脳性麻痺の改訂された「説明」と日本語訳の公開
寄稿 樋室伸顕
2026.07.14 医学界新聞:第3587号より
◆「定義」から「説明」へ
脳性麻痺は,小児リハビリテーションや発達医療の対象として重要なテーマです。2007年にRosenbaumらは脳性麻痺を「胎児期または乳児期の脳に生じた非進行性の障害に起因し,活動制限を引き起こす運動および姿勢の発達における永続的な障害」1)と定義し,長らく用いられてきました。その後,世界各地で多様な臨床データが蓄積され病因やメカニズムへの理解が進んだことに加え,小児期から成人期への移行や加齢に伴うニーズの変化への認識が広がり,当事者の経験に基づく視点と主体的な関与の重要性が高まってきました。こうした背景を踏まえ,脳性麻痺を現代的な視点で説明し直した“Updated description of cerebral palsy”2, 3)がこの本年完成し,その日本語版(表)も作成・公開されました。
注目すべきは「definition(定義)」ではなく「description(説明)」という表現です。定義は,他の疾患や状態と区別する基準として「何が脳性麻痺であるか」を示す一方,今回の「説明」は,脳性麻痺を多様で複雑な神経発達に関する状態(condition)として,その特徴や生活への影響を描いています。
◆日本語訳の作成とそのポイント
日本語版は,筆者を含む日本脳性麻痺・発達医学会(JACPDM)のメンバーを中心に,小児神経科医,整形外科医,理学療法士,作業療法士,当事者および家族による多職種チームで作成されました。翻訳に当たっては単なる逐語訳ではなく,原文の趣旨を踏まえた用語や表現を検討しました。完成した日本語版は,逆翻訳法による翻訳の妥当性が確認されています。
今回の翻訳で最も議論を呼んだのは,従来の定義で用いられていた“not progressive”という表現が,改訂により“not degenerative”に変更されていた点です。従来版の翻訳である「非進行性」は日本で広く用いられており今回も採用を推す声があったものの,原文の表現と概念の正確さを重視し「変性性でない」と訳すことになりました。
また,今回は医療者向けの説明文だけでなく,当事者や家族,一般の人に向けてわかりやすさを重視した「平易な言葉での説明」が併記されています(https://www.mackeith.co.uk/journal/updated-description-of-cerebral-palsy/)。その中の“thrive”は訳が難しい言葉でした。今回採用した「自分らしく力を発揮して生きていくことができます」という表現は,当事者の意見を踏まえたものであり,脳性麻痺とともに生きる人々の経験や価値観を反映しています。
今回の説明は,臨床・研究において,脳性麻痺のある人を生涯にわたって理解する手がかりとなり,必要とされる支援や生活上の課題が一人ひとり異なる多様性への理解と,当事者・家族参画の重要性を示しています。日本語版が,わが国における脳性麻痺の理解の深化,多職種連携,そして当事者中心の支援につながる一助となることを期待します。
参考文献・URL
1)Dev Med Child Neurol Suppl. 2007[PMID:17370477]
2)Dev Med Child Neurol. 2026[PMID:41612151]
3)Mac Keith Press. https://www.mackeith.co.uk/journal/updated-description-of-cerebral-palsy/(最終アクセス日:2026年6月23日)

樋室 伸顕(ひむろ・のぶあき)氏 札幌医科大学医学部社会医学講座公衆衛生学分野 准教授
2000年札医大保健医療学部理学療法学科卒。理学療法士として障害児施設,重症心身障害児・者施設などで臨床に従事したのち,10年札医大大学院保健医療学研究科,13年同医学研究科修了。博士(医学)。札医大医学部公衆衛生学講座助教,講師を経て22年より現職。専門理学療法士(小児・神経)。研究テーマは障害のある子どもとその家族を中心としたリハビリテーション。
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