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これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ

連載 幸前里奈,大長洋臣,青戸和宏

2026.01.22

「微生物×抗菌薬×感染臓器」の関係を、「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で“見える化”! 『これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ』は,どんな微生物が存在し、それに対応する抗菌薬は何かという感染症の基本からスタートし、臓器ごとに感染症を起こしやすい微生物が違うのはなぜ? その臓器に到達しやすい抗菌薬は何? といった実臨床に直結する思考までをわかりやすく解説します。「医学界新聞プラス」では、初学者にとって手強く感じる感染症の全体像を直観的に理解できる本書の一部を、4週にわたりお届けします。

 

頻度 ★★ 病原性 ★★★


グラム陽性球菌(GPC)


肺炎球菌

溶けながら病気をばらまく,凶悪な莢膜をもつニューモニエ

学名 Streptococcus pneumoniae

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微生物の特徴


飛沫感染する常在菌


 主に気道の分泌物に含まれ,唾液などを通じて飛沫感染します.特に乳幼児の鼻やのどの奥に高頻度に常在し,成人では3~5% に常在しています.よって,喀痰などの検体から肺炎球菌が検出されたからといって,すべてが原因菌となるわけではありません.


莢膜をもつ


 肺炎球菌は,菌体の外側に多糖体でできたきょうまくをもっています.莢膜がバリアとなるため,白血球による貪食作用に強い抵抗性を示します.


「自爆」して周囲を巻き込む(オートリシンとニューモリシン)


 肺炎球菌は「オートリシン(autolysin)」という自己融解酵素を分泌し,その影響で菌自身が死滅します.そのため,培養を行っても比較的増殖しにくい菌とされています.
 一方,肺炎球菌が死滅する際には,「ニューモリシン(pneumolysin)」という細胞溶解毒素が放出され,これが強い炎症反応を引き起こします.つまり,肺炎球菌は「周囲巻き込み型の自爆」をする菌といえます.


ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)


 肺炎球菌には,ペニシリン系抗菌薬に対して耐性を獲得している株が存在します.


肺炎球菌尿中抗原検査


 尿中の肺炎球菌莢膜抗原を検出します.市中肺炎の患者で迷ったときには実施してもよいでしょう.ただし,鼻腔に定着しているときや肺炎球菌ワクチン接種後,さらに遺伝的に相同性の高いS. mitis/oralis による感染症(誤嚥性肺炎や感染性心内膜炎など)では偽陽性となることもあります.
 

臨床的特徴


市中肺炎で最も分離頻度が高い


 肺炎球菌は,市中肺炎の起炎菌として最も分離頻度が高い菌です.免疫からのさまざまな防御機構をもっているため,重症化することも多く,病原性の高い菌とされています.また,インフルエンザウイルスやCOVID─19 などの罹患後には,二次性細菌性肺炎の原因菌となることもあります.


肺炎以外の呼吸器感染症(中耳炎,副鼻腔炎,肺炎)


 肺炎球菌は肺炎だけでなく,感染臓器も多岐にわたり,中耳炎副鼻腔炎髄膜炎心内膜炎関節炎などの原因にもなります.なお,菌が髄液または血液などの無菌部位から検出された感染症のことを侵襲性肺炎球菌感染症といい,非常に重篤な病態です.
  このような病態に遭遇した場合には,

・感染症法の5類感染症の届出
・無脾症・脾臓低形成・脾摘歴の有無
・肺炎球菌ワクチン接種歴の確認


をお忘れなく.


髄膜炎


 肺炎球菌による髄膜炎では,ペニシリン系抗菌薬を使用する頻度が高くなりま すが,薬剤感受性試験の結果には要注意です.
 米国臨床検査標準委員会(Clinical and Labatory Standards Institute:CLSI)の2024年12 月時点での薬剤感受性基準では,表1 のとおり髄膜炎と非髄膜炎ではPCG のブレイクポイント*1 が大きく異なっています.つまり,髄膜炎以外の肺炎球菌感染症で点滴治療を行う場合には,「MIC=1 → 感性」と判定されたとしても,髄膜炎基準では「耐性」と判定されます.特に,血液培養から肺炎球菌を検出した場合には,一次感染巣が髄膜炎か非髄膜炎かの判断がつかないことから,いずれの場合も想定して2 つの判定結果をカルテに記載することが重要です.自施設でどのように報告されているか,ぜひご確認ください.

