事例で学ぶ
医療機関で起きる法的トラブルへの対処法
弁護士×医療現場の専門家による法的トラブルQ&A!
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病院、クリニックでは日々様々なトラブルが生じている。本書は具体的な事例を紹介しつつ、トラブルへの対処や予防の方法を、Q&A形式でわかりやすく解説する。弁護士の豊富な実務経験をもとに、医療現場の専門家の視点も加わり、最新の法改正やトピックにも対応。医療事故や労務管理のみならず、SNS、サイバー攻撃、医師の働き方改革など多岐にわたるテーマを取り上げている。医療現場のお悩み解決に役立つ一冊。
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序文
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序
医療機関では,日々様々なトラブルが起こっています.弁護士の立場からトラブルに関するご相談に与ると,医療機関は,患者や職員だけでなく,その家族,地域住民,取引先,警察,裁判所など様々な存在と関わりのある,いわば小さな“街”のような存在であると感じます.
編集者らが所属する弁護士法人色川法律事務所は,医療機関,医療関連団体,製薬関連企業,学術研究機関,行政機関など,医療・製薬関連のクライアントから,幅広くご依頼・ご相談を頂いています.また,その実務経験を医療機関の皆様に還元すべく,2021年5月号から現在に至るまで,雑誌「病院」に「医療機関で起きる法的トラブルへの対処法」を連載してきました.本書は,読みやすさの観点や近時の法改正なども踏まえて連載時の原稿に相当量の加筆や修正を行うとともに,時代に即した新たなテーマを書きおろして取りまとめたものです.
本書の特徴としては,病院,クリニックなどの医療機関で起こり得るトラブルを,(もちろんフィクションですが)具体的な事例として設定した上で,その対処や予防の方法について,法律知識にとどまらず,実務的なアドバイスを解説しています.また,より現場に即した内容とすべく,実際に医療現場でご活躍なさっている田渕一様,荒神裕之様から実務的視点に立ったご意見をテーマごとに頂いています.加えて,医療事故や労務管理といった伝統的な問題だけでなく,SNS,サイバー攻撃,医師の働き方改革といった最近の論点も取り上げています.本書が,医療現場の方々にとって,トラブルに直面したときに真っ先に手に取っていただき,少しでもお役に立つものになることを願っております.
最後に,連載の開始にあたり様々なアドバイスを頂いた三谷和歌子弁護士,編集協力として貴重なコメントを頂いた田渕様,荒神様,編集者として連載を担当いただいた鈴木佳子氏,紙屋栞里氏,書籍化を担当いただいた川村真貴子氏をはじめとした医学書院の皆様,その他多くのご関係者の皆様には,本書の出版にあたり多大なるご尽力を賜りました.心から御礼を申し上げます.
2024年7月
弁護士法人色川法律事務所を代表して
編集者一同
目次
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I 患者等とのトラブル
1 対応困難患者への対応(1)──必要な診療を拒む患者への対応
Point 患者への正確な説明(場合によっては療養上の指導)・記録化が必要です
2 対応困難患者への対応(2)──医師・看護師への暴言・暴力への対応
Point 患者とのやりとり等の記録化,固定された複数の窓口担当者で対応するなどの体制づくりが重要です
3 暴力・暴言を伴わない患者の迷惑行為に対する診療拒否
Point 調査による事実関係等の確定と方針検討,診療拒否する場合には段階的対応が必要です
4 医療機関で発生した転倒・転落事故により負う責任
Point 転倒の危険性を具体的に予見しながら結果回避措置を講じていなかったために患者が転倒した場合には,損害賠償責任を負います
5 患者への説明義務
Point 患者に対し,本人の理解が確認できる方法で,通常の医師であれば説明するであろう事項のほか,認識しうる患者の関心事項も含めて説明しましょう
医療の現場から
II 債権回収に関するトラブル
1 医療費債権回収(1)──請求の手段
Point 段階に応じて適切な対応を検討し,毅然と対応しましょう
2 医療費債権回収(2)──患者が死亡したときの対応
Point 未払いの医療費は相続人に請求できますが,相続人を正確に把握するには相続人調査を実施し,事案に応じて対応する必要があります
3 医療費債権回収(3)──患者が破産したときの対応
Point 過去の未払医療費債権については破産手続に則って対応するとともに,新たな診療関係についてはこれと切り分けて適切に対応する必要があります
医療の現場から
III インターネット関係のトラブル
1 インターネット上の誹謗中傷への対応(1)──初動対応・削除
