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対談・座談会 星哲哉,長浜正彦

2026.06.09 医学界新聞:第3586号より

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 新専門医制度の導入や医師の働き方改革など,近年の臨床研修・専門研修の現場を取り巻く環境は激変しています。限られた時間・リソースの中で質の高い教育の維持という,極めて難しい舵取りを迫られる指導医たちは,今何を考え,若手とどう向き合っているのでしょうか。

 国内屈指の研修環境を実現する聖路加国際病院,手稲渓仁会病院それぞれから,長浜氏と星氏を迎え,効率化の名の下に失われつつあるOJT(On the Job Training)をどう補完するか,また指導医としてのリアルな葛藤や,これからの内科医育成について深掘りします。

長浜 本日は星先生と臨床研修・専門研修の現場におけるリアルを共有していきたいと思います。星先生のご所属先である手稲渓仁会病院は当院の内科専門研修の連携病院の1つで,日頃からさまざまな場面で相談させていただく機会があります。

 いつもありがとうございます。直接お会いするのは久しぶりですね。私が聖路加国際病院でチーフレジデントを担っていた頃に長浜先生が医学生として見学にいらっしゃった時以来でしょうか。お互い指導医となった今こそできるノウハウの共有や本音の議論をしていきましょう。

長浜 議論に入る前に私の立場をまずは共有させてください。私は2016年から,当院の内科専門研修のプログラムディレクター(PD)を務めています。PDの具体的な業務は教育やメンタリングにとどまらず,制度対応や院内調整など多岐にわたります。本業である臨床と並行して担う重責はありますが,引き受けるに至った最大の原動力は,米国で研修医として過ごした頃の経験にあります。困難に直面する場面が少なからずありましたが,そのたびに当時のPDは迅速かつ的確に手を差し伸べてくれ,研修医にとってPDの存在がいかに大きいかを強く実感しました。今度は自分が若手をサポートする立場で全力を尽くしたいと考えたのです。

 そのお考え,非常に共感できます。私は,後期研修を終えた後に渡米してプライマリ・ケアを学びました。日本へ帰国してすぐに開業するつもりで準備を進めていたものの,帰国直前に聖路加国際病院時代の後輩から「海外でそれだけのことを学んできたのなら,次の世代に還元するのがあなたの責務ではないですか」と強く諭されたのです。この言葉をきっかけに考えが変わり,慌てて勤務先を探して現在の札幌の地で教育にかかわることになりました。2013年から臨床研修部の部長も務めながら,主に臨床研修と総合内科における専攻医指導を通して日々,若手と向き合っています。

長浜 大きな転機となる言葉だったのですね。

 私にはかなり響きました。その時に考えたのが教育の効率性です。以前,自分一人が一生をかけて救える患者さんの数を,自分なりに計算してみたことがあります。外来の頻度や現役期間を考えれば,せいぜい札幌市の人口(約200万人)くらいでしょう。しかし,もし100人の優れた研修医を育てることができれば,その100倍の患者さんを救うことができます。そう考えれば,教育という仕事の社会的意義は計り知れません。

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長浜 私たちが直面する最大の壁は働き方改革です。医師の過酷な労働環境が改善されるという大きなメリットがある一方で,教育現場に与えたネガティブインパクトは,想像以上に根深いものがあります。研修教育の根幹であるOJT機会の減少をもたらしました。

 各所で言われていると思いますが,私もひしひしとその影響を感じているところです。

長浜 かつての当院は,良くも悪くも圧倒的な経験量を通じて研修医を育てる,OJT中心の環境だったと思います。以前は多少効率が悪くてもどうにか研修医が育っていましたが,その手法が封じられた今,限られた時間内で教育の質を落とさないためには,個々の指導者の熱量に頼るだけでは限界があります。そこで重要になるのが,教育の「標準化」です。ただし,教育を標準化するには,その前提として当院で行われる医療そのものが標準化されている必要がありますが,実は簡単ではありません。当院では,混合病棟のもとで若手医師が診療科横断的に関与できる構造を生かし,各診療科の垣根を低く保ちながら院内全体の診療の標準化を進めてきました。

