医学界新聞プラス

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『マイスター直伝!「心電図」が「臨床」とつながる本』より

連載 松永 圭司

2025.12.05

現在,心電図検定が大ブームとなり,それに伴って系統的に学習できる 優れた教科書や問題集が数多く出版されています。『マイスター直伝!「心電図」が「臨床」とつながる本』は,著者が長年の心電図勉強会で培った経験をもとに,心電図の知識が臨床と自然につながるよう工夫された内容となっています。初心者から上級者まで学びやすい構成で,仲間と学ぶような臨場感のなか理解が深まり,「わかった!」という喜びを実感できる本書は,わかりやすさと楽しさを兼ね備え,特に学習者から評判の良かった内容を厳選してまとめた一冊です。

「医学界新聞プラス」では,本書より<1章 入門編><2章 発展編>から一部をピックアップし,4週にわたりご紹介します。


前回は完全房室ブロックの基本に関する内容でした.今回は少しレベルアップしたお話をさせていただきます.

心電図判読で一段階上を目指したい人のための知識

1.P波の場所がちょっとズレることがある

完全房室ブロックの場合のP波は,特に“寂しがりやさん”だと覚えてください.久しぶりにQRS波が出ると,その後P波は少しだけQRS波に近づく感じになります.
具体的には,図6でいうと濃い赤矢印のP波は少しだけ左側(QRS側)に近づくことがあり,これをventriculophasic sinus arrhythmia(心室相性洞不整脈)といいます.小さな1マス(場合によっては2マス)程度のズレが起こりうることは知っておいてもいいかもしれません.

2.P波が上を向きやすい誘導をおさえておく

隠れたP波を探すときには,やみくもに探すのではなく,“この誘導だったらP波は上向きのはず”など,アタリをつけて探すのがオススメです.
この方法は洞調律のときしか使えませんが,逆に言えば,完全房室ブロックを発症するとともに上室頻拍が同時に起こるなど,とても特殊な状況以外では使用可能です.
洞調律でP波が上を向きやすい誘導は5つ,特に長い指に対応するⅠ,Ⅱ,リバースaVR誘導はP波が上を向きやすいことはぜひおさえておきましょう(図8).

図8.png
図8 特に洞調律でP 波が上を向きやすいのは長い指=Ⅰ,Ⅱ,-aVR 誘導

3.T波に重なるP波の探しかた

次に,T波に重なるP波の探しかたについてです.例外がものすごくたくさんあるので,参考程度の所見なのですが,何も知らずに探しにいくよりはP波をみつけられる可能性が高くなるでしょう.
詳しいメカニズムは省きますが,T波は,心筋の内側と外側の電気的な差から形成されます.P波の心房興奮やQRS波の心室興奮と異なり,ゼロから電気的な興奮が起こったものを捉えているわけではありません.
誤解を恐れずに言うならば,引き算で形成されるT波に,興奮波形であるP波が紛れ込めば見えるはず,とも言えます(図9).

「T波の上行脚」は
隠れたP波を最初に探しにいく場所として適しているかも.


これは,図9のように“下に凸となる傾向がある部分”に“上向きのP波”が紛れ込むとみつけやすいためです.先ほどのP波が上を向きやすい誘導と併せると,さらに気づきやすくなるかもしれません.

図9.png
図9 T 波に紛れ込んだP 波を最初に探しにいく場所

4.QRS波に重なるP波の探しかた

P波が見やすい誘導のなかでQRS波が一番背が低い誘導に注目すると見えることがあります.形の変化がわずかな場合にはP波かな? と思う波形の間にあるQRSを基準として比べることで,見える場合があります.

「ウェンケ=予後悪くない,モビッツ=予後悪い」は本当か?

1.完全房室ブロックを覚えたら次に覚えてほしい内容:2度房室ブロックについて

2度房室ブロックの代表的なものとして,Wenckebach型とMobitzⅡ型が知られています(細かくいうとほかにも高度や2:1などいろいろありますが,まずはこの2つで十分です).
Wenckebach型:一般的には突然死のリスクは低く,予後は悪くない
Mobitz Ⅱ型:完全房室ブロックに移行しうる+完全房室ブロックは突然死しうる ⇒ 突然死のリスクがある

と捉えられているかと思います.これは嘘ではないのですが,実は入院している高齢者のWenckebach型房室ブロックでは注意が必要な場合があります
その理由を説明するために,全体を地球上全人口のWenckebach型の人として,Wenckebach型でも危険な数が図10の赤丸ぐらいいると思ってください.全体からみたら赤丸は些細なもので,確率でいえば安全といえるかもしれません.ただ,入院する患者さんはグレー丸ぐらいのイメージで,このグレー丸の中の赤丸といったらそれなりの割合(危険性)になります.なので,病院や高齢者が多い地域で勤務されている方は,Wenckebach型だからといってリスクがないわけではないことを知っておいてください.

