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研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A

連載 小林只

2025.12.05

Q.学会発表やランチョンセミナー,ハンズオンセミナーで,他者の図表や動画を使ってもいいですか?

A. 発表形式や主催者によります。まず対面開催で,学術集会における一般演題など非営利の発表であれば,スライドを「上映」することは例外的に許諾なく可能です(非営利上演)。しかし企業が関与するランチョンセミナーは営利目的とみなされ,この例外規定は適用できません。ハンズオンセミナーでの手技動画の上映も同様に,非営利の条件を満たせば可能ですが,動画の編集・加工は著作者人格権を侵害する恐れがあるため注意が必要です。最も重要なのは,オンライン学会(Web配信)では,この非営利上演の例外規定は一切適用されない点です。したがってランチョンセミナーやオンライン形式の発表では,適法な引用のルールを厳格に守るか,著作権者から転載許諾を得る必要があります。

今回は,研究者・医療者にとって最も身近な発表の場である「学会」や「研究会」,そして「実技セミナー(ハンズオンセミナー)」における著作物利用に焦点を当てます。

第11回では,比較的小規模なセミナーや勉強会について解説しましたが,今回は学会発表にまつわる疑問を取り上げます。学会は,より公開性が高く,参加費の徴収や企業の関与など,著作権の観点から考慮すべき要素がさらに複雑です。「発表スライドに他者の論文の図表を使いたい」と考えた時,何が許され,何が許されないのか。その境界線を正しく理解し,安心して研究成果を発表するための知識を身につけましょう。

学会・研究会における著作物利用の基本フロー

基本的な考え方は,第3回で示した利用フローチャート()をまずは確認ください。

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図 日本における著作物の利用フローチャート小林只.「総論,著作権」第8回JNOSウェビナーをもとに作成

ステップ1 利用規約の確認:まずはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)など,利用が許諾された著作物を探します。

ステップ2 例外規定の検討:ステップ1で対応できない場合,著作権者の許諾なく利用できる例外規定が適用できるか検討します。

ステップ3 許諾取得 or オリジナル作成:どの例外規定も使えない場合,著作権者に転載の許諾を求めるか,自分で図表を作成します。

学会発表においては,ステップ2の「例外規定の検討」が最も重要なポイントとなります。

学会発表で「使えない」例外規定

まず,学会や研究会では適用できない例外規定を再確認しましょう。

学校授業目的の利用(著作権法第35条):学会は「学校」ではないため適用外です。

私的使用のための複製(著作権法第30条1項):不特定または多数の研究者が参加する学会は,「家庭内に準ずる限られた範囲」を完全に超えるため適用外です。参加者に論文をコピーして配布するような行為は,この規定では正当化できません。

最重要ポイント:非営利上演(著作権法第38条1項)の壁

学会発表で適用できる可能性が唯一あるのが,「非営利上演」の例外規定です。しかし,適用には非常に厳しい3つの要件があり,特に「営利性」の判断が大きな壁となります。

3つの要件のおさらい
この例外規定が適用されるには,以下の3つを全て満たす必要があります。

1)営利を目的としないこと
2)聴衆から料金(参加費)を受...

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