医学界新聞プラス

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『集中講義! おなかの身体診察――フィジカル&腹診で腹部症状に立ち向かえ』より

連載 中野 弘康

2025.04.23

「急性腹痛の患者さんが来た! でも、CTが使えない! どうしよう…」、「慢性腹痛の患者さんか。不定愁訴の診療は苦手なんだよな…」。腹痛診療に苦手意識を持っている方は多いのではないでしょうか。でも、大丈夫、ローテクな身体診察でバッチリ対応できるんです! 急性腹痛にはフィジカル、慢性腹痛には腹診で対処しましょう。新刊『集中講義! おなかの身体診察――フィジカル&腹診で腹部症状に立ち向かえ患者さんのおなかのトラブルに立ち向かう』では、患者さんの話す“病歴”に興味をもち、“病歴”から病態を想像してフォーカスを絞った、“きりっとした身体診察”のエッセンスをご紹介します。あなたの日常診療にきっと役立つ集中講義が開講です。

「医学界新聞プラス」では、本書より「虫垂炎」と「機能性ディスペプシア」の2症例をピックアップし、ご紹介していきます。

血虚

それでは具体的な症例を通じて患者さんにどう漢方を適用したらよいか考えてみたいと思います。

 

症例

  25歳女性

主訴 めまい
現病歴 看護師1年目。毎日緊張の連続。朝7時,起床時から“なんとなくふわふわするめまい”を自覚していました。無理して出勤しましたが,勤務中気分が悪くなり途中で休んでいるのを同僚が心配。所属病棟の師長から筆者に診察依頼がありました。カルテを見ると,数日前に頭痛で内科を受診し,ロキソプロフェンナトリウム水和物が処方されていました。
西洋フィジカル 色白でぽっちゃり体型,パッと触ると四肢は冷たい
血圧110/69 mmHg,脈拍60 回/分,体温36.4℃,呼吸数16 回/分,SpO2 97%(室内気)
眼振なし。神経学的異常所見なし
腹部は軟,心窩部に圧痛なし。腸蠕動音亢進/減弱なし

 

症例へのアプローチ

 若い女性の“めまい”です。めまいという主訴からは,さまざまな鑑別診断が考えられると思います。一般的なアプローチとしては,回転性,浮動性,前失神と分類し,内耳,脳,心血管から病態を検討するでしょう。しかし,筆者は,バイタルサインが安定していて,自分で病歴を語れる患者さんにおいては,まずは患者さんに自由に語ってもらうようにしています。もっと言うと,“めまいという言葉を用いずに,今あなたが困っているめまいを表現してみてください” と伝えて,何に困って病院に受診したのか,その背景を明らかにする作業を行うように心がけています。
  救急室のセッティングでは,致死的な病気から考えていくのが妥当と考えますが,血行動態や全身状態が安定していれば,可能な限り患者さんの語る病歴に耳を傾け,めまいが生じるに至った背景を考察するとよいでしょう。 この患者さんは,看護師1年目で,毎日が緊張の連続であり,失敗しないか,ひやひやしながら職場に出勤する毎日でした。常に精神的緊張が強い環境下に置かれていたことで,頭痛やめまいなどの症状が出やすい素因が形成されていったものと考えました。

 

漢方フィジカル

 体質の把握は陰陽・虚実・気血水,それに望診,問診,切診で患者さんの証を把握することで,漢方薬の選択につなげていきます。
 バイタルサインや西洋フィジカルでは明らかな異常はなさそうです。職場での緊張が強く,疲弊がみられ,陰・虚の状況であると判断します。望診では,色白でぽっちゃり体型,パッと触ると四肢は冷たいとの情報から,血虚+水毒 の状況が示唆されます(冷えのTypeⅡ)。頭痛やめまいも,おそらく水毒に伴う影響ではないだろうかと考えます。舌診の所見を示します(図1)。
 血虚+水毒の可能性をより高める問診は何でしょうか。筆者はこんな質問をしてみました。

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  • Dr 来院当日は雨ですね,毎回,低気圧が来ると体調悪くすることない?
  • Pt はい,その通りです。天気が悪くなるのが身体でわかります。
  • Dr 胃のあたりでぐるぐると音がならない?
  • Pt あります。
  • Dr 胃でちゃぽちゃぽと音がしない?
  • Pt はい。水を飲むと胃がちゃぽちゃぽといいます。

 

 天候に依存する頭痛やめまいは,水毒の徴候です。水を飲むと胃がちゃぽちゃぽと音がするという訴えは,胃内停水 (心窩部振水音,図2)が示唆され,腹診で,胃部振水音を確認します。心窩部のあたりをスナップを効かせて叩くと,水を振るような音がしました。

  • Dr みぞおちのあたりがつっかえて,通りにくいように感じることはない?
  • Pt はい,あります。よく気持ちが悪くなるんです。食欲も最近ないんです。

 

 みぞおちのあたりは心下と呼び,ふさがって通りにくい状態を痞と表現します。心下痞とは脾胃(消化吸収をつかさどる臓腑)と関係が深いため,腹診で心窩部を触診したところ,抵抗を感じました。これを心下痞硬 図3, 4)といい,心窩部の筋緊張が高まっていると判断しました。さらに心窩部の皮膚温の低下もあり,脾胃の機能低下が示唆されます。
 病歴と腹診の結果をまとめると表1のようになります。
 以上の所見より患者さんは脾虚,血虚に水毒を合併した状態と判断しました。

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フィジカル×漢方アプローチの二刀流でおなかのトラブルに立ち向かえ!

<内容紹介>
「急性腹痛の患者さんが来た! でも、CTが使えない! どうしよう…」、「慢性腹痛の患者さんか。不定愁訴の診療は苦手なんだよな…」。腹痛診療に苦手意識を持っている方は多いのではないでしょうか。でも、大丈夫、ローテクな身体診察でバッチリ対応できるんです! 急性腹痛にはフィジカル、慢性腹痛には腹診で対処しましょう。患者さんのおなかのトラブルに立ち向かうあなたのための集中講義が開講です。

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