Point インターネット上の誹謗中傷への対応は,初動が重要です
2 インターネット上の誹謗中傷への対応(2)──発信者の特定・責任追及
Point 匿名の発信者を特定する方法として,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求があります
3 職員のSNSによる患者のプライバシーの漏えい
Point 医療機関が責任を負わなければならない可能性があります
医療の現場から
IV 情報管理のトラブル
1 医療機関を標的としたランサムウェアによるサイバー攻撃
Point 身代金要求には安易に応じるべきではありません
2 医療機関内でのプライバシーへの配慮
Point 必要性がある場合には直ちに問題になるわけではありませんが,名前も防犯カメラの映像もプライバシーや個人情報保護等の観点から慎重な取り扱いが求められます
3 医療機関の広報と肖像権への配慮
Point 写真・動画等を広報に利用する際は,肖像権侵害が生じないようあらかじめ被写体の同意を得ておきましょう
4 診療録を巡る問題点(1)──診療録の望ましい記載
Point 少なくとも,その時点までの診療経過と診断の根拠を把握でき,その後の診療を適切に実施できるという程度の情報は記載しておかなければなりません
5 診療録を巡る問題点(2)──保存期間は5年でよいか
Point 医師法上の観点からは適切な対応ですが,損害賠償リスクの高い診療が含まれる場合は,保存期間の延長を検討しましょう
6 医療機関に対するサイバー攻撃とベンダの責任
Point 契約書類等を精査し,十分に準備して交渉に臨みましょう
医療の現場から
V 取引先等とのトラブル
1 いわゆるMS法人との付き合い方
Point MS法人との業務提携について,医療法に形式的に反しない場合であったとしても,実質的に反する場合は問題があります
2 医療機関情報システム開発の遅滞と契約解除
Point 履行期の合意,医療機関側の協力義務違反の有無などを検討し,慎重に対応しましょう
3 人材紹介会社とのトラブルを回避するために
Point 契約締結に先立つ事前の情報収集が重要です.事後の責任追及は困難です
4 医療用医薬品の入札談合に医療機関は損害賠償請求を行えるか
Point 相手方との契約書,民法上の不法行為や独占禁止法の要件を満たす場合は,損害賠償請求が可能です
医療の現場から
VI 労務に関するトラブル
1 非正規従業員を巡る問題(1)──労務管理一般と業務請負
Point 業務請負と労働者派遣は似て非なるものですので,違いを意識して契約を締結しましょう
2 非正規従業員を巡る問題(2)──非正規従業員の労務リスク
Point 派遣先は派遣労働者の雇用主ではありませんが,実質的に雇用主と同様の義務や制約が生じる可能性があります
3 ハラスメント対応──パワーハラスメントの例をもとに
Point ハラスメントに関する相談を受けた場合は,相談窓口への報告を勧め,報告を受けた医療機関は直ちに事実調査(ヒアリング等)を行いましょう
4 労災事故への対応──「パワハラによるうつ病」と申請された例を中心に
Point 直ちに事実関係の調査を進め,認定した事実に従って労災申請手続に協力してください
5 奨学金や研修費用などの貸与・返還請求時の注意点
Point 奨学金返還も立替金の支払請求も,制度内容が合理的で職員の任意性が認められる必要があり,当然に全額請求が認められるとは限りません
6 当直・宅直勤務が労働時間に当たるかどうか
Point 当直も,宅直勤務も,労働時間に当たる可能性があります
7 自己研鑽が労働時間に当たるかどうか
Point 労働時間該当性は,医療機関の指揮命令下にある労務提供と評価することができるかどうかにより判断されます
8 労働組合の要求に対してどのように対処すればよいか
Point 労働三権〔団結権,団体交渉権,団体行動権(ストライキ権など)〕は,医師・看護師らでも認められます
9 トランスジェンダーの職員への合理的配慮
Point 本人の申出の趣旨や状況等を確認し,「性自認に基づいた性別で社会生活を送る本人の利益」と,「他の職員等への配慮・適切な職場環境の構築」との調整を図ることが必要です
10 医師の働き方改革
Point 経過措置として暫定的な特例措置が設けられていますので,措置の内容や要件を確認し,必要であれば措置を受けるための手続を行います
医療の現場から
VII その他のトラブル
1 医療機関の不祥事と第三者委員会の設置
Point 不祥事はある日突然発覚します.平時から,第三者委員会を設置する趣旨目的,手続などを確認しておきましょう
2 院内で発生した刑事事件の捜査に対して,どのように対応するべきか
Point 刑事事件の捜査への対応においては,被害者が警察の捜査等に協力できるかどうかなど事案に応じた慎重な検討が必要です
3 医療過誤を主張された場合の対応
