医療法学入門 第3版

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医療者が知っておきたい法知識を、医師と弁護士両方の資格をもつ著者らが、豊富な事例をもとに説き起こす。今回の改訂では、第2版刊行以降の法制度の改正を反映して記載を見直し、収載事例の差し替えを行った。また、近年注目を集めている「医師の働き方改革」にも言及した。訴訟が身近になったいま、自信を持って医療を提供するために必読の1冊。

大磯 義一郎 / 大滝 恭弘 / 荒神 裕之
発行 2021年04月判型:A5頁:320
ISBN 978-4-260-04588-9
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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第3版の序

医療法学のあゆみ ~初版から9年~
 2012年に初版が出版されてから,9年が経ちました。「医療法学」と言われると初めて聞いたと感ずる方が多いかと思われますが,これまでも医学教育カリキュラムの中には存在しており,国家試験においても毎年,複数題出題されていました。
 ただ,かつては医療現場における法の適用が牧歌的であったこともあり,公衆衛生学や法医学で「その他諸規則」として“おまけ”的に取り扱われているにすぎませんでした。
 しかし,近年の社会情勢の変化を受け,医療に関する法整備およびその適用の厳格化が急速に進んだ結果,医師も従来のままでは許されなくなりました。このような時代の変化から,医学部教育における専門家による適切な医療法学教育が強く求められるようになりました。
 そして,日本医学教育評価機構(Japan Accreditation Council for Medical Education;JACME)が作成した「医学教育分野別評価基準日本版Ver. 2.2 世界医学教育連盟(WFME)グローバルスタンダード2015年版準拠」(平成29年6月26日)では,「2.教育プログラム」に「2.4 行動科学と社会医学,医療倫理学と医療法学」と示されることとなり,「医療法学」は,医学部教育において,カリキュラムに定め,実践しなければならない基本的水準に位置づけられることとなりました。

医療法学のコア ~プロフェッショナル・オートノミー~
 医療と法の関係を決定づけたのはナチスドイツにおける非人道的な人体実験を裁くべく第二次大戦後に行われた,いわゆる「医者裁判」です。被告となった多くの医師たちは,当時のドイツ法に何ら違反していませんでした。そこで,各国の法よりも上位の規範である医の倫理が存在するとし,たとえ政府が制定した法や命令に基づいていたとしても,医の倫理に反した研究は裁かれるべきとされました。そして,医者裁判終結の翌1948年に世界医師会が結成され,以降,ジュネーブ宣言,リスボン宣言,ヘルシンキ宣言等,医プロフェッションとして各国法の上位規範として遵守すべき規範が示されました。
 一方,わが国の現状をみるに,1999年以降,医療現場への法の介入が加速度的に増し,医療現場で何らかの課題が発見されるたびに,法規制が行われるという「医療の法化」が過度に進んでいる状況にあり,その結果,わが国の医療現場にさまざまな弊害が生じています。
 もちろん,医師は各国法に従う必要がないということではありません。「法は倫理の最低限度」という基本原則をわが国の現状は遥かに超えており,かつ,弊害が生じていることが問題なのです。
 2000年代より,世界医師会の大きなテーマとして,プロフェッショナル・オートノミーが挙げられています。わが国におけるこの20年間の失敗は,医療現場で生じた問題を医プロフェッションが主体的に解決していくことをせず,医療現場を知らない法のみの専門家に課題の解決を丸投げしたことにあります。
 「医療法学」が医学部教育のなかで健全に根付き,発展していくためにも,丸投げすることなく(法の専門家の協力を得ることはもちろん問題ありません),プロフェッショナル・オートノミーのもと,医療現場の実状に根差した「医療法学」教育を行っていくことが肝要と考えます。

これからの医療法学
 私のこれまでの人生は,本当にメンターに恵まれた人生でした。医療界,法曹界の本当に素晴らしい先達に優しく,ときに厳しく導いていただいたおかげで今があることを痛感しています。
 私自身,人生の折り返し地点を過ぎ,次世代の育成,バトンタッチに注力する“シフト・チェンジ”の時機を迎えています。
 医療法学は新しい領域であり,チャンスに溢れています。私自身がたくさんのメンターからそうしていただいたように,若い方々が活躍できる場を積極的に作ることが仕事だと考えています。
 研究は楽しいですよ。興味がある方はお気軽にご連絡ください。
 最後に,本書作成にあたり初版に引き続きお世話になった,医学書院医学書籍編集部天野貴洋氏および制作部林田尚史氏に感謝を申し上げます。

 令和3年3月1日
 大磯義一郎

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第1章 なぜ医療法学なのか
  1 医療と法をめぐる情勢
  2 専門資格としての医師
  3 医療提供体制における医療法学
  4 医薬品と医療機器に関する医療法学
  5 公衆衛生と医療法学
  6 医療紛争と医療法学
  7 労働者としての医療者
  8 医の倫理と医療法学

第2章 医師法,コメディカル法
  1 総論
  2 医師免許の得喪
  3 臨床研修
  4 医師法上の業務
  5 コメディカルの法律

第3章 医療法
  1 医療法とは
  2 組織法としての医療法
  3 行政庁の監督
  4 その他の事項

第4章 公衆衛生に関する法規
  1 母子保健
  2 成人保健
  3 高齢者保健
  4 学校保健
  5 精神保健
  6 地域保健
  7 障害者福祉
  8 社会福祉
  9 感染症
  10 労働衛生
  11 食品衛生
  12 環境衛生

第5章 刑事責任,行政責任
 A.刑事責任
  1 医師を対象とした刑罰法規
  2 業務上過失致死傷罪
 B.行政責任
  1 行政処分
  2 行政処分に至る手続き
  3 法改正後の行政処分の特徴

第6章 民事医療訴訟
 A.民事訴訟総論
  1 総論
  2 診療契約
  3 過失・説明義務・因果関係・損害
 B.民事医療訴訟の実際
  1 診断における紛争類型
  2 治療行為における紛争類型
  3 説明義務に関する紛争類型
  4 療養上の世話における紛争類型

第7章 保険診療
  1 医療費
  2 日本の医療保険の特徴
  3 医療保険の種類
  4 健康保険法
  5 高齢者医療確保法
  6 まとめ

第8章 介護保険制度
  1 高齢者福祉政策の歴史
  2 介護保険法
  3 介護保険法の現状

第9章 労働法
  1 労働者と使用者
  2 労働時間
  3 懲戒と解雇

第10章 医薬品医療機器等法
  1 医薬品医療機器等法の目的
  2 医薬品
  3 医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品
  4 医薬品の分類
  5 医薬品の上市と治験
  6 医学研究
  7 添付文書
  8 薬害
  9 医薬品副作用被害救済制度
  10 医薬分業
  11 薬局
  12 薬剤師

第11章 医の倫理と法
  1 医の倫理の歴史的背景
  2 日本における医学研究の倫理指針
  3 インフォームド・コンセントと共同意思決定
  4 脳死と臓器移植
  5 終末期(人生の最終段階)の医療

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