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『マイスター直伝!「心電図」が「臨床」とつながる本』より

連載 松永 圭司

2025.12.12

現在,心電図検定が大ブームとなり,それに伴って系統的に学習できる 優れた教科書や問題集が数多く出版されています。『マイスター直伝!「心電図」が「臨床」とつながる本』は,著者が長年の心電図勉強会で培った経験をもとに,心電図の知識が臨床と自然につながるよう工夫された内容となっています。初心者から上級者まで学びやすい構成で,仲間と学ぶような臨場感のなか理解が深まり,「わかった!」という喜びを実感できる本書は,わかりやすさと楽しさを兼ね備え,特に学習者から評判の良かった内容を厳選してまとめた一冊です。

「医学界新聞プラス」では,本書より<1章 入門編><2章 発展編>から一部をピックアップし,4週にわたりご紹介します。

この項目を勉強し始める前に

第1回第2回の完全房室ブロックに続いて,今回取り上げるのは軸偏位とヘミブロックです.一般的に「ヘミブロック」というと,前枝・後枝に分かれている左脚のうち,どちらか片方(ヘミ)がブロックされている状態を指しますが,ここでは「右脚+『左脚(前枝・後枝)のどちらか』」がブロックされている状態」と考えてください.
実はこの領域,難しくなってくると,正直誰もわからないような心電図もあります.ただそういう難しい話は置いておいて,基本的な話をしていきたいと思います.
また念のため,本書を読まれている学生の方のためにお断りをいれておくと,今回の内容は国家試験で覚えるべき内容と少しだけ違うところがあります.間違って覚えないよう,その点は強調してご説明するようにします.

洞不全症候群と房室ブロックのペースメーカー適応

ガイドラインにはペースメーカーの適応が書かれています.推奨クラスⅠが絶対,Ⅱaはたぶん入れたほうがよいということで,この辺りがいわゆる適応になります.
洞不全症候群のほうは失神,痙攣……と書いてあり,症状があって,関連がはっきりしなくても,徐脈があったら適応ということになっています1).なので,洞不全症候群は,寿命ではなくQOLをあげるため,症状を患者さんに聞いてペースメーカーを決める疾患ということです.これは1章の「A:cAVB(完全房室ブロック)」で解説しました(連載 第1~2回 参照).ざっくりした認識をもって,追加していくのがよいと思います.
房室ブロックの方は,たとえば症状がなくても完全房室ブロック,あるいは徐脈+心肥大がX線で確認などが適応とガイドラインに書かれています1).ちなみに,おそらく皆さんに「徐脈の治療薬」と思われているアトロピンですが,これを投与して徐脈が改善しないというだけでも実は適応になります.二次心肺蘇生法(ACLS)などのアルゴリズムでは,目の前で倒れたときにはまずアトロピンですが,入院患者さんの徐脈にカテコラミンなどを使うのにはこういう理由です.つまり房室結節は元気だが迷走神経など自律神経の関与で徐脈の場合にはアトロピンは有効なのですが,そこから下流(His束下など)に障害がある場合はアトロピンの使用でより負担がかかるためです.言い換えると,アルゴリズム通りアトロピンを使って心拍数が不変の場合は,ただの徐脈ではないと考えて循環器医callでよいと思います.

ヘミブロック+失神既往もペースメーカー適応

ただ,目の前で倒れたパターンだけではなく,現在は症状がないのに心電図の異常だけでもペースメーカー適応になる場合があります.その代表例が今回勉強するヘミブロックです.慢性の2枝・3枝ブロックがあって,1回でも倒れたことがあると,ペースメーカーの適応になりえます.ガイドライン上も,Mobitz Ⅱ型ではなくWenckebach型であっても,ヘミブロックがあって,特に倒れたりしたら,ペースメーカーの適応となっています1).ヘミブロックが臨床上重要ということと,「Wenckebach型房室ブロック≠安全」ということを覚えておいてください.
となると,どのようにヘミブロックを診断すればよいか,気になりますよね.1章「BBB:Bundle Branch Block(脚ブロック)」でQRS幅と最後の成分に注目する方法をご紹介しました.ただしこの方法では,ブロックされている場所が「左脚の前枝か後枝か」まではわかりません.ここではもう一歩進んで,軸偏位という概念から考えてみましょう.