図10.png
図10 Wenckebach 型は「安全」か?

Wenckebach型が必ずしも予後が良いわけではないという1つの例として,ガイドラインに掲載されている表をご紹介します(表11,2).ここでは Wenckebach型房室ブロックも心原性失神を疑う手がかりとして記載されています.

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表1 心原性失神の初期鑑別診断に有用な臨床的特徴

それを踏まえたのが表2です.まず,洞不全症候群がQOLの低下がメインというのはおそらくどの現場でも変わりませんが,そのほかの「安全」と言われている疾患のなかにも,実はリスキーなものがいくつかあります.

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表2.png
表2 洞不全症候群・房室ブロックで臨床上知っておくべき知識

まず,1度房室ブロックでも重度(PとQRSが離れすぎている)の場合には,実は完全房室ブロックのリスクがあります.また先ほどもご紹介したように,2度房室ブロックのWenckebach型でも完全房室ブロックに移行するリスクが少しあります.
簡単にまとめると,Wenckebach型であろうとMobitz Ⅱ型であろうと,2度以上の房室ブロックを病院で見ている場合は,高齢者の入院が多い日本においては,いったんはアミロイドーシスを含めた器質的心疾患の可能性を想定してもよいと思います.一度は心配して,結局何ともなかったのであれば,それでよしです.調べて何ともないことは悪ではないので,モニターで見て心配になったら12誘導心電図で調べる,といった癖をつけてもよいかと個人的には思っています.ここまでで,2度以上の房室ブロックに気づく重要性を説明しました.次はモニター心電図における具体的な探しかたを説明していきます.

病院で見る2度以上の房室ブロックは
Wenckebach型であっても器質的心疾患が隠れている可能性がある.

2 度以上の房室ブロックをみつけるための「おひとり様P波」

これは簡単に言うと,ポツンとP波が1つある(おひとり様P波)と,2度以上の房室ブロックだろうということです.慣れないと,ああでもないこうでもないと考えて時間がかかってしまいがちですが,とりあえず2度以上の房室ブロックをみつけるためには,この考えかたで十分です.
洞不全症候群はtype ⅠでもⅡでもⅢでも,P波が遅くなるだけでP波とQRS波の関係は崩れないので,必ずP波の隣にQRS波がいる(お連れ様がいる)状態です.
では房室ブロックはどうかというと,1度房室ブロックではPQ時間が延びているものの,これもP波の隣に必ずQRS波がいるので,お連れ様がいる状態です.これが2度以上になると,RR間隔が延びたときに,P波がポツンと一人になります.

2度以上の房室ブロックでは「おひとり様P波」が存在する.


具体的には図11を見てください.まず洞不全症候群では右側でRR間隔が延びて徐脈になっていますが,おひとり様のP波はいません(図11上・{).P波には全てお連れ様がいる状態です.これが2度房室ブロック(Wenckebach型)になると,右側の突然徐脈になっているところで,ポツンと1つP波が取り残されています(図11中・矢印).完全房室ブロックでは,PはP,QRSはQRSで,それぞれ等間隔になっていますが,これも間のところにポツンとP波が取り残されています(図11下・矢印).
結論からいうと,おひとり様P波があれば2度以上の房室ブロックになります図11).そして,先ほども述べたように2度以上の房室ブロックは,病院で見る範囲では心配して一度は12誘導心電図をとってもよいかと思います.

図11.png
図11 おひとり様P 波あり≒2 度以上の房室ブロック

ちなみに,房室ブロック,特に完全房室ブロックのときには,心室としては心拍数が足りていないため,交感神経が活性化されて心拍数を速くしようとします.一方で,心房のレートがいくら速くなっても心室にはつながらないため,心房のレートだけが速くなってしまいます.そのため,患者さんがシンドくなったときほど「おひとり様P波」がみつけやすくなります.逆に言うと,パッとみつけやすい人ほど,見た目ではわからなくても,実は患者さんが苦しがっているということです.

