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[第4回・夜間編]尿路感染症入院中の胸痛――念のため緊急カテしますか?
『うし先生と学ぶ「循環器×臨床推論」が身につくケースカンファ』より
連載 上原 拓樹
2025.05.23
うし先生と学ぶ「循環器×臨床推論」が身につくケースカンファ
XやYouTubeなどのSNSで循環器領域の情報発信を続ける「うし先生」が,好評を博した第1弾『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』に続いて,このたび『うし先生と学ぶ『循環器×臨床推論」が身につくケースカンファ』を刊行されました。本書は,「ヒヤリハットカンファレンス」という名でうし先生が実施していた学習会をもとに編まれた「循環器✕臨床推論」の書籍です。第1弾で登場した,10年目指導医の「うし先生」,1年目研修医の「いぬ先生」,そして新キャラクターである4年目の内科専攻医「ぺん先生」と共に,一緒に学んでいきましょう!
医学界新聞プラスでは,本書より4症例(日中編・夜間編各2症例)をピックアップして紹介していきます。
症 例 51歳女性.前日からの発熱と嘔吐
現病歴 特にこれまで医療アクセスはない.昨日から発熱と嘔吐が見られていた.本日悪寒戦慄を伴う高熱が見られたため,当院救急外来を歩いて受診した.
既往歴 なし
内服薬 なし
バイタル 血圧 108/65mmHg,脈拍 115回/分 不整,呼吸数 24回/分,SpO2 98%(自発呼吸 room air),体温 39.2 ℃.
現 症 頭頸部:所見なし.胸部:心音正常,肺音正常.腹部:所見なし.背部:左CVA叩打痛あり.四肢:浮腫なし,皮疹なし.
検 査 心電図(図1)と胸部X線(図2)を施行.血液検査と尿検査を施行し, 結果待ち(1時間ほど必要).
図1 心電図(救急受診時)
図2 胸部X線(救急受診時)
表1 血液検査(赤太字:高値,黒太字:低値)

Q1 外来の次の一手と方針,どうしますか?(複数選択可)
❶熱源検索のため,胸腹部造影CTを施行する
❷血液培養と尿培養を採取してただちに抗菌薬を投与する
❸血栓症高リスクの心房細動(atrial fibrillation:AF)として,ただちにワルファリンを開始する
❹急性心不全の可能性を考慮し,利尿薬を開始する
❺循環動態評価のため,動脈血液ガス分析を提出する
Q1カンファンレンスの続きを読む









図3 胸腹部造影CT
a:胸部,b:腹部






図4 心電図(夜間当直時)
Q2 当直医のあなたはどうしますか?
❶敗血症性心筋症と考え,ICUに入室
❷急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)を否定しきれず,緊急冠動脈造影(coronary angiography:CAG)を施行
❸糖尿病性心筋症と考え,日中心電図と心エコー検査を再検
❹甲状腺クリーゼと考え,無機ヨウ素薬とチアマゾールを開始
❺心筋虚血を懸念しつつ,心筋逸脱酵素をフォローアップ
Q2カンファンレンスの続きを読む






図1’ 左脚ブロックを示唆する心電図所見(救急受診時)





図5 CAG
a:右冠動脈,b:左冠動脈
Q3 最終診断は?
❶敗血症性心筋症
❷ミトコンドリア心筋症
❸感染性心内膜炎( infectious endocarditis:IE)
❹甲状腺クリーゼ
❺ビタミンB1欠乏症スを開始する
❺QT延長に対して硫酸マグネシウムを投与する
Q3カンファンレンスの続き・解説を読む










