- 医学
FAQ
解熱しない患者と向き合うためのTips
寄稿 伊東完
2026.06.09 医学界新聞:第3586号より
感染症診療の難しさは,(逆説的ですが)体温や白血球数,CRPといった「わかりやすい指標」が存在することにあります。カンファレンスで目を引く高熱やCRP高値などの臓器非特異的な指標に振り回されると不必要な介入を招き,時に治療を難しくします。本稿では,こうした指標に惑わされないための考え方を示します。
FAQ 1
抗菌薬を使っている患者がなかなか解熱しません。どうアプローチすればよいでしょうか?
解熱しないと,「抗菌薬の効果が不十分ではないか」と心配になりますよね。この状況の原因は大きく6つに分類できます(表1)1)。抗菌薬のスペクトラムの問題はほんの一部に過ぎず,まず他の原因を優先して検討することが大切です。
診断の問題:感染臓器の診断の誤りは,特に誤嚥性肺炎や尿路感染症と診断している場合に注意してください。もしかしたら,胆管炎で嘔吐を繰り返して化学性肺臓炎を起こしているかもしれない。あるいは,大腸菌による膀胱炎に見せかけて淋菌やクラミジアによる尿道炎かもしれません。加えて,定着菌を感染菌と誤認するといった原因微生物の診断の問題も生じ得ます。例えば,黄色ブドウ球菌による表面膿に対し,スワブ培養検査で偶然検出された緑膿菌を標的にセフタジジムで治療してもさすがに治りません。表面膿に対するスワブ培養検査が熱傷などの一部の例外を除いて推奨されないことは,押さえておきましょう2)。
非感染症による発熱や高体温も,しばしば感染症と誤認されます。よくあるのが脳卒中の患者での中枢性発熱で(体温調節中枢の問題なので,厳密には高体温),入院後数日内に好発することが知られています3)。他には,大動脈解離でも発熱が遷延することがあります。こういった非感染症も,自然経過を知った上で適切に経過観察できると,不必要な抗菌薬使用を減らせるかもしれません。
効果判定の問題:「改善しているにもかかわらず悪化と誤認している」状況です。一部の感染症は解熱に時間を要しますし,治療開始後に一時的に悪化して見えるものもあります。腎盂腎炎が3~4日解熱しないことは珍しくなく4),不安な場合はベッドサイドで全身状態を確認するとよいでしょう。バイタルサインが安定しており,患者に活気があるなら,治療失敗の可能性が下がります。梅毒やレプトスピラ症でのJarisch-Herxheimer反応のように,治療に伴って一過性の病状悪化を生じる感染症もあります。大切なのは,治療開始時にその後の経過を予測して観察することです。
さらに,治療効果判定の指標の選択にも注意が必要です。体温や白血球数,CRPは非特異的で,他の要因の影響を受けます。肺炎では呼吸状態,蜂窩織炎では発赤範囲など,臓器特異的な指標の重視をお勧めします。これらが改善していれば治療継続でよいことが多く,大抵の場合は解熱し,CRPも数日ほど遅れて改善します5)。どうしても解熱しない場合は,他の原因を見落としていないか再検討するとよいでしょう。
患者背景の問題:免疫不全があると治療効果の発現が遅れる印象を抱きがちですが,解熱までの時間が延長するという確立したエビデンスは見つけられませんでした。もっとも,一部のウイルス感染症で免疫不全があると病原体の排除が遅れることはよく知られています。むしろ注意すべきなのが好中球減少症などの患者で,好中球数の回復に伴って炎症反応が顕在化し,症状が見かけ上,悪化することがあります。このように,免疫不全患者では感染症の臨床経過が免疫正常者と異なる場合があるので,所見の解釈に注意しましょう。
アドヒアランス不良にも注意が必要です。治療抵抗性気管支喘息の鑑別で考慮すべき患者要因としてよく知られるこの問題は,感染症診療においても例外ではありません。結核治療で古くから重要視されてきたように,認知機能低下などアドヒアランス低下につながる背景を有する患者に経口抗菌薬を処方する際には意識しておきたい問題です。
治療中の感染症の問題:局所の解剖学的異常として膿瘍形成がある場合は,抗菌薬単独では治療抵抗性となることが多く,肺膿瘍やアメーバ性肝膿瘍など一部の例外を除いて,ドレナージの適応を検討する必要があります。なお,肺膿瘍と膿胸は混同に要注意です。また,腎盂腎炎や胆管炎では結石による閉塞が治療抵抗性の原因となることがあり,しばしば閉塞解除を要します。