Wenckebach型房室ブロックを疑ったら

教科書には「PとQRSがだんだん離れていって(=PQが延長して)QRSが脱落し,またPとQRSが近づいて再開したらWenckebach型」,逆に「PQが保たれたままQRSが脱落したらMobitz Ⅱ型」と書かれていることが多いです.国家試験的にもこの理解でOKです.ただこの「Mobitz Ⅱ型かWenckebach型か」って,一般的にはリスクが大きく異なるとされているため,結構大きな分かれ目ですよね.
そこで,Wenckebach型を疑ったときに必ずチェックしてほしいのが,この教科書的なチェックに加えて,図12赤矢印の部分を必ず見る癖をつけてください.これ,実は心電図界隈の先生は皆やられています.だんだんPとQRSが離れていってQRSが脱落し,近づいていって再開するということは,脱落している前後のPQ時間の差が最大になるはずです.つまり脱落した前後のPQ時間が異なれば,ほぼWenckebach型と診断できます.逆に言うと,Mobitz Ⅱ型であれば,脱落した前後のPQ時間が同じになります.

図12.png
図12 Wenckebach 型を疑ったら脱落した前後のPQ 時間を見る
QRSが脱落した前後のPQ時間が異なればほぼWenckebach型,
逆にPQ時間が同じならMobitz Ⅱ型.


このように,教科書的な定義で「わずかな差」をみつけようとするのではなくて,「一番差が大きいところ」を比べれば間違いが少なくなると思うので,特に心電図の勉強を始めて間もない方はぜひ覚えておいてください.ちなみに,この理屈があるので,Wenckebach型の出題では必ずといってよいほどQRSの脱落部位が問題心電図の右端に来るのも特徴です.これは普通の問題心電図ではど真ん中に一番見てほしい大事な波形をもってくるのですが,「だんだんPとQRSが離れている」というのを一応アピールしないといけないためです.なので,国家試験レベルであれば,慣れている方だと離れたところからでもWenckebach型房室ブロックがわかったりします.


この項目のおわりに

この項目では,完全房室ブロックの心電図を例に,P波のみつけかたについて,少し細かく解説しました.後半では2度房室ブロックの鑑別について説明しました.実は,この隠れたP波を見る作業は,将来,心室頻拍の確定診断や上室頻拍の鑑別を行う際にも用いるという点で,不整脈の診断に必ず役立つ知識です.ただ,いきなり上記の鑑別を学ぶと,“こんな小さなゆらぎをP波と読まなきゃいけないのか,心電図やっぱり無理だ……”のように苦手意識のもとにもなっている領域だと思うので,まずは今回の範囲を理解するところから始めてみてください.

特に完全房室ブロックの場合には,QRS波が少なくP波だけをじっくり考えるチャンスがある心電図のため,初学者の方が勉強するのにも大変適しています.完全房室ブロックは臨床でもしばしば出合う不整脈であり,一時ペーシングが留置されている方のモニター心電図で出合う機会があるかもしれません.
実はこのときこそ,このP波の確認がきわめて重要です.医療従事者がP波をみつけるトレーニングになるとともに,一時ペーシングが留置されている方が,万が一その後の臨床経過で心房細動になった場合に早期に気づくことができます.そして,その時点で抗凝固療法の適応などをしっかり検討すれば,患者さんを脳梗塞から守ることができるからです.このときに,モニターの数字だけを見ていると,完全房室ブロックに心室ペーシングが入っていて,QRSはregularになっているので心房細動に気づくことができません.
これは,“最後に大切なのは医療従事者の目である”というまさに典型例だと個人的には思っています.ぜひ,本項で勉強したことを,臨床の現場で活かしていただけることを願っています.

練習問題

本項目の復習としてⅡ,aVR誘導の隠れたP波に○をつけてください.

練習問題.png

    正解はこちらをクリック

    正解  下図の通り

    正解.png

文献

1) 日本循環器学会,日本不整脈心電学会:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf[2025年9月閲覧]

2) Brignole M, et al : 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Eur Heart J 39 : 1883-1948, 2018

 

 

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