 長浜先生が編集の責任者をされた『内科レジデントマニュアル 第10版』(医学書院)でも標準化医療の提示を意識されていたようですね。

長浜 ええ。本書は単なる教育ツールではなく,当院内科としての標準的な診療の考え方を共有する基盤として位置づけ,前版から責任編集としてかかわってきました。

 そして医療の標準化を行った上で,教育の標準化に着手しました。当院では,古くから学年の近い人たちで教え合う環境,いわゆる屋根瓦式教育を重視しています。ただし,若手に任せるだけでは教育内容や診療の質にばらつきが生じ得るため,主体性を生かしつつ,医療の質と安全を担保する仕組みが必要です。その一環として,血液ガス分析のようなコアなテーマを扱うチーフレジデントが主催するカンファレンスについては,誰が教えても一定の質になるよう,また手間を省く意味でも資料スライドは共通のものを活用しています。かつての「背中を見て盗め」という姿勢ではなく,明確な型を提示することで,OJT機会の減少を効率化や質の部分で補完しているのです。

 屋根瓦式教育の最大の利点は,1年目の研修医にとって直近の先輩である2年目が最高のロールモデルになることです。10年目のベテラン指導医を見ても「レベルが違いすぎて自分には無理だ」と感じてしまいますが,1学年上の先輩がバリバリ働いている姿を見れば「自分も1年後にはああなりたい」という成長動機が生まれます。

長浜 また,学習においてはインプットと同等か,それ以上にアウトプットが重要です。屋根瓦式教育の中で先輩からインプットを受けると同時に,1学年下の後輩にアウトプットする環境が,研修医自身の成長に生きるはずです。

 しかし,長浜先生もおっしゃった通り,この形式には教える側に立つ若手の知識量や経験によって教育の質にばらつきが生じるという課題もあります。ムラを最小限にするためにも標準化が必要ですが,それを難しくしている原因は研修医の入れ替わりの速さに加え,医療情報のアップデートの速さもあります。血液ガスのようなコアな領域は標準化の対応がしやすいですが,その他の領域に関してエビデンスの移り変わりは指導医ですら追いついていくのが大変なほど速いですから,確立した教育の型をブラッシュアップする必要性は残り続けるでしょう。

長浜 まさにその通りですね。一度標準化した医療や教育に満足せず,最新のエビデンスに合わせて更新し続けることは,医療者の使命だと考えています。引き続き尽力したいです。

長浜 教育の標準化を進める一方で,限られた時間で教育効果を最大化するための研修システムの工夫も必要です。例えば,労務管理の遵守と教育効果の最大化を両立させるために,一定期間(2週間や1か月)は夜間の当直業務のみを担当する「ナイトフロート」を当院では導入しました。救急患者や入院対応を短期間にまとめて集中的に診る目的で導入され,これによって内科救急の対応能力の飛躍的な向上が期待できます。つまり,単なるシフト制ではないのです。

 一方で,日中の病棟管理のスキルの涵養に際しては混合病棟での経験が大いに役立つと感じています。特定の臓器に限らない多様な疾患が隣り合う環境での研修は,交互学習と分散学習を促し,知識を単なる丸暗記ではなく,長期的に応用可能なものとして定着させる効果が期待できます。

 ナイトフロートは当院でもいち早く導入し,高い研修効果を実感していました。ただ一定以上の人員がそろっていないと,個々の医師に過剰な負担がかかる側面があり,専攻医の人数不足によって残念ながら当院では中止せざるを得ませんでした。シーリング制度によって専攻医の採用が制限される中,こうした理想的な研修システムを維持する難しさを,日々痛感しています。

長浜 当院では1学年当たり研修医2人を配置する体制でナイトフロートを始めましたが,その条件を満たせない時期もありました。労務管理と教育の両面から見て良い仕組みだとは思う一方で,人数が集まらなければ回せません。

