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[第13回]診療や手術の写真・動画,学会・勉強会の演者の写真をSNSや発表スライドに使ってもいいですか?
研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A
連載 小林只
2025.12.26
Q.診療や手術の写真・動画,学会・勉強会の演者の写真をSNSや発表スライドに使ってもいいですか?
A.原則として本人の同意が必要です。写真や動画に写り込んだ人物には,著作権とは別に「肖像権」という人格権があります。これは,みだりに自分の姿を撮影・公開されない権利です。著作権法のような明確な条文はありませんが,判例によって確立された重要な権利であり,侵害すると損害賠償を請求される可能性があります。公開の可否は,本人の同意の有無に加え,撮影場所(例:私的空間,あるいは屋外),撮影目的(例:鑑賞目的や広告目的,あるいは教育など非営利利用),写り方などを総合的に考慮し,本人が公開を我慢すべき「受忍限度」を超えるかで判断されます(本文ではスコアリング判定も紹介します)。公開が前提にない診察室内や手術場などの守秘性が高い場所の写真・動画は特に慎重な扱いが必要です。
「学会発表の様子をスマホで撮ってSNSにアップした」「院内勉強会のために撮影した手技動画をYouTubeに上げた」「患者の診察動画や手術動画を学会発表で使用した」。これらは著作権法上の問題(複製権や公衆送信権)だけでなく,被写体となった「人」の権利を侵害する恐れがあります。これまでの連載では「著作権」について詳しく解説してきましたが,今回は著作権と並んでトラブルになりやすい「肖像権」「プライバシー権」,そして「パブリシティ権」について解説します。
写真1枚に宿る「撮影者」と「被写体」の権利
本題に入る前に,「写真」を取り巻く権利関係をまずは整理しましょう。1枚の写真には,立場によって異なる権利が同時に発生します(図1)。
撮影者(カメラマン)
写真を撮影(創作)した人は「著作者」となり,その写真(著作物)に対して「著作権」を持ちます。これまでの連載で解説してきた通り,写真をコピーしたり公開したりする権利は,原則として撮影者が持ちます。
被写体(写っている人)
写っている人には,勝手に撮られたり公開されたりしない「肖像権」や「プライバシー権」があります。また,特定の個人を識別できる顔写真などは「個人情報」にも該当します。 ここで重要なのは,撮影者の権利である「著作権」と,被写体の権利である「肖像権」は別物であり,両立するということです。たとえあなたが撮影し著作権を持っていたとしても,被写体の肖像権を無視して自由に公開することはできません。「権利の衝突」を理解することが,トラブル回避の第一歩です。
被写体を守る3つの権利
では,被写体側の権利について詳しく見ていきましょう。人の容姿やプライバシーにかかわる権利は,主に以下の3つに分類されます(図2)。
肖像権
みだりに自分の容姿を撮影されたり,撮影された写真を公開されたりしない権利です。撮影行為自体が侵害となる可能性があり(公開される,されないにかかわらず),さらにその写真をSNSなどで拡散(公開)した場合は違法性が高いと判断されやすくなります。
(肖像)プライバシー権(人格権)
私生活をみだりに公開されないという権利です。自宅の中や病室での様子など,他人に知られたくない私的な領域が守られます。
(肖像)パブリシティ権(財産権)
著名人の肖像などが持つ「顧客吸引力(経済的な価値)」を排他的に利用する権利です。ここでは2012年に最高裁がパブリシティ権の意義を初めて判断した重要な事件について取り上げます。それは,女性デュオ「ピンク・レディー」にまつわる事件です。「ピンク・レディー」の5曲の振り付けを利用したダイエット法を紹介した雑誌記事において,ピンク・レディーを被写体とする14枚の写真が無断で掲載されたことがパブリシティ権を侵害する不法行為になるとして,雑誌を発行した出版社に対し損害賠償請求を起こした事件になります。最高裁判決では,①肖像自体を鑑賞対象とする,②商品差別化の目的で利用する,③広告として利用する,といった場合が侵害に当たるとされました。逆に言えば,教育・研究・報道などの「非営利目的」であれば,パブリシティ権の侵害を問われる可能性は低いと言えます。
「肖像権法」は存在しない? 判断の基準は「受忍限度」
実は,日本には「肖像権法」という法律は存在しません。肖像権は,日本国憲法第13条(幸福追求権)を根拠として,判例によって確立されてきた権利です。そのため条文で白黒つけることが難しく,判断が曖昧になりがちです。裁判所が違法かどうかを判断する際に重要視するのが「受忍限度」という考え方です。これは,「社会常識に照らして,一般的に本人が『これくらいなら我慢できる』範囲を超えているかどうか」という基準...
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小林 只(こばやし・ただし)氏 株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士
2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。
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