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[第2回・日中編]難治性胸水を伴う息切れ――利尿薬? 胸水穿刺? それとも……
『うし先生と学ぶ「循環器×臨床推論」が身につくケースカンファ』より
連載 上原 拓樹
2025.05.09
うし先生と学ぶ「循環器×臨床推論」が身につくケースカンファ
XやYouTubeなどのSNSで循環器領域の情報発信を続ける「うし先生」が,好評を博した第1弾『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』に続いて,このたび『うし先生と学ぶ『循環器×臨床推論」が身につくケースカンファ』を刊行されました。本書は,「ヒヤリハットカンファレンス」という名でうし先生が実施していた学習会をもとに編まれた「循環器✕臨床推論」の書籍です。第1弾で登場した,10年目指導医の「うし先生」,1年目研修医の「いぬ先生」,そして新キャラクターである4年目の内科専攻医「ぺん先生」と共に,一緒に学んでいきましょう!
医学界新聞プラスでは,本書より4症例(日中編・夜間編各2症例)をピックアップして紹介していきます。
症例 72歳男性.1年前からの労作時息切れ,胸水,肝障害
| 現病歴 | |
| 1年2ヶ月前 | 心膜液と両側胸水あり,他院の循環器内科を受診し,急性心膜炎の診断で対症療法を行い軽快した. |
| 7ヶ月前 | 再度労作時息切れと咳嗽,心膜液と胸水の再燃があり,前医で入院加療を行った. |
| 5ヶ月前 |
心膜液評価のため当院膠原病外来を受診したが膠原病は否定的であった.肝障害も併発していたため当院消化器内科を受診し,改善がなければ肝生検を検討する方針となっていた. |
| 今回 | 前医循環器内科で原因不明であった両側胸水の評価目的に当院呼吸器内科に紹介受診となった. |
既往歴 2型糖尿病,脂質異常症,心膜炎
内服薬 ピタバスタチン2mg/日,シタグリプチン,フロセミド20mg/日
バイタル 血圧 116/78mmHg,脈拍 96回/分,呼吸数 18回/分,SpO2 96%(自発呼吸 room air),体温 36.1℃.
現 症 頸静脈:怒張はないがやや張っている.心音:整 雑音なし,肺音:肺雑音なし.腹部:平坦 軟 圧痛なし.両下腿浮腫なし.特異的な皮疹なし.JCS -20
検 査 受診時の心電図(図1),前医の胸部X線の推移(図2),受診時の血液検査・尿検査(表1),心エコーレポート(表2)を示す.