 そのほか,いかに若手に多様な経験を積ませるかを考えた時,重要になるのが他施設との連携です。

長浜 当院では専攻医2年目に通年で地域研修として他施設での経験を積んでもらっています。これは,単に医師不足の地域を助けるという意味だけではありません。自施設以外の診療現場に身を置くことは,自分たちが当たり前だと思っていた文化や価値観を相対化し,自施設の強みと課題を再認識する貴重な機会になります。外の風に触れた若手が戻ってきて,3年目に病棟長補佐およびチーフレジデントとして病棟運営にかかわる際,その経験を教育に反映してくれるのです。実際,そちらで研修を行った当院の研修医からは,星先生からのご指導や助言が大変刺激になったとの話を聞いています。

 そのような反応をいただけるのはうれしい限りですね。外部の視点を取り入れることは組織の硬直化を防ぎます。私も他施設から来た専攻医に積極的に話を聞いています。「前の病院ではどう教えていた?」と。そうすることで,私たち指導医側も新しい学びが得られますし,われわれもまた「教えてもらっている」と実感するほどです。若手医師にとっても早いうちから情報を多方面から取り入れる経験をすることは,非常に価値があると思います。

 こうした教育体制を回していく裏側には,PDや指導医ならではの葛藤もありますよね。米国ではPDが専任として位置づけられていますが,日本では臨床のフロントラインにいながら,PDとしての事務・管理業務の全てをこなさなければなりません。ただこの両立にもメリットは感じています。負担はありますが,若い研修医と現場で一緒に働くと刺激的で楽しいですし,教育の大切さを実感して後進の教育にかかわってくれる若手医師を見るのが何よりも喜びです。

長浜 同感です。自分が直接教えた若手が成長し,今度は後輩を教える立場になっていく。その循環を見ることができるのは,教育にかかわる大きなやりがいですよね。

 加えて,臨床現場に身を置くからこそ,論理的思考,判断のプロセス,標準化医療を実践として示すことができる点は大きな利点だととらえています。臨床現場と教育の「二刀流」だからこそ,伝えられるものがあるのも事実です。

 若い時期にどのような上級医に出会い,どのような考え方に触れるかは,その後の医師人生に大きく影響すると身をもって体験します。研修医たちのキャリア形成の非常に早い段階にかかわれることは,指導医冥利に尽きます。

 早い段階でのかかわりという点では,当院では研修先を探している医学生に30分ほど時間を設け,面談や病院見学の対応をしています。年間約100人と面談を行いますが,臨床研修部の部長として,そのほとんどを私が担っています。当初は採用につながればとの下心があったのですが,今は純粋に相手を知ろう,対話をしようというモチベーションで向き合っています。

長浜 素晴らしい取り組みですね。ただ,そこまで一人ひとりに向き合われていると,星先生ご自身の働き方が心配になります。

 対話や実地での指導にやりがいを感じつつも指導医の立場として常に悩みの種となるのが,公平性の問題です。教育には,誰にでも一律に提供すべき普遍的な部分と,個々の研修医の特性に合わせた個別化された部分が共存しています。このさじ加減こそが,指導医の腕の見せどころであり,最も苦心する点だとひしひしと感じています。

長浜 その難しさは非常によくわかります。私が担うPDの役割に関しても,個別の問題に直接対応し続けるのではなく,全体を俯瞰する立場であるべきだというのが最近の実感です。かつて私は,若手のトラブルに深く入り込みすぎ,かえって事態を複雑にしてしまった苦い経験があります。以来,組織としての役割分担,相談のタイミング,情報共有の方法をあらかじめ決めておくことに力を注いでいます。これは,まさに「運営の標準化」ですね。

長浜 教育の信念として私が大事にしているのは,知識や技術の先にある医師としての立ち居振る舞いです。医学は日進月歩ですから,最新の知識も5年後には古くなっているかもしれません。若手はどうしても目先の知識や技術を追い求めがちですが,本当に普遍的なのは,患者さんを前にした時に論理的に考え,必要な情報を集め,優先順位をつけて判断し,チームの中で適切に動く力だと思います。今は働き方改革で時間的な制約も大きいです。だからこそ,単に知識を授けるのではなく,こうした時代が変わっても残る本質的な部分を意識的に伝えるようにしています。