*1 薬剤感受性試験の結果に基づいて,抗菌薬が感性(S)か,耐性(R)かを判定するための基準値.

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表1 肺炎球菌のPCG のブレイクポイント

 肺炎球菌による肺炎,髄膜炎,感染性心内膜炎の3 つを合併した病態をAustrian症候群と呼びます.Austrian 症候群のリスク因子としては,脾摘後HIV感染アルコール多飲などが報告されています.
 

代表的な治療薬

 PRSP など薬剤耐性遺伝子をもつ産生株か否かで治療薬は異なりますが,基本はペニシリン系抗菌薬やセファロスポリン系抗菌薬となります.

第1 選択として使用される抗菌薬
 PCG(注射),ABPC(注射),CTRX(注射)やCTX(注射),VCM(注射)
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頻度 ★★  病原性 ★★★(Hib) ★★(その他)


グラム陰性球菌(GNR)/HaM


インフルエンザ桿菌(ヘモフィルス菌)

看板に偽りあり.ウイルスではなく細菌界のインフルエンザ

学名 Haemophilus influenzae


微生物の特徴


薬剤耐性


 βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)の産生やペニシリン結合蛋白質(PBP)の変異*1の有無によって,ペニシリン系薬に対する感受性が異なります(表1 ).

1 アンピシリンは細菌の細胞壁を作る酵素であるPBP に結合し,その働きを阻害することで細菌を殺します. PBP は薬の「鍵穴」に当たる部分で,アンピシリンはその「鍵」として作用します.しかし,細菌がPBP の 構造を変える(PBP 変異)と薬がうまく結合できなくなり,効果を失います.これが「PBP 変異による薬剤耐性」です.

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表1 インフルエンザ桿菌の薬剤耐性と感受性

 

・βラクタマーゼ産生やPBP 変異がなければ(BLNAS),ABPC が使用可
・βラクタマーゼ産生はあるがPBP 変異がなければ(BLPAR),βラクタマーゼ阻害薬配合のSBT/ABPC が使用可
・βラクタマーゼ産生の有無にかかわらず,PBP 変異があれば(BLNAR,BLPACR),ペニシリン系薬は使用できずCTRX を使用


逆に,薬剤感受性試験の結果から,以下のようにどのような耐性機序が生じているかを推測することも可能です.

・ABPC が感性ならBLNAS
・ABPC 耐性,SBT/ABPC 感性であればBLPAR
・CTRX しか効かないのであればBLNAR あるいはBLPACR

 

臨床的特徴


上気道から肺,耳,鼻,中枢神経系へと拡がる


 インフルエンザ桿菌はヒトの上気道に常在し,そこから感染が波及する部位によって多様な臨床症状を引き起こします.すなわち,下気道へ移行すると肺炎,側方へ拡がると中耳炎,前方へ進展すると副鼻腔炎,さらに中枢神経系へ到達すると細菌性髄膜炎をきたすことがあります.


Hib の病原性が高い


  インフルエンザ桿菌は莢膜の有無によって莢膜型と無莢膜型に分類されます.莢膜型のうちb 型菌(Hib)は病原性が高く,小児における髄膜炎の代表的な起炎菌として知られています.そのため,Hib 感染予防として乳幼児期からの定期的なHib ワクチン接種が推奨・実施されています.
 一方,無莢膜型は主に肺炎や副鼻腔炎などの呼吸器感染症の起炎菌となりますが,病原性はHib に比べるとそれほど高くはありません.


 

代表的な治療薬

  肺炎に対しては,感受性に応じて,ABPC(内服,注射)SBT/ABPC(注射)CTRX(注射)などを使用します.また髄膜炎に対しては,髄液への移行が期待できるCTX(注射)CTRX(注射)を使用します.
 2023 年のJANIS データ1)によると,H. influenzae の感性率は,ABPC: 42.2%,SBT/ABPC: 70.2%,CTRX: 99.7% です.この結果をおおまかにまとめると

・ABPC は約1/3
・SBT/ABPC は約2/3
・CTRX は約3/3=ほぼ100%


と,1/3 ずつアップしていくことを覚えておくと便利です.

文献
1) 「検査部門公開情報2023 年1~12 月年報」(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)
  https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2022/3/1/ken_Open_Report_202200.pdf (2024 年11 月21 日に利用)

 

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