図1 心電図

図2 胸部X線
a:受診1年2ヶ月前,b:受診7ヶ月前,c:受診5ヶ月前
表1 血液・尿検査(赤太字:高値・陽性,黒太字:低値)
表2 心エコーレポート
これはもともと2型糖尿病と脂質異常症しかなかったのに,1年以上難治性の胸水が続いた症例で,前医循環器内科では原因不明(≒循環器疾患ではない?)と判断されて当院呼吸器内科に回ってきました.まずは呼吸器内科目線で,外来での総合的な方針を考えてみようか.Q1 呼吸器内科医目線で,優先度が高い検査はどれですか?(2つ)
❶胸水穿刺
❷気管支鏡
❸胸腔鏡
❹胸部CT
❺非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)
Q1カンファンレンスの続きを読む
今回は呼吸器内科スタートなんですね.それにしても,文字で見ると病歴がわかりにくいです…….胸部レントゲンだと胸水が左優位から右優位に変わっているのが気になりますが,呼吸器内科ならやはり❶胸水穿刺じゃないですか?
あとは❹CTも必要ですね.前医の心エコーレポート(表2)からは,左室機能(LVEF:左室駆出率)は正常でTR-PG(三尖弁逆流圧較差)も上昇していないし,IVC(下大静脈) が軽度拡張している以外は特記所見がないので,心不全は否定的です.前医では胸水穿刺はしていないのですかね?
そうなんだよねぇ.みんなの言う通り,呼吸器内科外来であればまずは❹胸部CTを施行し,悪性腫瘍を含めた肺野情報を集めて,その後に❶胸水穿刺するのが一般的です.
❸胸腔鏡とか❺NPPVはどうなんでしょう?
オレも専門ではないけど,それぞれ答えるね.まず❸胸腔鏡は悪性胸膜中皮腫の評価目的で行われることがあるけど,胸水がある程度残存していないと難しいようなので,まずは穿刺だけの方がよさそうだ.❺NPPVは急性心不全には有効だけど,呼吸状態が安定した慢性胸水に使用する理由はないよね.
そしたら今回は2人とも正解ですね!
うむ,成長してきたね! じゃあ続けるよ.胸水穿刺も行うため,いったん呼吸器内科で短期入院となりました.胸腹部の造影CT(図3)を施行したところ,両側少量胸水(図3b矢印)に加えて少量腹水もあります(図3e矢印).右胸水穿刺を施行したところ,なんと漏出性胸水でした.
図3 胸腹部の造影CT
a:肺野条件, b~f:縦隔条件
ということはHFpEF(左室駆出率の保たれた心不全)ですか!?
確かにLVEFは保たれているし,肝障害はあるもののそこまで血清アルブミンは低下していないし,腎機能も正常だから,消去法だと心不全みたいな感じだよねぇ.
肝障害は大丈夫なんでしょうか? 気になっちゃいます.
実は並行して肝生検もしてもらったんだけど,病理的には「うっ血肝」が疑わしいとのことでした.
ということは,心不全によるうっ血肝ということですか.
うん,実際そのような判断になり,消化器内科と呼吸器内科から,前医ではなく当院循環器内科に受診依頼がありました.うっ血しているなら利尿薬調整をする必要があるので,入院してもらっています.じゃあ次に,循環器内科で必要な検査を考えてみようか.Q2 循環器内科として必要な検査はどれですか?
❶経食道心エコー検査
❷右心カテーテル検査
❸冠動脈造影(coronary angiography:CAG )
❹心筋生検
❺心囊穿刺
Q2カンファンレンスの続きを読む
循環器で精査というと,とりあえず❷カテーテル検査のイメージですが,冠動脈疾患は除外した方が良いんですかね? 血管リスクもあるし.
わかりました! この方は,左心機能は正常で,右心不全徴候によるうっ血肝なんですね.であれば,❷右心カテーテル検査で右心機能を評価するべきだと思います.
ぺん先生,良い視点です! 胸水は左心不全徴候でも右心不全徴候でも起こりうるけど,自覚症状と心エコーからは右心不全が主体であり,右心不全徴候で間違いなさそうです.ちなみに右心不全の鑑別疾患は何があるんだっけ?
えっと右室梗塞と…….
はい,時間切れー! ここは意外と漏れがちだけど,ぺん先生が挙げた右室梗塞以外にも,例えばARVC (不整脈原性右室心筋症)などがあります.しかし前医の心エコー(表2)では右室の収縮障害や拡張の記載はなく否定的です.ただ,ほかのところもあまり記載がないので当院で再検するべきではありますが,現状評価としては❷右心カテーテル検査がいちばん良いでしょう
やった2連続正解です! ちなみにARVCを考えて❹心筋生検をするのはどうですか?
よく知ってるね! 確かにARVCを疑ったら右室生検を行うのは重要だけど,やはりまずは心エコーで右室の拡大や収縮障害を確認したいかな.あと❺心囊穿刺については,この心膜液の量だと穿刺は難しそうです.
右心カテーテルの結果が気になります.
ほい,表3が右心カテーテル検査の結果です.PCWP(肺動脈楔入圧:PCW)は20mmHgですが,RAP(右房圧:RA) も19mmHgと高く,左房と右房がほとんど等圧です.なお,このときのCAGでは特に異常はありません.また,当院でも心エコーを再検しましたが,右房や右室拡大はほとんどありませんでした.さて,最終診断はなんだろうか?
Q3 最終診断は?
❶収縮性心膜炎
❷体質性黄疸
❸門脈圧亢進症による肺高血圧症
❹心房中隔欠損症
❺ARVC
Q3カンファンレンスの続き・解説を読む
カテーテル検査からは,右房圧が特に高いような…….
そういえば,呼吸器内科で施行したCT(図3)でも心膜液が少量貯留し,心膜も少し厚く見えました.もしかしたら❶収縮性心膜炎ですか?
正解! 変な右心不全を見たら❶収縮性心膜炎を考えるのは重要だよね.本症例ではトルバプタンなどで利尿薬強化をしたのち,外科で心膜剝離術を施行してもらいました.最終診断
再発性急性心膜炎 ⇒ 収縮性心膜炎 ⇒ 右心不全 ⇒ うっ血肝
解説
1.右心不全について
心不全は,労作時息切れや夜間発作性呼吸困難感などが主体の左心不全と,全身性浮腫が主体の右心不全に分けられます.実臨床の多くはLVEF低下(左室駆出率の低下した心不全:HFrEF)もしくはLVEF正常(HFpEF)の左心不全から始まり,心室中隔相互作用や肺うっ血からの右心負荷を経て,最終的には両心不全となることが多いです.左心機能(LVEF,左室拡張能)が正常でかつ右心不全徴候しかない場合は単独の右心不全を考慮します.
この原因として,肺高血圧症(肺性心や慢性血栓塞栓性肺高血圧症などを含む),右室梗塞,収縮性心膜炎(心膜液貯留による右心系の拡張障害を含む),先天性心疾患(特に心房中隔欠損症),心筋症(心アミロイドーシスなど),弁膜症(特にペースメーカリードによる一次性三尖弁閉鎖不全症など)が挙げられます.実臨床では,長期持続性心房細動とそれによる弁輪拡大に由来する僧帽弁・三尖弁閉鎖不全症では,慢性的な右心優位の両心不全になることが多いです.
2.収縮性心膜炎について
急性・再発性の心膜炎後に心膜肥厚することで収縮性心膜炎を発症することがあり,特に結核性心膜炎は収縮性心膜炎に移行しやすいため注意が必要です.
収縮性心膜炎の循環動態は少し複雑です(図4).健常者と比べて,収縮性心膜炎の患者さんでは吸気時の胸腔内圧の低下が心腔内圧に伝わりにくくなります.そのため左房圧低下が減少し,左房や左室への血液灌流が減少します.その結果,右房や右室への血流は相対的に増加します(両心室が逆の変化をするためdiscordant patternとも呼びます).収縮性心膜炎と一見類似した病態の拘束型心筋症では,このような吸呼気の血流変化は生じにくいです.