 これからは診断や知識の面で,人間がAIにかなわなくなる可能性もありますからね。私がずっと大切にしているのは,研修医1年目の時のメンターから言われた「患者のことだけは誰よりも知っていなさい」との言葉です。たとえ指導医と比べ知識はゼロに近いとしても,患者さんがどんな人間なのか。ベッドサイドで過ごす時間が長い若手こそ,そこは指導医に負けてはいけないのです。

長浜 患者さんとの関係は,最終的には人と人とのかかわりです。その意味でも,「患者さん全体を診る」という姿勢は,これからの臨床現場でますます重要になりますね。

 「先生が主治医でよかった」と感謝されている場面に遭遇したこともあります。忙しい外来の中で技術を超えた「あなた(患者)を知りたい」という真摯な姿勢を感じました。それこそが AIには代替できない医療の本質であり,私自身いまだに極め続けたいと思っています。

長浜 加えて今の時代,高齢化により複数の疾患を抱える患者さんが当たり前ですから,自分の専門外は見られないという姿勢では通用しません。裾野は広ければ広いほど良いと思います。専門特化するにしても,基盤となるジェネラルマインドは不可欠です。不確実な状況で判断し,標準的な治療を理解した上で,個別に最適化する力が求められています。

 おっしゃる通りです。人の体は全てがつながっており,それを人間が勝手に臓器に分けているだけです。その意識を常に持ち,専門医になってほしいと思います。ジェネラルという言葉にアレルギーを持つ専門医の方もいますが,本来,専門と総合は対立するものではなく,リスペクトし合いながら補完し合うべきものです。高齢化がさらに進む今後,専門分化が加速するのかは正直わからない部分があります。ただ,専門性を極めた外科医や救急医であっても,キャリアの転換期に総合診療医や在宅医へ転身するケースを目の当たりにしており,どのような専門分野に進むにしても,ベースとなるジェネラルに患者を診る力のニーズは生涯ついて回るものだと感じています。

長浜 昨今の若手には専門科志向が強い傾向もありますが,サブスペシャルティでの飛躍を可能にするのは,研修医時代の豊かな内科の土壌です。若手にそうした豊かな土壌を育んでもらうには,あらゆる研修病院が「まず内科全般を教える」という姿勢を持ってほしいですね。

 また,卒前教育と卒後教育の連携も重要です。内科全般を見渡すことができる医師こそが地域の切実なニーズであるということを,大学と現場が協力して医学生の段階から伝えていく必要があるでしょう。

 『内科レジデントマニュアル』はとうとう第10版を迎えました。私もかつて執筆に携わりましたが,この本は「当直の夜をいかに生き抜くか」という切実な現場感覚から生まれたものです。

長浜 その志を受け継ぎ,あえて情報を詰め込みすぎず,現場で真に役立つエッセンスをハンディさにこだわって研ぎ澄ませました。目の前の患者さんを救い,一晩を乗り切るために,研修医の皆さんにはぜひ白衣のポケットに忍ばせてほしいです。

(了)


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手稲渓仁会病院総合内科部長/臨床研修部部長

1992年山形大卒。沖縄県立中部病院,聖路加国際病院での研修後に渡米。米ミシガン州立大,ワシントン大病院での臨床研修(プライマリ・ケア,老年医学,リウマチ科)にて経験を積む。帰国後は手稲渓仁会病院に勤務し,2013年より臨床研修部部長20年より同院総合内科部長。

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聖路加国際病院 腎臓内科医長/内科専門研修プログラムディレクター

1999年日医大卒。聖路加国際病院での研修後に渡米し,米ペンシルベニア病院内科,バージニア州立大腎臓内科・移植科にて研鑽を積む。2016年より現職。米国医師免許を有し,米国内科学会,米国腎臓学会,米国移植学会の専門医資格を取得。『内科レジデントマニュアル 第10版』(医学書院)の編集責任者を務める。