医学界新聞プラス

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『これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ』

連載 坪井創

2026.01.15

「微生物×抗菌薬×感染臓器」の関係を、「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で“見える化”! 『これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ』は,どんな微生物が存在し、それに対応する抗菌薬は何かという感染症の基本からスタートし、臓器ごとに感染症を起こしやすい微生物が違うのはなぜ? その臓器に到達しやすい抗菌薬は何? といった実臨床に直結する思考までをわかりやすく解説します。「医学界新聞プラス」では、初学者にとって手強く感じる感染症の全体像を直観的に理解できる本書の一部を、4週にわたりお届けします。

 

感染症診療のステップ

 すべての感染症診療は,毎回,ここで紹介する流れ(ステップ)に則って行います.感染症診療に携わる皆さんは,まずはここの内容をしっかりおさえましょう.なお,職種によっては,この一部分にだけしか関与しない場合もあると思いますが,自身がかかわる診療の全体像を把握しておくことは何かと重要なので,読み飛ばしたりしないようにお願いします.

 


STEP1 その事象が感染症なのか否かの検証


 まずは,そこで問題となっている事象が本当に感染症なのかどうかを考えなければなりません.そんなの当たり前でしょ,と思われるかもしれませんが,これが意外な落とし穴なのです.というのも,発熱や炎症反応高値の原因は,必ずしも感染症ではない,という悩ましい事実があるためです.報告によってバラつきはありますが,発熱患者で感染症が原因であるのは,例えば入院患者の発熱では全体の6~7 割程度1─3),入院を要した高齢者の発熱でも全体の7 割程度4)にとどまります.そのため,診療を始める際,あるいは診療の過程で違和感を覚えた際などに,この「感染症か否か」は必ず確認しておきたいものです.
 しかし残念なことに,実際の診療現場では,ここが疎かになってしまい,発熱や炎症反応高値の患者に,その原因を検証することなく,盲目的に抗菌薬が投与されてしまっている例を多く見かけます.熱源不明で全身状態が悪い患者では,そういった対応も許容されますが,その場合も,感染症か否かの検証を常に継続し,適宜軌道修正をしていく姿勢は必要です.ここを疎かにすると,本来なら不要なはずの抗菌薬の悪影響(有害事象や薬剤耐性菌の出現)を招くだけでなく,そもそもまったく見当違いな治療を延々と行ってしまうことになります.当然,医療としてそのような状況が望ましいはずがありません.なお,この過程自体は「診断」の要素が強いため,主には医師の役割になるかと思いますが,看護師や薬剤師なども含め,「発熱≠感染症」あるいは「炎症高値≠感染症」であることを理解しておくのは,感染症診療にかかわるうえで重要です.そして何より,どの職種においても,「熱がある→ 感染症だろう→ 抗菌薬入れとけばいいや」という短絡思考(もはや思考停止!)に陥ってはなりません


STEP2 五本柱が支える感染症診療の本戦


 Step1 で(暫定的にでも)感染症と判断した場合,そこから本戦の診療に移っていきます.その過程がこのStep2 です.実践的な感染症診療の進め方については近年,数多くの書籍で紹介されており,それらは一般に,「感染症診療のロジック」と呼ばれています5,6).この過程は感染症診療の主軸であり,診療全体を支える柱です.そのイメージから,ここではあえて「感染症診療の五本柱」という呼称を用いることとします.この診療過程で大事なのは,五本柱において情報の収集・確認・活用を1 つひとつサボらず,確実に行うことです.具体的に,五本柱を意識して行う診療がどういったものになるかというと……

①どのような患者の,
②どの臓器で感染症を起こしている,
③どの微生物に対して,
④どの抗菌薬を選択して投与し,
⑤ どういった治療経過になっていくのか,フォローする


    

……といった感じです.どうですか? 1対1対応ではないにしても,いたってシンプルでしょう? 感染症診療の大部分は,この流れの繰り返しが占めています.なお,上の①~⑤は該当する五本柱を示しており,ここからはその内容について説明していきます.​​

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第一の柱 患者背景

 患者背景とは,問診や家族からの聴取,自院の診療録,他医療機関からの紹介状,お薬手帳などから得られる情報です.具体的には,主に以下のような項目になると思います.

・年齢 ・性別 ・現病歴/受診までの経過 ・既往歴/併存疾患
・内服/薬剤歴 ・食歴 ・嗜好歴 ・海外渡航歴 ・sick contact(≒周囲の感染症流行の有無) 
・動物との接触 ・sexual activity ・社会背景(生活歴,家族構成,職歴,住居環境など)

 

 例えば,年齢や免疫抑制療法の有無によって感染微生物の頻度や傾向が異なる感染症があります.病歴や生活歴などから一発で診断がついてしまうこともあります.また,診断だけでなく,治療の場面で重要な薬剤耐性菌の検出歴や抗菌薬アレルギー歴などもここで得られる情報です.このように,患者背景は感染症診療に必要な情報の宝庫であり,診療全体への貢献度は抜群,他の「柱」の支えにもなります.実際にそれらの情報が役立った例を挙げれば,キリがありません.どんな些細な情報も見逃さないようにしましょう.

