こどもの神経疾患の診かた

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一般小児科医や研修医にむけた小児神経診療の入門書。日常的によく遭遇するこどもの症候に対し、フローチャートをもとに鑑別診断を行う「症候編」と、患者家族説明の具体例と主な疾患の解説をあげた「疾患編」の2部構成。症候からの鑑別診断から、疾患をおさえ、さらに診療の実際が記載されている本書の流れは、まさに臨床現場そのもの。本書を読破することによって自然と、小児神経学の診療能力をアップすることができる。
編集 新島 新一 / 山本 仁 / 山内 秀雄
発行 2016年05月判型:B5頁:256
ISBN 978-4-260-02471-6
定価 7,150円 (本体6,500円+税)

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 小児神経学が成人の神経学と決定的に異なるのは,小児は年齢に応じた神経学的発達を遂げ,時々刻々とその正常所見が変わることです.わかりやすく例を挙げれば,大脳発達の未熟な新生児および早期乳児は正常でも原始反射が出現し,その後の神経発達とともに消失します.しかしそれらの反射が成人で出現すれば,原始反射ではなく病的反射と呼びます.したがって年齢に応じた神経系の正常発達を知らなければ,診察する小児が正常か病的かの判断ができません.
 さらに,一般小児科医や研修医の先生方が小児神経疾患の診療をする際に困難さを感じるのは,そのアプローチの仕方がわからない,どのような所見があった場合にどのような疾患を考えればよいのだろうか,といった鑑別診断の進め方にあると考えます.そのことが小児科のなかでも,けいれんなど大変ありふれた症候が多いにもかかわらず,小児神経疾患に対して若手のみならず一般小児科医が苦手意識をもつ所以ではないでしょうか.
 これまでのわが国の小児神経学の書籍には,症候から鑑別診断を列挙し,そのうえでそれぞれの疾患に言及したものはほとんど存在していませんでした.本書は特長として,以下のような構成によりまとめられています.
(1)けいれん,意識障害,発達障害,運動麻痺などといった,日常診療で比較的遭遇しやすい神経症候の鑑別診断を,フローチャートで提示.
(2)それぞれの代表的な疾患についてわかりやすく解説.
(3)想定される患者(家族)からの質問のうち比較的答えづらいと思われる数項目を列挙し,それに対する適切な受け答えを記載(保護者や患者さん本人からよくある質問).
(4)小児神経専門医ならではの診療のコツを挙げて解説(コラム).
 ありふれた神経症候の鑑別診断から出発し,それらの疾患をよく学び,その診療の実際がQ&A方式で記載されているといった本書の流れは,まさに臨床の現場そのものであり,本書を読破することによって,小児神経学の診療能力が自然に向上すると考えています.またさらに,研修医の方々が日常診療の現場で神経症候から鑑別診断を迅速に求められた際にも,容易に対応できるハンドブック的な特性ももつ書籍でもあります.
 最後に,本書を出版するにあたっては多くの小児神経専門医の先生方に多大なご協力をいただきました.日本を代表する各執筆者の先生方に,この場を借りまして厚く御礼を申し上げます.

 2016年2月
 編者代表 新島新一

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I 症候からの鑑別診断
 1 けいれん
 2 意識障害
 3 知能低下・退行
 4 発達障害
 5 運動麻痺
 6 失調
 7 不随意運動
 8 筋緊張異常・低下
 9 筋力低下
 10 頭痛
 11 頭囲異常・頭蓋形態異常
 12 感覚障害
 13 眼の異常
 14 聴覚障害

II こどもの主な神経疾患
 1 新生児発作
 2 熱性けいれん
 3 てんかん
 4 髄膜炎
 5 急性脳炎
 6 急性脳症
 7 脳出血
 8 脳梗塞
 9 もやもや病
 10 脳腫瘍
 11 先天代謝異常症
 12 ミトコンドリア病
 13 学習障害(限局性学習症)
 14 注意欠如・多動症
 15 自閉スペクトラム症
 16 急性散在性脳脊髄炎
 17 多発性硬化症
 18 急性小脳失調症
 19 脳性麻痺
 20 筋疾患
 21 重症筋無力症
 22 末梢神経障害
 23 Guillain-Barré症候群と類縁疾患
 24 神経線維腫症
 25 結節性硬化症
 26 Sturge-Weber症候群
 27 片頭痛
 28 Down症候群・染色体異常
 29 水頭症

