「最先端」医療費抑制策 マサチューセッツ州の試み(6)(李啓充)
連載
2012.12.24
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第236回
「最先端」医療費抑制策 マサチューセッツ州の試み(6)
李 啓充 医師/作家(在ボストン)(3006号よりつづく)
前回までのあらすじ:「パートナーズ社が州全体の医療費を押し上げている」と批判したボストン・グローブ紙のキャンペーンは,マサチューセッツ州における診療報酬制度改革の動きを加速した。
2008年末に始まったボストン・グローブ紙の反パートナーズ・キャンペーンに歩調を合わせるかのように,「自前」の診療報酬制度改革を推進することで「出来高払い」との決別を図ったのが,州最大の保険会社,ブルークロス・ブルーシールド(以下,ブルークロス)社だった。2009年以降,病院・医師グループとの契約更新交渉に際して,同社が「Alternative Quality Contract(新クオリティ契約,以下AQC)」と呼ぶ,新たな診療報酬支払い方式を受け入れるよう要求し始めたのである。
州最大の保険会社による新契約受け入れ要求
単純にいうと,AQCは,「人頭割り(capitation)」の支払い方式に,「質に対する報奨制度(pay for performance,以下P4P)」を組み合わせたものである。「人頭割り」は,実際に行われた診療行為の多寡・内容と関係なく患者一人当たり定額の診療報酬を支払う仕組みであるが,予算をオーバーして診療行為が行われた場合,サービス提供側がその赤字をかぶる「財政的リスク」を負わなければならない。逆に出費を減らせば減らすほど黒字が増えるのであるが,90年代,いわゆる「マネジドケア」が席巻した時代に,「サービス提供側にコスト抑制のインセンティブを与える決め手」として米医療界に普及した。しかし,供給側が過剰なコスト抑制(=利潤追求)をめざした場合医療の質が損なわれる危険があった上,単価があまりにも低く設定されたこともあって「赤字」となるプロバイダが続出,急速に人気を失った。当時の不人気を反映しているのか,最近では,「capitation」ではなく,「global payment」と呼ばれることが多くなっている(註1)。
一方,「提供される医療の質の良し悪しに応じてサービス提供者に支払う診療報酬の額に差をつける」P4Pの運動がさかんになったのは,2000年代に入ってからである。規模が大きいものとしては,カリフォル...
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