第二の柱 感染臓器

 第一の柱で得られた患者情報をふまえ,身体診察や画像検査,血液検査などを追加して,感染症に侵されている臓器がどこなのかを検索するのがここです.業界用語(?)で「臓器を絞り込む」といったりします.感染臓器を特定すると,治療効果の判定にその臓器に特異的なマーカー(呼吸器感染症におけるSpO2 など)を用いることができたり,原因微生物の特定(第三の柱)の際に対象を絞り込めたりします.後者が可能なのは,基本的に微生物はランダムでは感染せず,好む臓器があるためです.そのため,感染している臓器が特定できれば,その臓器に感染症を起こす頻度の高い微生物は犯人の疑いが強まり,逆に,そこを感染の主座としない微生物の犯行である線は薄くなる……といった推理ができるのです.

第三の柱 原因微生物

 第一第二ときて,この第三の柱では,感染症という事件の主犯である原因微生物の特定を行っていきます.この過程は,微生物を「推定」するパートと,「特定」するパートに分かれます.具体的には,①患者背景と②感染臓器から考えられる微生物を推定し,微生物検査(各種検体の培養検査,迅速抗原検査,PCR 検査など)を行い,その結果から原因微生物を特定する,といったしくみです.微生物の推定は,さながら犯人像のプロファイリングです.現場(患者)の情報から犯人(原因微生物)の人物像や習性を推測,グラム染色などは似顔絵作成に当たるでしょうか.このようにターゲットを絞り込み,いよいよ次は感染症診療の要である第四の柱,抗菌薬の選択に移ります.

第四の柱 抗菌薬の選択

 抗菌薬の選択は,感染症診療の要であるのと同時に,最も苦手とされてしまうパートでもあります.各抗菌薬の特徴や選択方法については,第Ⅲ章を参照いただくとして……,ここでは,「抗菌薬」というものを使うにあたって最低限知っておいてほしいマナー・原則を紹介します.おさえておきたい原則は主に次の3つです.

①抗菌薬に「強い,弱い」という概念は存在しない
②抗菌薬は細菌に対抗する薬であり,解熱薬ではない
③微生物検査の結果を受けて,抗菌薬を変更することがある

 
 ここでは主に,誤解されている方が多い①についてお話しします.「メロペン®は最強,ペニシリンG なんて古くて弱い.それに,メロペン® は万能だから標的を外す心配もない」……といった感覚を心のどこかでもっている方もいまだ多そ うですが,まったくもって見当違いです.抗菌薬の世界には,優劣や強弱の序列は存在しません.あるのは微生物に対する守備範囲の違い(得手・不得手)のみです.何かにつけて「最強の〇〇」という称号を授けたくなる気持ちはよくわかりますが,ここはそういう話ではないのです.  たしかに守備範囲の広い抗菌薬は多く存在しますが,広けりゃイイってわけでもなく,原因微生物が判明している場合はそれに特化した,結果として,より守備範囲の狭い抗菌薬のほうが明らかに治療効率は高いです(これが③の理由の1 つ).不要なまでに広域な抗菌薬を続けることは,非常に燃費と効率の悪い治療をわざわざ行っていることになり,これは患者に適切な医療を提供しているとは到底いえません.  それに,そんな超広域抗菌薬でも当然穴があり,カバーできない細菌も,メジャーどころを含めて結構いたりします.根拠の薄い,「外す心配」すら,払拭できないのです.さらに,余計な薬剤耐性菌を生みやすい(③の理由のもう1 つ),という人類の衰退にまでつながる?!(詳細は割愛)悪いオマケもついてきます.広域抗菌薬が悪だ,といっているわけでは決してありません.要は,適材適所を考えて使いましょう,ということです.

第五の柱 治療経過の観察

 最後の柱です.抗菌薬を選択し,治療を開始したら,その効果が順調に出てくるのか経過をみていかなければなりません.適切な治療経過観察のポイントを以下に示します.

①炎症反応(特にCRP)の数値に振り回されない
②典型的な経過を知っておく
③おかしいな,と思ったら感染症診療のステップをはじめから再確認する

 
  ①は,「CRP がゼロになるまで抗菌薬を続けなきゃ!」といった,絶望の沼にはまったような診療にならないよう注意してください,ということです.炎症反応の推移も,もちろん重要ですが,感染症の治療効果判定には臓器特異的なマーカーや局所所見,全身状態の推移などのほうが役立つことがままあります.また,代表的な感染症(肺炎や尿路感染症など)では②の典型的な治療後経過を知っておくことで,そこから逸脱した場合に違和感に気づくことができるでしょう.そして,おかしいなと感じたら,「感染症診療のステップ」のStep 1 まで戻り,どこにバグが生じているのかを1 つひとつ確認して原因を探ります.「現象には必ず理由がある」という名台詞があるように,「おかしな経過」の理由は,必ず
Step のいずれか(診療の範囲内)にあります.これら①~③を考えずに,「抗菌薬が“弱い”からいけないんだ!」という恐怖に駆られ,慌てて超広域抗菌薬に変更する……というのは悪手です.モンスターパニックものの映画などでも大抵,そういう人が真っ先にやられてしまうでしょう?

 

文献
1)PMID: 17202728
2)DOI: 10. 14442/general.16.84
3)PMID: 34584431
4)PMID: 21151521
5)大曲貴夫:感染症診療のロジック 患者さんのモンダイを解決するキホンとアプローチ法.南山堂,2010
6)伊東直哉,他:感染症内科 ただいま診断中!.中外医学社,2017

 

「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で、学びを加速せよ!

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