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集中講義! おなかの身体診察
フィジカル&腹診で腹部症状に立ち向かえ

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「急性腹痛の患者さんが来た! でも、CTが使えない! どうしよう…」、「慢性腹痛の患者さんか。不定愁訴の診療は苦手なんだよな…」。腹痛診療に苦手意識を持っている方は多いのではないでしょうか。でも、大丈夫、ローテクな身体診察でバッチリ対応できるんです! 急性腹痛にはフィジカル、慢性腹痛には腹診で対処しましょう。患者さんのおなかのトラブルに立ち向かうあなたのための集中講義が開講です。

シリーズ ジェネラリストBOOKS
中野 弘康
発行 2025年03月判型:A5頁:240
ISBN 978-4-260-05786-8
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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  • 序文
  • 目次

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 おなかのトラブルを訴えて病院を受診する患者さんはとても多いです。トラブルと一口にいっても,“おなかが痛い”“おなかが腫れてきた”など,訴えはさまざまです。そんな患者さんを前に,私たちは患者さんから話を聞き,“なぜその症状が出るのだろう?”と病態生理を考えつつ,患者さんの苦しみに寄り添い,おなかを触りながらつらいところに手を当てて解決するための方法を考えます。おなかのトラブルに悩む患者さんにとって,病歴と身体診察の果たす役割がいかに大きいか……,本書を執筆しようと思ったきっかけはここにあります。

 でも,みなさん,普段,どのくらい病歴と身体診察を意識して診療していますか?
 医学生のころから病歴と身体診察の重要性は散々教わるはずですが,学生の間は生身の患者さんを診る機会がほとんどないので実感がわきません。医師免許を取得して現場に投入されても,目の前の所見がどんな意味をもつのかわからなければ,なんとなく惰性で病歴を聞いて診察もそこそこに画像検査(超音波検査やCT)へ……といったプラクティスを行ってしまう。これは決して珍しいことではないと思います。全国津々浦々の臨床研修病院で,悶々としている若手医師の方々は多いのではないでしょうか。

 私が研修を受けた大船中央病院には,病歴や身体診察を重視する文化がありました。私が身体診察にのめりこむきっかけとなったのは須藤 博先生の存在が大きいと思います。彼は自分自身のことを古きよき時代の内科医(old fashioned Dr)と言っていました1)。古きよき時代というのは,まだ臨床現場にCTなどの診断機器が十分にない時代に患者さんを診療していた内科医のことです。今のように画像検査にeasyにアクセスできなかった時代の医師は,患者さんの悩みを何とか解決しようと五感をフルに使って診察していたことでしょう。須藤先生はベッドサイドラーニングをとても重視していました。患者さんの話をよく聞き,頭からつま先に至るまで観察を逃しませんでした。彼から教わった口伝の数々がクリニカル・パールとして私の脳裏に刻まれています。本書では,症例を通じて紙面が許す限りパールを紹介しています。ぜひみなさまの日常診療にお役立てください。

 患者さんの話す“病歴”に興味をもち,“病歴”から病態を想像してフォーカスを絞った,“きりっとした身体診察”を行う。この一連の楽しさが本書を通じて伝われば嬉しく思います。
 本書は,私がこれまで出会った患者さんを紹介しながら,私の思考過程と診察所見をつぶさに記録し1冊にまとめたものです。本書前半の第1章「西洋フィジカル」は,雑誌「medicina」の連載「ローテクでもここまでできる! おなかのフィジカル診断塾」(59巻5号~60巻12号)の内容をベースに大幅に加筆修正しました。また,この間,COVID-19後遺症で悩む患者さんを多数診療する機会があり,その経験から東洋医学的な考え方を日常診療に取り入れることの大切さを身に染みて感じました。第2章「漢方フィジカル」では,機能性消化管障害を中心として,おなかの症状で悩む患者さんに,日本漢方独特の診察である腹診を応用し,その有効性を示しました。本書をお読みいただけば,腹部疾患に対して西洋と東洋のハイブリッドアプローチが可能になることでしょう。ぜひ本書を有効活用していただき,おなかのトラブルで悩む患者さんを救うための一助にしていただければこれ以上の喜びはありません。

 最後に謝辞を述べたいと思います。第1章「西洋フィジカル」では,須藤 博先生(大船中央病院)に動画をご提供いただきました。須藤先生の身体診察への好奇心と飽くなき探求心を尊敬しています。第2章「漢方フィジカル」では,吉永 亮先生(飯塚病院漢方診療科)に腹診の画像を提供していただきました。吉永 亮先生とご縁ができたのは,医学書院「総合診療」編集室の山内 梢氏のお陰です。また,本書の発行にあたっては,医学書籍編集部の天野貴洋氏に大変お世話になりました。この本が日の目を見ることができたのは,天野氏のお陰です。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 最後に,日々出会う患者さんとそのご家族様とのご縁に感謝します。そして本書を手に取っていただいた読者のみなさまとの出会いにも感謝します。本書を通じて,少しでも私の臨床に対する思いが伝われば幸いです。

1)須藤博:医学古書を紐解く11(最終回)Old-Fashioned Doctorからの助言──Fred HL.『Looking Back(and Forth);Reflections of an Old-Fashioned Doctor』. medicina 60:2176-2177, 2023

 2025年1月
 中野弘康

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総論
 フィジカル&腹診術への誘い

第1章 西洋フィジカル
 おなかが痛い
  虫垂炎──身体診察で虫垂の位置を当てる!
  家族性地中海熱──虫垂炎にみえて虫垂炎ではない病気──画像診断を鵜呑みにするな!
  前皮神経絞扼症候群──画像検査で異常がみつからない腹痛
  急性膵炎──おなかの“やけど”
  急性胆囊炎──Murphy signだけじゃない!
  腹腔動脈解離──おなかの音を聴きに行け!
  脾破裂──デルマトームを意識して痛みの発生部位を把握しよう!
  正中弓状靱帯圧迫症候群──身体の静かなる音に耳を傾けよう!
  消化管穿孔──正常肝濁音界を習得すべし!
 おなかが膨満している
  尿閉──真横からおなかを見てみよう
  腸閉塞──おなかの表面をじっと見てみよう!
  肝囊胞──腹部膨満+αの症状に注目
  腹水──病歴と視診・打診から腹水貯留をみつけよう
  肝硬変──多彩な身体所見を押さえよう
  腎動脈狭窄症──非消化器疾患でも常におなかの身体所見にこだわるべし
 舌を見よう
  巨舌──巨大な舌の背後に隠れた疾患は?
  ピリピリする舌──病歴聴取+舌の診察で鑑別疾患の幅が広がる!
 尿の色を見よう
  黄疸──尿の色から病態を予想しよう!
 便の色を見よう
  消化管出血──マグロにこだわりすぎた男性

第2章 漢方フィジカル
 機能性疾患は腹診でみよう
  漢方フィジカル──望診,問診,腹診に挑戦してみよう
  機能性ディスペプシア──血虚
  月経困難症・過敏性腸症候群──血虚
  過敏性腸症候群──脾虚
  慢性便秘症──瘀血
  慢性便秘症・精神不安──瘀血

索引

コラム
 急性腹痛の患者さんでは問診と並行して必ずバイタルサインを評価しよう
 飲酒量の尋ねかた
 病歴聴取ではwhatよりwhyを重視しよう
 女性のアルコール性肝硬変
 漢方を取り入れたきっかけ──患者さんのつらい症状の背景に思いを馳せる
 漢方の使いかた──general appearanceと漢方
 不定愁訴に隠れた貧血に介入する
 Calling,縁を大切に,一例一例を大切に