医学界新聞

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寄稿 八重樫牧人

2026.05.12 医学界新聞:第3585号より

 患者は,かかりつけ医のもとで医療を受けていれば,必要な予防医療を十分に受けられるのだろうか。日本における大多数の患者にとって,その答えは「NO」であろう。質の高いエビデンスによって患者の利益が示されている予防医療は,医師として積極的に推奨すべきである。しかし,日本の卒前・卒後を通じてエビデンスに基づく予防医療の教育は十分と言えず,その欠落に多くの医師や患者が気づいていないのが現状である。

 一方,米国では予防医療専門委員会(United States Preventive Services Task Force:USPSTF)が予防医療の推奨を策定しており,現在約90のトピックについて公衆衛生上の利益と害のバランス,およびエビデンスの確実性に基づき,A(強く推奨),B(推奨),C(中立),D(推奨しない),I(エビデンス不十分)の5段階に分類。同様に,予防接種(ワクチン)については,予防接種実施諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)が推奨を策定している。USPSTFのAまたはB推奨の予防医療行為や,ACIPが推奨するワクチンは,米国では公的医療保険および多くの民間保険において自己負担なしで提供されることが,医療費負担適正化法(Affordable Care Act:ACA)によって義務づけられている。さらに,公的機関(CMSやHEDISなど)がこれらの予防医療の実施率を評価し,その達成度に応じて医療機関の収入が-9~+9%の範囲で変動する仕組みが整備されている。

 筆者が修了した米国の総合内科研修では,週1回の継続外来研修が必須であり,各患者を診察した後に上級医による指導を受けていた。その際,内科医・家庭医の必須スキルとして,USPSTFやACIPが推奨する予防医療を適切に提供・提案できているかについて徹底した指導が行われていたことを記憶している。帰国後,当時勤務していた亀田クリニックにおいて,かかりつけ患者全員に対して推奨すべき予防医療項目をまとめたA4一枚の資料を配布し,総合内科外来全体で予防医療の推進に取り組んだ。この取り組みは2015年に本紙3129号でも紹介され1),資料は全国で活用された。

 米国内科学会日本支部はこの方針に賛同し,新たに予防医学推進タスクフォース委員会を設置した。現在は25人の委員が協力して活動している。さらに,念願であった予防医療のWebページを2026年2月19日に開設()し,各予防医療トピックについてUSPSTFやACIPがどのようなエビデンスに基づいているかを確認できる個別ページを作成した。加えて,日本での適用を検討する際の参考となるよう,日本のデータも併せて掲載している。成人向け予防医療トピックを一覧化したA4一枚の資料もPDFとしてダウンロード可能である。現時点で19トピックを公開しており,今後も順次内容を充実させていく予定だ。各トピックには,推奨されるがん検診,日本における骨粗鬆症検診の受診率の低さ(5.4%),推奨されるワクチンなど,成人外来診療において重要な情報が包括的に記載されており,実地臨床医にとって有用な内容であると考えている。

 本Webページを活用することで,日本においてもエビデンスに基づいた予防医療の提供がより容易になると期待される。成人に対する予防医療を包括的に提供できる医師が増えることで,患者に安心を提供し,その先の健康と幸福に寄与することを願っている。

:作成された予防医療のWebページは,こちらより閲覧可能。成人向け予防医療トピックを一覧化した資料もダウンロードできる。

1)西原悠二,他.エビデンスに基づく予防医療のススメ.医学界新聞3129号.2015.

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新宿つるかめクリニック 副院長・外来部門長 / 米国内科学会(ACP)日本支部予防医学推進タスクフォース委員会 委員長

1997年弘前大医学部卒。亀田総合病院,在沖縄米海軍病院を経て,2000年に渡米する。セントルークス・ルーズベルト病院などの施設で内科,呼吸器内科,集中治療研修を修了し,06年より亀田総合病院。10年より同院総合内科部長,22年千葉西総合病院内科部長を経て,25年より現職。米国内科学会日本支部予防医学推進タスクフォース委員会委員長。『総合内科マニュアル 第2版』(医学書院)の監修を務める。

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