医学界新聞プラス

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『マイスター直伝!「心電図」が「臨床」とつながる本』より

連載 松永 圭司

2025.12.19

現在,心電図検定が大ブームとなり,それに伴って系統的に学習できる 優れた教科書や問題集が数多く出版されています。『マイスター直伝!「心電図」が「臨床」とつながる本』は,著者が長年の心電図勉強会で培った経験をもとに,心電図の知識が臨床と自然につながるよう工夫された内容となっています。初心者から上級者まで学びやすい構成で,仲間と学ぶような臨場感のなか理解が深まり,「わかった!」という喜びを実感できる本書は,わかりやすさと楽しさを兼ね備え,特に学習者から評判の良かった内容を厳選してまとめた一冊です。

「医学界新聞プラス」では,本書より<1章 入門編><2章 発展編>から一部をピックアップし,4週にわたりご紹介します。


さて,今回から左脚ブロックの内容に入ります.軸偏位の見かたを復習したい方は前回をご覧ください.


3.左脚前枝ブロックの特等席はaVL誘導

これが左脚前枝ブロックのときはどうなるでしょうか.正常だとⅡ誘導が一番見やすいんですが,左脚前枝ブロックの場合は左肩から見るのが一番見やすくなります.つまり,aVL誘導が特等席です(図6).実際の流れは先ほどと同じで,最初に少し離れて(形でいうと少し下),次にグッと向かってきます(形でいうと上).それで,また離れていきます(形でいうと下,S波が入ることもあります).これが左脚前枝ブロックの典型的な形です.まずは原理だけなんとなく理解していただき,最後の練習問題で覚えてください.
次に,同じベクトルを舞台裏(反対側)から見たらどうなるでしょうか(図7).具体的に言うとⅢ,aVF,Ⅱ誘導で,まずは少し向かってきて(形でいうと少し上),aVLの特等席に向かって大きく離れていきます(形でいうと下).このQRS波形を「rSパターン」といいます.rが小文字でSが大文字なのは,最初に「少し」向かってきて,次に「大きく」離れるためです.

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図6 左脚前枝ブロック時の特等席(aVL 誘導)
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図7 左脚前枝ブロック時の舞台裏(Ⅲ,aVF ,Ⅱ 誘導

ここからは少しマニアックになりますので,難しい方は次の項目に進んでください.離れていく下向きの成分をⅡ,Ⅲ,aVF誘導で比べると,特等席(aVL誘導)のほぼ真逆のⅢ誘導が一番離れて見え,aVF→ Ⅱといくごとにだんだん小さくなります.
本来,正常の心臓であれば特等席のⅡ誘導と-aVR誘導に向かってくるはずです.なのに,Ⅲ →aVF→ Ⅱ(→ -aVR)と近づくにつれてだんだん小さくなるのは変ですよね.このようにS波がⅡ →aVF→ Ⅲ(にんぷさん)の順に深くなるのが,左脚前枝ブロックの特徴の1つです(図8).

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図8 左脚前枝ブロックでは下壁誘導のS 波がⅡ → aVF → Ⅲ の順番で深くなる

以上のような左脚前枝ブロックの波形の特徴を図9にまとめました.臨床実習などではなかなか見かけないと思いますが,実はペースメーカーが必要な方や,失神で倒れてしまうリスクがある方を見分けるのに役に立つことがあります.見た目は正常に見える方のなかで,リスクの高い方に気づくきっかけになることがありますので,未来の誰かを救えるようにぜひ覚えておいてください.

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図9 左脚前枝ブロックと推定できる心電図波形

ここで少しだけ注意点を補足します.左脚前枝ブロックは左軸偏位の代表例ではありますが,厳密にはあくまで左軸偏位を呈するほかの疾患を除外して初めて診断できます.さらに,心電図で左脚前枝ブロックに見えても,実際に左脚前枝ブロックが存在するかは議論があります.肥満や睡眠時無呼吸症候群の人に左脚前枝ブロックの基準を満たす方が多いと報告1)されていますし,妊婦で継続的に心電図をとると,お腹が大きくなるにつれて左脚前枝ブロック様の波形になり,赤ちゃんが産まれてお腹がへこんだら波形も元に戻ったとの報告2)もあります.
このように,左脚前枝ブロックに見える波形のなかには,肥満などに伴うものも入っていて,実は心電図だけではわからない可能性があります.臨床診断という言葉がありますが「心電図診断としては」ぐらいの認識がよいかもしれません.

4.左脚後枝ブロックの特等席はⅢ誘導

左脚は右脚と違い,脚枝が前枝と後枝の2つあります(実はもう1つ,3つ目の中隔枝もありますが,ここでは割愛します).左脚前枝は前外側乳頭筋,左脚後枝は後内側乳頭筋につながっています.先ほどの左脚前枝ブロックに加えて,もう1つの左脚後枝ブロックについてもお話ししていきましょう.左脚前枝ブロックとは逆で,ハート型がくるんと右軸偏位している代表例が左脚後枝ブロックになります.
ただ,私も15年ほど循環器内科医をしていますが,ほかの心疾患に合併していることは多いのですが,ピュアな左脚後枝ブロックの患者さんは数人しか見たことがありません.それぐらいまれなので,余裕がない人はまず先ほどの左脚前枝ブロックだけ覚えてください.
原理は左脚前枝ブロックで同じで,やはりハート型のベクトルになります.ただ今回は特等席がⅢ誘導で(図10),最初に少し離れて(形でいうと下),次にグッと向かってきます(形でいうと上).

