイント


ここでは,視床出血を例にとってpusher 現象に関係する脳画像の観察ポイントを説明したい.

 まず,画像上で視床後外側に出血が存在しているかどうかを確認する.次に,その出血がどの方向に進展しているかを観察する.たとえば,下方に進展している場合は,血腫が中脳に及ぶ可能性があり,その結果として意識障害の出現や遷延がみられることがある.一方で,外側方向への進展であれば,意識障害への影響は比較的少ない可能性があるが,代わりに感覚障害やUSN を伴うリスクが高まることが示唆される(図9).

このように,同じpusher 現象が出現する可能性がある部位の出血であっても,出血の進展が異なることで,随伴する症状も変わることがある.

 

図9.png
図9 視床出血に伴うpusher 現象における出血進展方向と身体機能障害の特徴

 

参考文献
26)Karnath HO, et al:Posterior thalamic hemorrhage induces“pusher syndrome”. Neurology 2005;64:1014—1019
27)Johannsen L, et al:Leg orientation as a clinical sign for pusher syndrome. BMC Neurology 2006;6:30
28)Babyar SR, et al:Lesion Localization of Poststroke Lateropulsion. Stroke 2019;50:1067—1073
29)Rosenzopf H, et al:Thalamocortical disconnection involved in pusher syndrome. Brain 2023;146:3648—3661
30)Abe H, et al:Delay in pusher syndrome recovery is related to frontal white matter lesions. IntJ Neurol Neurother 4:2017
31)Salazar López E, et al:Lateropulsion in Right—Sided Stroke:Brain Anatomical Correlates of Severity and Duration. J Neurol Phys Ther 2024;48:38—45

 

 

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