2度以上の房室ブロックであればペースメーカー適応の可能性あり.
(一般的にはMobitz Ⅱ型と3度房室ブロックが有名だが, 
Wenckebach型であっても必ずしも大丈夫とは限らない).

ヘミブロックを理解するためにまずは電気軸を理解しよう

1.軸偏位はⅠ誘導とⅡ誘導でみる
軸偏位を理解するために,まず心臓の形をハート型でイメージして,軸を意識する練習をしてみましょう(図1).教科書には,「Ⅰ誘導とaVF誘導を見て三角形を描いて……」と書いてあることが多いですが,個人的には異なる方法で見ているので,1つの例として直感的に想像しやすいハート型をイメージする方法を紹介したいと思います.60度くらい右下を向いているのが正常な角度です.
 

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図1 「ハート型」でイメージする軸偏位

私が臨床の現場で軸偏位を見ている誘導はⅠ誘導とⅡ誘導です.P波の判定にも役立ちますし,QRS波もここを見ておけば大きな間違いはありません.ここを見て「なんか変だな?」というときにほかの誘導を見るように私はしています.心電図では誘導に向かってくるのが上向き,離れていくのが下向きになります.
洞調律で正常な場合のQRS波のベクトルは,Ⅰ誘導から見てもⅡ誘導から見ても「向かってくる」ので,形でいうとどちらも上向きになります(図2).細かい角度はいったん置いておいて,まずは大きく異なるときに気づけるようにしましょう.

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図2.png
図2 洞調律の場合(正常軸)

次にハート型を少しだけ左に回転しました(図3).これを左軸偏位といいます.こういう状態になると,先ほどのQRS波のベクトルはどうなるでしょうか.まずⅠ誘導で見ると「向かってくる」ので上向きですが,Ⅱ誘導から見ると「離れていく」ので下向きになります.細かい定義はありますが,まずは大雑把に「Ⅰ誘導で上向き+Ⅱ誘導で下向きなら左軸偏位」と覚えておきましょう.

図3.png
図3 ハート型を左に回転(左軸偏位)

今度はハート型を右に回転させます(図4).この状態を右軸偏位といいます.QRS波のベクトルはどうでしょうか.細かいことは置いておいて,やはりまずはⅠ誘導とⅡ誘導だけ見ます.そうすると,Ⅰ誘導から見て「離れていく」ので下向き,Ⅱ誘導から見て「向かってくる」ので上向きになります.

図4.png
図4 ハート型を右に回転(右軸偏位)
Ⅰ誘導が上,Ⅱ誘導が上なら正常軸,
Ⅰ誘導が上,Ⅱ誘導が下なら左軸偏位,
Ⅰ誘導が下,Ⅱ誘導が上なら右軸偏位の可能性を考える.


問題作成者の視点で考えた場合に,ここは問題を考える際に選択肢を作りやすい気がします.右か左かは問題の引っかけとしても使われやすいと思うので,ぜひ知っておいてください.

2.洞調律の特等席はⅡ誘導と-aVR誘導

次は先ほどの発展版で,左軸偏位を示す代表例である左脚前枝ブロックについてお話ししていきます.  まず正常洞調律のときの心室興奮のベクトルをハート型でイメージしてみます.Ⅱ誘導と-aVR(リバースaVR)誘導から見てどうなるか,考えてみましょう(図5).最初に中隔の興奮が見えるので少し離れて(形でいうと少し下),次にグッと向かってきます(形でいうと上).またこの後離れていく(形でいうと下)ので,ハート型になるのが洞調律時のベクトルです.

図5.png
図5 洞調律時の特等席(Ⅱ 誘導と-aVR誘導)

軸偏位の見かたと洞調律の特等席をおさえていただいたところで,次回はいよいよ左脚ブロックの内容に入っていきます.

(第4回へつづく)

文献

1) 日本循環器学会,日本不整脈心電学会:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf[2025年9月閲覧]

 

 

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