医学界新聞

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寄稿 湯川慶子

2026.08.11 医学界新聞:第3588号より

◆患者による代替医療の利用非開示の実態

 近年,健康食品やサプリメントに加え,SNS等を介した個人輸入により入手した医薬品の利用が広がっている。一般的に,代替医療の利用について患者は医師へ申告しない傾向にあり,情報共有が行われないことが医療安全上のリスクにつながる可能性が危惧されている。筆者は2010年頃から,代替医療の利用実態や,代替医療に関する医師患者間コミュニケーションに着目して研究を行ってきた1, 2)

 研究では,患者の中には代替医療の副作用を経験しても利用を継続したり,医師へ申告しなかったりする者が一定数認められた3)。すなわち,代替医療等による健康被害は「不適切な利用」だけでなく,副作用が生じても利用を継続し,医療者へ申告しないことにより深刻化している可能性がある。また,健康食品プエラリア・ミリフィカ(植物性エストロゲン作用を持つ物質を含む製品)の調査では,パッケージの警告表示は購入や利用を抑止する一定の効果を有するものの,十分ではなかったことが明らかになった4)

 こうした「利用の非開示」の問題は,近年のSNSや個人輸入の普及によりさらに深刻化している。その象徴的な事例が,2型糖尿病治療薬である持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(製品名:マンジャロ®)の美容・痩身目的での不適切な利用である。実際,個人輸入したマンジャロ®を使用した患者が体調不良となったにもかかわらず,「後ろめたさ」から使用歴を申告しなかったケースも報じられた。SNSを介した購入や個人輸入,非正規流通は患者の申告をためらわせ,診断や治療に必要な情報が医療者へ伝わらないという,新たな医療安全上のリスクを生んでいる。

◆なぜ患者は利用を申告しないのか?

 安全かつ適切な医療の提供のためには,医療者と患者との適切なコミュニケーションが欠かせない。では,なぜ患者は健康食品・サプリメント等を含む代替医療の利用を医療者に伝えないのだろうか。医師患者間の代替医療に関するコミュニケーション状況を調べた筆者らの調査では,対象者の約35%が,代替医療の利用を伝えた経験がなかった。その理由として,「医師の理解や関心がなさそう(57.4%)」「医師に話す時間がない(35.1%)」「医師に効果を否定されそう(31.0%)」の他,「話題の切り出し方がわからない」「医師への申し訳なさや後ろめたさ」等もみられた。西洋医学に関する悩みについては75.5%が医師に相談していた一方,代替医療について相談した者は38.1%にとどまり,その割合は約半数であった6)。患者には,代替医療製品や自ら入手した医薬品について,医師へ話しにくいという心理的障壁が存在するのである。

◆「利用を開示できないリスク」を踏まえた診療へ

 そのため医療者は,患者からの申告がなくても,薬局だけでなくSNSや個人輸入を通じて入手した医薬品や代替医療製品を使用している可能性を念頭に置き,患者が使用歴を申告しやすい環境を整えることが重要である。患者が他の医薬品や代替医療の利用を打ち明けた際には,まずは否定せずに傾聴し,健康状態や患者の価値観,エビデンスを踏まえながら,最良の治療方針を共に検討する姿勢が求められる7)

 健康や医療に関する情報が玉石混交となり,不適切な形態で医薬品や代替医療製品を入手しやすい現在,医療者は製品自体の危険性だけでなく,「患者が利用を開示できないこと」も医療安全上のリスクとしてとらえる必要がある。患者が安心して相談できる関係を築くことが,健康被害の発生や深刻化を防ぐ第一歩となる。


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1)Motoo Y, et al. Use of complementary and alternative medicine in Japan: a cross-sectional internet survey using the Japanese version of the international complementary and alternative medicine questionnaire. JAMA. 2019;2:35-46.
2)Yukawa K,et al. Association between patients' communication motivation and physicians' past reactions/attitudes regarding complementary and alternative medicine use in Japan. Jpn Pharmacol Ther. 2018;46(7):1213-21.
3)湯川慶子,他.慢性疾患患者の代替医療による副作用への対処とヘルスリテラシーとの関連.日健教会誌.2015;23(1):16-26.
4)湯川慶子,他.健康被害報告例のある健康食品プエラリア・ミリフィカの警告表示の効果に関する調査.Ther Res. 2022;43(3):245-55.
5)Yukawa K, et al. Patient health literacy and patient-physician communication regarding complementary and alternative medicine usage. Eur J Integr Med. 2017;10:38-45.
6)湯川慶子,他.慢性疾患患者の代替医療利用に伴う経済的負担と心理的負担に対する医療専門職によるフォーマルサポート.薬理と治療.2017;45(3):345-55.
7)湯川慶子,他.補完代替医療に関するコミュニケーションのコツ.別冊「医学のあゆみ」 補完代替医療とエビデンス.医歯薬出版.2016;59-66.

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国立保健医療科学院 疫学・統計研究部 上席主任研究官

一橋大法学部卒業後,東大大学院医学系研究科修士課程修了,2012年同博士課程修了。博士(保健学)。15年より現職。専門は医療社会学,健康教育,医療コミュニケーション,倫理的法的社会的課題。当事者の視点に立った研究に従事するとともに,患者や家族,子どもたちのための書籍執筆や,医療福祉分野の人材育成を行っている。