医学界新聞

排便トラブルの“なぜ!?”がわかる

連載 三原弘

2023.07.31 週刊医学界新聞(看護号):第3527号より

 排便トラブルの判断で急を要するのは,電話対応や救急受診の可否,排便処置ではないでしょうか。排便トラブルに潜む病気を医師と力を合わせて拾い上げ,患者さんに安心してもらいたいところです。今回は,救急外来における排便トラブルにまつわる相談を中心に知識を整理しました。しばしば経験するシーンを1つずつ見ていきましょう。

①排便困難感,残便感は改善しやすい
②急性に比べて慢性の便秘症状のほうが危険である
③救急に定期的に浣腸しに来る患者さんは常に希望通り対応すべきである

 患者さんから便秘の訴えがあった場合は「いつからか」と質問し,危険性の高い急性と比較的低い慢性に分けます。その上で下記のいずれのタイプかを確認しましょう。便形状については第1回(本紙3523号)で紹介したブリストル便形状スケールで表現すると関係者間でのやり取りがスムーズです。

・糞便の移動が遅いタイプ
 質問例:週に3回未満か? 糞便が硬いか?

・排便が困難なタイプ
 質問例:強くいきむ必要がある? 排便を困難と感じるか? 残便感は?

・便秘型過敏性腸症候群に近いタイプ
 質問例:腹痛があるか? 腹部不快感はあるか?

 慢性の便秘に昔から悩んでいるとの訴えがあれば,下記の通り場合分けして対応に当たるとよいでしょう。

①慢性のタイプ

 排便習慣の急激な変化,予期せぬ体重減少,血便,腹部腫瘤,腹部波動(腹水),発熱ならびに関節痛などの警告症状と,50歳以上での発症および大腸器質的疾患の既往歴・家族歴等の危険因子を聴取します。全てない場合は,緊急性は乏しいと判断されます。

②糞便の移動が遅いタイプ

 ほうれん草,ブロッコリーといった不溶性食物繊維(連載第5回で詳述予定)の摂取が少ない場合は摂取を勧めます。十分摂取している場合は市販の緩下剤の内服を勧めた上で,効果が乏しい場合には外来受診を勧めましょう。

③排便が困難なタイプ

 難治性であることが多く,苦労を労うと共に,便秘を専門にする医師につなぐようお願いします(○×クイズ①)。

④便秘型過敏性腸症候群に近いタイプ

 食事指導(連載第5回で詳述予定)を行います。効果的な薬剤もありますので,食事指導で改善を認めなければ,外来受診を勧めてください。

 なお,妊娠中はプロゲステロンと消化管の圧迫により便秘や逆流性食道炎になりやすいとされます。また妊娠30週以降は体内への水分の吸収が増えることもあり,便秘や痔核が悪化しやすいです。妊婦から便秘の相談があれば,これらを説明した上で,体を冷やさず,適度な運動・リラックス,排便リズム,規則正しい食事と水分摂取を勧め,硬便にはマグネシウム剤が第一選択であることを情報提供しましょう。

 急性の場合,嘔気・嘔吐,排ガスの消失,腹痛,発熱などがあれば器質性の便秘,特に大腸癌や腸閉塞による便秘が疑われるため受診が勧められます(○×クイズ②)。とりわけ血便や便が細いという症状を訴えている場合は大腸癌に関連する症状の場合もあり,医師と速やかに相談しましょう。手術歴があれば術後腸閉塞,手術歴がなく足の付け根の痛みを訴える場合は,閉鎖孔ヘルニアの可能性があります。急な便秘症状以外に他の症状がなければ判断は難しいため,医師に判断を仰いでください。

 便秘を訴え救急外来を受診した患者に対して,医師から浣腸の指示と坐剤処方を依頼された時の対応を考えます。現場でよく使用される50%グリセリン浣腸(図1)は30 mLから150 mLまであり,患者の年齢,体重,症状によって使い分けられます(成人だと60 mLが一般的です)。直腸に注入されたグリセリンは糞便を軟化・膨潤化させると共に,腸管を刺激し蠕動を亢進させ,排便を誘発します。直腸挿入部の目盛りとストッパーを利用して挿入角度と深度に注意を払い直腸粘膜障害を予防します(図2,31)。グリセリンが作用するまでに数分を要するため,患者さんには注入後数分は我慢してもらうようお願いしましょう。また,浣腸の実施に当たって気を付けるべきことは,すっきりした感じが容易に得られるため,時に依存が発生することです。依存が疑われる患者に遭遇したら医師と相談してください(○×クイズ③)。