図4 収縮性心膜炎の循環動態
CT検査などで心膜の肥厚を確認できれば収縮性心膜炎を疑うことができますが,必ずしも明らかな心膜肥厚を伴うわけではありません.右心系の拡張障害が主病態のため,カテーテル検査での評価が有用です.右室の拡張期圧がdip and plateauを示すことが有名で,右室圧・左室圧同時圧測定を行い,拡張期圧波形が右室と左室で一致することから収縮性心膜炎を評価することができます(図5)1)し,カテーテル検査中に上記のようなdiscordant pattern(吸気時に左室収縮期圧が低下し右室収縮期圧が上昇)を確認できれば特異度の高い検査所見と言えます.根本的な治療は外科的な心膜剝離術です.

図5 左室(LV)と右室(RV)の同時圧記録
左室圧と右室圧の拡張末期圧はともに上昇し,ほとんど等圧になっています.また典型的なdip and plateauの波形を示しています.
〔小杉理恵,他.収縮性心膜炎様の血行動態を呈した重症三尖弁閉鎖不全症の一例.呼と循 61:1171-1175,2013より一部改変して転載〕
本症例の振り返り
今回は各科で評価をされ,最終的に循環器内科で診断された収縮性心膜炎の一例でした.前医循環器内科での評価では診断に至りませんでしたが,心エコー検査では一見正常に見えることもあり,診断が難しい疾患です.心不全評価を行う際には,左心不全と右心不全とに分けて考えた上で,心不全の原因を検討することが重要です(図6) 2).特に,原因不明の右心不全を診た際には一度は収縮性心膜炎を疑ってみてください.
本症例では,再発性の心膜炎の病歴もありました.炎症を繰り返すことで心膜肥厚し,収縮性心膜炎を来す場合があります.再発性心膜炎の既往歴をみた際にもぜひ収縮性心膜炎を疑うようにしましょう.

図6 右心不全・左心不全の病態生理
〔上原拓樹.循環器病棟の業務が全然わからないので,うし先生に聞いてみた,p.39,医学書院,2024より転載〕
うし先生からのTake Home Message
● 心不全を疑ったら左心不全と右心不全のどちらが主体なのかを考えよう!
● 単独の右心不全を見たら,一度は収縮性心膜炎を考えよう!
文献
1)小杉理恵,他.収縮性心膜炎様の血行動態を呈した重症三尖弁閉鎖不全症の一例.呼と循 61:1171-1175,2013
2)上原拓樹.循環器病棟の業務が全然わからないので,うし先生に聞いてみた,医学書院,2024
うし先生と学ぶ「循環器×臨床推論」が身につくケースカンファ
うし先生待望の第2弾!
今回は珠玉の24症例を扱う白熱カンファレンス!
<内容紹介>『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』で好評を博したうし先生の第2弾。今回は珠玉の24症例を扱う白熱カンファレンス! ST上昇+胸部絞扼感などのザ・循環器症例から、喘息患者での突然の喘鳴など一見これ循環器?な症例まで、「循環器×臨床推論」が身につく症例を集めました。
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