遠隔部位感染としては,感染性心内膜炎,骨髄炎,化膿性関節炎,化膿性血栓症などの合併に注意しましょう。副鼻腔炎に髄膜炎や脳膿瘍を,化膿性脊椎炎に硬膜外膿瘍を合併すると,中枢神経感染症として扱わないといけません。一見して臓器移行性が問題にならない感染症でも,移行性の低い部位に感染が波及したら,治療戦略の見直しが必要になるということです。細菌以外では,カンジダ血症をエキノキャンディンで治療している最中に眼内炎が発覚し,抗真菌薬をアムホテリシンBまたはアゾール系に変更することがよくあります6)。
新たな熱源の出現:市中感染症の治療目的で入院した患者でも,入院中に誤嚥性肺炎やカテーテル関連血流感染症,Clostridioides difficile腸炎といった院内感染症を合併することがあります。これらは抗菌薬投与下でも発症しうるため,「すでに抗菌薬が投与されているから様子を見てよい」と過信すると,介入が遅れる恐れがあります。また,抗菌薬による薬剤熱や,感染症を契機とした偽痛風も,抗菌薬に反応しない発熱の鑑別として重要です。このような原因の探索には6Ds(表2)という語呂合わせも役立ちます。なお,深部静脈血栓症に伴う発熱はまれで7),発熱のみを理由とした下肢静脈超音波検査は過剰介入かもしれません。
Answer
診断の問題,効果判定の問題,患者背景の問題,治療中の感染症の問題,新たな熱源の出現を丁寧に検討し,それらの可能性が低い場合には抗菌薬の問題を考えましょう。
FAQ 2
抗菌薬の問題に関して,日常診療でよくあるピットフォールはありますか?
抗菌薬のスペクトラムの問題のみで解熱しないケースは,実臨床ではそれほど多くありません。例えば,ピペラシリン・タゾバクタムからメロペネムへ変更した後に解熱した場合でも,治療効果判定が早すぎた可能性や薬剤熱だった可能性をまず考えるべきでしょう。ただし,スペクトラムに関連するピットフォールとして,日本の大腸菌の薬剤耐性は押さえておく必要があります。アンピシリン・スルバクタムやレボフロキサシンは,地域によっては耐性率が非常に高く,尿路感染症の経験的治療として適切でない場合があります。また,黄色ブドウ球菌菌血症の治療で,同菌のバンコマイシンに対する最小発育阻止濃度が2 μg/mLピッタリの場合,「感受性」と判定されても治療失敗のリスクがあるため,他剤の使用を検討すべきです8)。
生物学的利用能の観点では第三世代経口セフェムの問題があるものの,もう広く知られているので本稿では割愛しますが,もう一段上のレベルとして,薬物相互作用に注意喚起しておきたいです。キノロン系抗菌薬は,マグネシウムやアルミニウムとキレートを形成し吸収されにくくなります。酸化マグネシウムを服用している高齢者には注意しましょう。ポリファーマシーでは,個々の薬剤特性だけでなく相互作用も含めて評価することが重要だという好例です。
Answer
ポリファーマシーの患者に対して,薬物相互作用を見落とさないよう注意しましょう。
もう一言
感染症診療の格言に「一般細菌による感染症は『悪化か改善あるのみ』」という言葉があります。では,経過が横ばいに見える場合はどのように解釈すべきでしょうか。抗菌薬が無効であれば細菌は増殖し,通常は悪化するはずです。にもかかわらず,悪化しないのであれば,少なくとも抗菌薬のスペクトラムが外れている可能性は高くありません。このような場合,実際には治療が奏功しつつあるか,あるいはドレナージ可能な病変の見落としによって病勢が膠着していることが多いように感じます。横ばいの経過を見た時には,これらの点を意識して再評価することが重要です。
参考文献・URL
1)厚労省.抗微生物薬適正使用の手引き 第四版.2026.
2)Clin Infect Dis. 2014[PMID:24947530]
3)JAMA Neurol. 2013[PMID:24100963]
4)Am J Med. 1996[PMID:8873489]
5)Intensive Care Med. 2023[PMID:36592205]
6)N Engl J Med. 2023[PMID:38118024]
7)Am Surg. 2000[PMID:10888140]
8)Clin Infect Dis. 2011[PMID:21208910]
伊東 完 筑波大学附属病院病院総合内科 講師
2017年東大医学部卒。茨城県立中央病院,東大病院感染症内科,英Anglia Ruskin大大学院(MBA)などを経て,25年より現職。『知識がつながる抗菌薬』(医学書院),『引き算の医療』(金芳堂)など著書多数。
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