索引

Column
短時間に聴取すべきけいれんの問診内容ABCDEF
問診だけで診断できるてんかん症候群
神経症状で発病する先天代謝異常症の鑑別方法
血清CK値による筋疾患の鑑別
項部硬直診察の際の姿勢
誰でも知っているMoro反射の見落としやすい左右差
むずむず脚症候群
ヒポクラテスの中耳炎の頭蓋内合併症についての記述
てんかん発作と非てんかん性イベントとの見分けかた
海馬萎縮と内側側頭葉てんかん(MTLE)
月曜日に入院する髄膜炎は予後不良?
小児の末梢神経疾患
脳出血の原因検索
知っていれば得をする「口角下制筋形成不全」
小児脳腫瘍の早期診断-子どもたちの守り手となるために
発達障害再考
自閉スペクトラム症児にとっての感覚の問題
マイクロアレイ染色体検査
Fog test
指さがしテスト

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目にした途端思わず手に取ってしまう本
書評者: 大澤 真木子 (女子医大名誉教授)
 目にした途端思わず手に取ってしまう温かく心が和む表紙の本である。編集は,日夜活躍中の“新しいアイディアに溢れ,即実行”の新島新一教授(順天堂大練馬病院小児科),“国際感覚溢れ,実践追究”の山本 仁教授(聖マリアンナ医大小児科),“こどもたちや家族の気持ちを大切にし,勉強大好き,身を粉にして完璧追求中”の山内秀雄教授(埼玉医大小児科)による。いずれの方も教育熱心で次世代の小児神経診療を担う医師育成を切望しておられる。著者は新進気鋭の37名から成る。

 本書の特徴は,何と言ってもⅠ章で症候から鑑別診断を列挙し,Ⅱ章で各々の疾患について言及している点であろう。けいれん,意識障害,知能低下・退行,発達障害,運動麻痺,失調,不随意運動,筋緊張異常・低下,筋力低下,頭痛,頭囲異常・頭蓋形態異常,感覚障害,眼の異常,聴覚障害という日常診療で遭遇しやすい14の症候を実感溢れる図と神経疾患のフローチャートで提示,各々で挙がった29の代表的疾患〔新生児発作,熱性けいれん,てんかん,髄膜炎,急性脳炎,急性脳症,脳出血,脳梗塞,もやもや病,脳腫瘍,先天代謝異常症,ミトコンドリア病,学習障害(限局性学習症),注意欠如・多動症,自閉スペクトラム症,急性散在性脳脊髄炎,多発性硬化症,急性小脳失調症,脳性麻痺,筋疾患,重症筋無力症,末梢神経障害,Guillain-Barré症候群と類縁疾患,神経線維腫症,結節性硬化症,Sturge-Weber症候群,片頭痛,Down症候群・染色体異常,水頭症〕について,わかりやすく解説している。読んでいると実感を持って読者の目から脳に飛び込んでくる日常におけるヒントが山積みである。

 ページの関係で一部の例を挙げるにとどめるが,「1.新生児発作」では発作時脳波を通常脳波とα脳波で示し,また原因検索,治療の手順なども示されている。「3.てんかん」では,2010年の発作型分類,良性てんかん症候群の症状や抗てんかん薬の作用機序と副作用も詳述されている。「4.脳炎」では,一次性脳炎,二次性脳炎〔抗NMDA受容体抗体脳炎,抗VGKC複合体抗体,難治性頻回部分発作重積型急性脳炎AERRPS(欧米ではFIRESと呼称されることが多い)〕の原因から治療に至る基本的考え方,「5.脳症」ではけいれん重積型急性脳症(AEFCSE/AESD),可逆性脳梁膨大部病変を有する脳炎・脳症(MERS),急性壊死性脳症(ANE),先天代謝異常症に伴う脳症,出血性ショック脳症症候群(HSES),Reye症候群が,病日を追った画像と共に言及されている。一読により,最近略語が飛び交い混乱しやすい概念を整理できる。

 「7.脳出血」では,小さな出血も見逃さない工夫,脳外科との連携法が言及されている。「13.学習障害(限局性学習症)」「14.注意欠如・多動症」「15.自閉スペクトラム症」ではその道の超一流の専門家の日常診療での知恵や工夫が述べられ,本人や家族,教育者と向き合うときの参考になる。「26.Sturge-Weber症候群」では,脳外科手術に踏み切る基準なども豊かな経験に基づき書き込まれており,初心者のみならず専門医にも有用。さらに,各疾病解説に入る前に,患者(家族)が疑問に思うと考えられる質問のうち比較的答えづらいと思われる数項目を列挙し,読者を動機付けしながら,それに対する適切な答えを記載している。また20のコラムでは,専門医ならではの診療のコツが解説されている。索引は,欧文,和文から成り,和文に日常的使用される欧文が併記されている。

 初心者の手引書であると同時に専門家が俯瞰するために有用である。

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