Point 問題とされる医療行為に関する調査を行い,弁護士や保険会社とも連携して,有責・無責,賠償の範囲などの方針を決めます
4 裁判所の差押命令への対応
Point 差押命令が届いた後は,職員(債権者)に支払うことはできなくなります
医療の現場から
索引
書評
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明日の安心のために―法律は頼りになる相談先
書評者:松村 真司(松村医院院長)
2000年に亡き父が開設した診療所を継承し,四半世紀が経過した。世間の人が抱く,気心の知れた地域の人々と,ゆったりとした診療が続く穏やかな日々……などという地域医療のイメージは,とうの昔に幻想となっている。実際には,次々と持ち込まれる多種多様な問題に対応するうちに,はっと気が付くと時が流れた,というのが実感である。世の中には本当にいろいろな人がいる。人がいるところに問題が発生する。そしてその問題は,時にトラブルへと発展する。いや,むしろ小さな診療所だからこそ,トラブルの当事者の一方になりやすい。もちろん,それらを何とか対処できてきたからこそ,今があるのであるが,やはりその間にはさまざまな方面の助けを借りたこともある。診療面での相談であれば助けを借りる先はいくつもあるが,法律面での相談というとなかなかそういうわけにもいかない。そして当然のことであるが,時とともに社会状況は変化を続ける。好むと好まざるとにかかわらず,以前は遭遇しなかったような問題が次々と発生する。
本書は雑誌『病院』の連載「医療機関で起きる法的トラブルへの対処法」を書籍としてまとめられたものである。取り上げられている法的トラブルは,患者対応や労務関係のような「古典的」トラブルにとどまらず,昨今問題となっているインターネット上の誹謗中傷,サイバー攻撃などの情報管理の問題,人材紹介会社とのトラブルなど多岐に及んでいる。トランスジェンダーの職員への合理的配慮や,昨今話題の働き方改革に伴う問題など,現代的なトピックも多数取り上げられている。
これらの法的トラブルに関してまず具体的事例が提示され,Q&A方式で法的観点からの対処法が解説されている。これらは全て架空の事例ということであるが,実にリアルで,明日にでも診療現場で遭遇しそうな事例である。また,実際に起きた場合の対処方法だけでなく,事前の予防策も記載されているため,非常に実践的かつ有用なものとなっている。法律的観点はもちろん大変参考になるが,それに加えて「医療の現場から」というコラムが各トピックの末尾に記載されており,「法律はそうでも実際の現場では……」という実務的なコメントが全体のバランスを保っている。
当然のことだが,これまで四半世紀が無事だったからといって,明日は大丈夫という保証は全くない。全てのトラブルに完璧な対応をすることは無理だとしても,よくある問題について,基本的対処法を学ぶにこしたことはない。まして,本書では予防法まで提示してくれているのだ。法律は敵でも味方でもない。あくまで,法律は困ったときに私たちを助けてくれる相談先でありその拠り所である。そんな困ったときに,本書は真っ先に開いて相談をする先の一つになるだろう。そして,相談先は一つあるだけで安心なものである。
事務部門だけでなく各医療部門の管理者の手元に置いておきたい一冊
書評者:仲田 昌司(三菱京都病院事務長)
本書は,弁護士の立場から,具体的な事理を通して,医療機関で発生するさまざまな法的トラブルに対する対処のバイブル的なテキストです。
◆日々直面する法的トラブル
日々の病院運営で必ず遭遇するさまざまなトラブルは,その頻度,重要度はさまざまで,その対象も,患者とのトラブル,職員同士のトラブル,取引先とのトラブル,最近では,SNSや情報管理に関するトラブルなどに備えなければなりません。良好なコミュニケーションだけでは,解決できない悪質なトラブルも多く,法的な対処も必要な場合が発生します。事例によっては,法的に問題があるかどうかもわからない場合もあるでしょう。また,対応を誤ると逆に医療機関や管理者側に法的リスクが発生する場合もあります。
◆事例に対する対処から研修材料まで使える実用書
本書は,これらのさまざまなトラブルに対して,「患者等とのトラブル」「債権回収に関するトラブル」「インターネット関係のトラブル」「情報管理のトラブル」「取引先等とのトラブル」「労務に関するトラブル」「その他のトラブル」に分類された具体的な事例をもとにQ&A形式で構成されており,解説も詳しく記載されています。さらに,根拠となる法律や法的な対処など,法的に押さえておくべきポイントが整理されているだけでなく,参考になる判例や文献なども紹介されています。また,各Q&Aには「トラブルを予防するために」が設けられており,トラブルを未然に防ぐための実務的なアドバイスも記載されています。そのため,新人研修から管理者研修まで,広く職員研修の研修材料としても活用できます。
事務部門だけでなく,各医療部門の管理者の手元に置いておきたい一冊です。