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図1 アコーディオン注入型グリセリン浣腸
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図2 浣腸を挿入する際の手順(文献1より転載)
a:浣腸のノズルを示指に沿わせるように持つ,b:指でガイドしてノズルを挿入する,c:ノズルを残して指だけを抜く。
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図3 挿入時の注意点(文献1より一部改変して転載)
挿入時に直腸前壁の粘膜(○部)を損傷させないよう注意したい。

 坐剤は内服薬で症状の改善が見込めず1時間以内に反応便を期待したい場合に使用されます。炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム配合剤(新レシカルボン®坐剤)は,腸内で炭酸ガスを発生させ,直腸を拡張,反射を促し,直接蠕動運動を高め自然の排便作用を促す目的で使用されます。一方のビサコジル坐剤は刺激性下剤です。成人用10 mgと幼児用2 mgの2種類があります。肛門挿入後15~60分以内に効果が現れますが,耐性化の危険性を孕む点には注意が必要です。いずれも冷所保存であることを情報提供します。

 急な便失禁は直腸癌による大腸閉塞の症状である可能性があるため受診を勧めます。慢性の経過で変化がないのであれば,食事以外の患者指導(連載第6回で詳述予定)を行い,外来受診につなげましょう。

 便の性状が水様(ブリストル便形状スケール6や7)で,急性もしくは全身状態が悪い場合は,全身疾患による急性下痢の可能性があるため受診を勧めましょう。全身状態が良く,微熱であればウイルス性の可能性が高く,医師と相談の上,感染伝播に気を付け,経口補水による自宅療法を勧めてもよいかもしれません。しかし高熱かつ粘液便・血便で腹痛を伴う場合は,細菌性大腸炎である可能性があり,抗菌薬投与が効果を発揮する場合がありますので,受診を勧めましょう。数日以内の食事内容が事前に聴取されていると,診察時に医師はとても助かります。また,前立腺癌や子宮頸癌などに対する放射線治療歴があると,放射線性直腸炎による下痢,血便かもしれません。治療歴についての聴取もお願いします。

 一方,慢性で「いつもストレスで下痢,腹痛が悪化し,今回も全く同じ症状」と訴えている場合は,下痢型過敏性腸症候群が強く疑われます。医師と相談の上,外来受診につなげれば十分かもしれません。そうでない場合,発熱・腹痛の有無,使用薬剤(PPI,抗菌薬,NSAIDs,抗癌薬),海外渡航歴,クロストリディオイデス・ディフィシル感染症歴,潰瘍性大腸炎歴を聴取した上で,受診および薬剤中止について,まずは医師と相談しましょう(薬剤性の排便トラブル,抗癌薬による排便トラブルは,第7回,第10回にてそれぞれ詳細に取り上げる予定です)。

 テネスムス(裏急後重)と呼ばれる症状で,直腸炎症の存在が疑われます。便が出た場合でも血便,粘液便があれば潰瘍性大腸炎の可能性があります。増悪傾向を認めるならば速やかに受診を勧め,変化がない場合であっても医師と相談の上,近日中の受診を勧めましょう。

 今回は,排便トラブルの判断で急を要する電話対応や救急受診の可否,そして浣腸にまつわる情報を整理しました。排便トラブルは頻度が高く,重篤な疾患も潜むため,患者さん,家族,入所施設関係者,看護師,医師の調和の取れた情報共有と共通認識による最適な判断が重要です。これらが重篤な疾患の拾い上げを実現し,関係者の負担軽減と安心感・満足感につながります。施設(診療科)として,または患者さんごとの排便トラブルに関する救急受診基準を作成・配布することも認識の共有につながるかもしれません。


1)佐々木巌,他.薬物治療 浣腸・坐薬の使い方と注意点.Medicina.2020;57(9):1501-7.

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