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図10 左脚後枝ブロックの特等席(Ⅲ 誘導)

左脚前枝ブロック同様,Ⅱ,Ⅲ,aVFを見るのもポイントになりますが,今回は「向かってくる(上向き)」波の高さがどうなるかを見ます.そうすると,特等席のⅢ誘導に一番向かってくるので波が高く,aVF→ Ⅱ誘導と進むにつれ波が低くなっていきます.逆に言うと,Ⅱ →aVF→ Ⅲ誘導(にんぷさん)の順番で上向きの波が高くなるのが,左脚後枝ブロックの特徴になります(図11).なぜこれが大事かというと,正常洞調律と逆の順番だからです.正常のほうの特等席はⅡ,-aVR誘導だったので,上向きのR波がⅡ →aVF→ Ⅲの順で低くなるので,まるっきり逆なわけです.

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図11 左脚後枝ブロックでは下壁誘導のR 波がⅡ → aVF → Ⅲ の順番で高くなる

今回も特等席の反対であるaVL誘導から舞台裏を見ていきましょう(図12).先ほどと全く同じで,少し近づいて(形でいうと上),次に離れていきます(形でいうと下).

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図12 左脚後枝ブロック時の舞台裏(aVL 誘導)

以上の左脚後枝ブロックの波形の特徴を図13にまとめました.先ほどの軸偏位と同様,左脚前枝ブロックかあるいは後枝ブロックかという問いは選択肢を作りやすいので,問題になりやすい気がします.心電図検定を勉強されている方も知っておくと点数upになると思いますので,ぜひ覚えておいてください.

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図13 左脚後枝ブロックと推定できる心電図波形

まず「右脚ブロック+左脚前枝ブロック」パターンだけ覚える

ここまで左脚前枝・後枝ブロック(ヘミブロック)の波形の特徴について解説してきましたが,いよいよ本題の臨床で注意すべき心電図に入ります.ヘミブロック,3束ブロックにはいろいろなパターンがありますが,まずは図14のような右脚ブロック+左脚前枝ブロックを覚えてください.

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図14 右脚ブロック+左脚前枝ブロック

まずV1誘導を見るとwide QRSのrSR'パターン(右側が高いウサギさんの耳)で,Ⅰ,aVL,V5,6誘導は下向きの深いS波を認め,典型的な右脚ブロックですね.もう1つの左脚前枝ブロックはⅠ,Ⅱ誘導を見たときにⅡだけ下を向いていて,Ⅱ,aVF,Ⅲ(にんぷさん)の順番で下向きの波形が深くなっていて,これも典型的です(厳密にはaVLなども確認します).
失神歴のある患者さんで,この所見があればペースメーカー適応になりえます.これはなかなか気づきづらく,循環器病棟では実はたくさんいると思います.特に右脚ブロックに気を取られて,左脚前枝ブロック(=ヘミブロック)が見落とされていることがあります.ここに1度房室ブロックが合併すると,ほとんど左脚後枝の1本しかつながってなくて,しかもそこが危ういサインですので,この波形を見たらペースメーカーの適応がないかを確認するようにしてください.

ヘミブロックも要注意.
まず右脚ブロック+左脚前枝ブロックパターンを覚える.

 


この項目のおわりに

まず,50回/分以下の徐脈を見たら,それだけで洞不全症候群,房室ブロック,徐脈性心房細動 の3つに分けられます.2度房室ブロックは国家試験的にはWenckebach型は予後が良好で,Mobitz Ⅱ型は悪いぐらいのイメージでOKです.ただ,病院の臨床ではリスクの高い人を対象にしているので,2度以上の房室ブロックであれば年齢や既往と合わせて包括的に判断してください.Wenckebach型でも必ずしも安全とは言えないことを覚えておいてください.  
また,今回ヘミブロックについて勉強しましたが,実は「見えないペースメーカー適応」 の人を検出できます.右脚ブロックの人はたくさんいますが,実は左脚前枝ブロックのある方もたくさんいると思います.失神したり,ふらついて頭を打って整形外科に行ったりと循環器以外の病棟に行ったときに,これらの心電図を見るだけで実はペースメーカーが必要な人がわかることがあります.ぜひその人たちが2回目,3回目の失神をしないように,そして突然死をしないように,ぜひヘミブロックについて基本的な内容を覚えておいてください.

練習問題

本項目の復習としてどのタイプのヘミブロックかを考えてください.

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    正解  右脚ブロック+左脚前枝ブロック
    正解.png

文献

1) Khalil MM, et al : Respir Med 92 : 25-27, 1998

2) Angeli F, et al : Hypertens Res 37 : 973-975, 2014

 

 

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