最終診断
急性腎盂腎炎 ⇒ 大腸菌菌血症 ⇒ 未診断のバセドウ病の増悪 ⇒ 頻脈性AF+甲状腺クリーゼ
解説
甲状腺クリーゼとは,「甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し,これに何らかの強いストレスが加わったときに,複数臓器が機能不全に陥った結果,生命の危機に直面した緊急治療を要する病態」と定義されています 4).診断の必須項目は,甲状腺中毒症(FT4もしくはFT3高値)の存在で,症状として中枢神経症状,発熱,頻脈,心不全症状,消化器症状が挙げられています.この中でも中枢神経症状が重要と考えられていますが,それがなかったとしても甲状腺中毒症+中枢神経症状以外の2項目が該当すれば疑い例になります.
ここで注目すべきなのは,甲状腺機能が未測定の場合では,循環器診療で非常にcommonな頻脈性のAFとそれによる急性心不全があれば,最低でも疑い例に該当してしまうということです.実際の甲状腺クリーゼ症例ではそれだけで説明のつかない発熱や意識障害などを合併する場合が多いですが,少なくともはじめてのAFをみたときには早期に甲状腺機能を測定することが重要です.
本症例の振り返り
今回は施設の状況によりTSH,甲状腺ホルモン値が院内測定可能でしたが,外注の場合には診断がさらに遅くなったでしょう.致死的なACSを除外しつつ,可及的早急に適切な診断と治療ができたと思います.
ところで,本症例では未治療のバセドウ病(甲状腺クリーゼになりかけ)がありましたが,造影CTとCAGを行っています.バセドウ病がactiveなときにヨード造影剤を使用しても良いのでしょうか? ヨードは甲状腺の栄養分ですが,実はその関係性は複雑です.バセドウ病治療ガイドライン 5)では一部のバセドウ病治療に無機ヨードの使用も推奨され,またもともと日本人は日常的にヨードの摂取量が多いため,ヨード造影剤の影響が少ないとも推測されています 6),しかし一方で,ヨード造影剤は甲状腺クリーゼを発症するリスクになり得るともされています 4,6,7).
本症例の甲状腺クリーゼの直接的な誘因が菌血症(敗血症)であることは間違いなく,外来で施行した造影CTも入院後に施行したCAGも,そのときの選択としては最善だったと考えます.しかし,「念のため」「~を除外したいため」に使用したヨード造影剤で甲状腺中毒症の増悪を助長する可能性も否めません.循環器診療をする上で,このような全身状態を常に意識することが大切です.
うし先生からのTake Home Message
● はじめてのAFを見つけたら,一度は甲状腺機能を確認しよう!
● 頻脈性AF合併の急性心不全をみたら,甲状腺クリーゼを除外しよう!
文献
1)日本版敗血症診療ガイドライン2020特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2020.日集中治療医誌 28(Suppl):S1-411,2021
2)日本循環器学会.急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版),https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
3)Sgarbossa EB, et al. Electrocardiographic diagnosis of evolving acute myocardial infarction in the presence of left bundle-branch block. GUSTO-1(Global Utilization of Streptokinase and Tissue Plasminogen Activator for Occluded Coronary Arteries)Investigators. N Engl J Med 334:481-487, 1996
4)日本甲状腺学会,他(編).甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017,南江堂,2017
5)日本甲状腺学会(編).バセドウ病治療ガイドライン2019,南江堂,2019
6) 綾井健太,他.甲状腺中毒症合併の急性冠症候群患者に対してヨード造影剤を使用し甲状腺クリーゼなく治療し得た1例.心臓 51:453-457,2019
7)Rhee CM, et al. Association between iodinated contrast media exposure and incident hyperthyroidism and hypothyroidism. Arch Intern Med 172:153-159, 2012
うし先生と学ぶ「循環器×臨床推論」が身につくケースカンファ
うし先生待望の第2弾!
今回は珠玉の24症例を扱う白熱カンファレンス!
<内容紹介>『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』で好評を博したうし先生の第2弾。今回は珠玉の24症例を扱う白熱カンファレンス! ST上昇+胸部絞扼感などのザ・循環器症例から、喘息患者での突然の喘鳴など一見これ循環器?な症例まで、「循環器×臨床推論」が身につく症例を集めました。
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