医学界新聞

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伝わる! 同意書説明の4ステップ

連載 伊藤菜々子,三谷雄己

2026.04.14 医学界新聞:第3584号より

研修医 先ほど救急搬送された50歳男性ですが,昼寝中に突然の背部痛で目を覚まし,痛みが改善しないため救急要請されました。普段は高血圧症と脂質異常症で近くのクリニックに通院されています。エコーをしたところ大動脈解離が強く疑われますので,造影CT検査をオーダーしたいのですが,よろしいでしょうか?

上級医 そうだね,早急に向かおうか。私が患者さんを連れていくから,先生はご家族に造影CT検査について説明をしてきてもらえるかな?

研修医 わかりました。ところで,この方は腎機能が悪いみたいです。撮影して大丈夫でしょうか?

上級医 確かに腎機能障害がある方だけれども,大動脈解離の確定診断には造影CT検査が最も推奨されているからね。今回は撮るリスクより撮らないリスクのほうが大きいよ。

研修医 わかりました。ご説明してきます。

~説明場面への転換~

研修医 大動脈解離という重篤な疾患が疑われます。診断を確定させるために造影剤というお薬を使ってCT画像を撮影する必要があります。造影剤はまれに腎臓を悪くしてしまう可能性があるものの,必要な検査なのでこちらの同意書にご署名をお願いします。

家族 腎臓の機能が悪くなり始めてるってかかりつけの病院で言われていたのですが,大丈夫なのでしょうか……?

 造影CT検査が必要になる代表的な症例としては,今回のCASEのような大動脈解離や肺塞栓症,急性腹症などが挙げられます。造影剤を使用することで,血管や臓器の構造がより鮮明に描出されるため,正確な診断に役立ちます。背景知識として知っておくべき安全性の根拠と副作用についてまずは理解しましょう。

 造影剤は,X線を吸収しやすいヨード(ヨウ素)を含む薬剤です。点滴で投与すると血管内に広がり,血管や臓器がCT画像上で高吸収に,つまり白く描出されるようになります。造影剤にもさまざまな種類がありますが,現在主に使用されている非イオン性低浸透圧造影剤は,副作用のリスクが大幅に低減されています。

 造影剤の副作用は,投与後5~15分以内に起こる急性反応と,数時間から数日後に起こる遅発性反応に分けられます。大規模なメタアナリシスによると,非イオン性造影剤による副作用発生率は約1%,その中でも重篤な副作用は約0.01%とされています1)。客観的な頻度を正確に伝えることで,造影検査に対して過剰な心配をする必要はないことをしっかりと伝えましょう。

 腎機能が低下している患者さんでは,造影剤投与後に一時的に腎機能が悪化する「造影剤腎症(CI-AKI)」が起こることがあります。一方で,米国放射線学会と全米腎臓財団の共同声明によると,静脈投与によるCI-AKIのリスクは従来考えられていたよりも低いことが明らかになってきました。具体的にはeGFR 30 mL/min/1.73 m2未満の患者さんでは注意が必要とされているものの,eGFR 30 mL/min/1.73 m2以上の場合はCI-AKIの発生率は2%以下となっています2)。CI-AKIの場合,多くは1~2週間で腎機能が回復し3),透析が必要になるのは0.5%程度です4)。今回のCASEのように「撮るリスクより撮らないリスクのほうが大きい」場合は,腎機能障害があっても造影CT検査を考慮します2,5)

 患者さん・ご家族の不安に寄り添い信頼関係を築くには,①突然の検査で驚いている気持ちに共感する,②家族向けと患者向けで説明を分ける,③短い言葉で的確に伝えることが大事です。また,閉所恐怖症の患者さんは検査装置を見ただけで不安を感じることがあります6, 7)。事前に写真でCT検査の様子を見せたり,検査時間を具体的に伝えたりするなど安心感を与える配慮も必要です。

ステップ1. 相手の立場に立つ

家族向け・同意書説明:
突然のことで驚かれたと思います。これから病状を確認するためにCT検査を行います。より詳しく見るために造影剤というお薬を使わせていただきます。

患者向け・検査直前:
これから検査を始めます。点滴を使ってお薬が入ると体がカーッと熱くなりますが,30秒ほどで治まりますのでご安心ください。途中で痒みが出たり,呼吸が苦しくなったりしたら,すぐに教えてくださいね。

ステップ2. 専門用語をかみ砕く

●造影剤→ 画像を見やすくするお薬です。点滴を使って体内へ入れると,血管や臓器がはっきり写るようになります。

●造影剤腎症 → お薬の影響で腎臓の働きが落ちるものの,多くは1~2週間で回復します3)

●熱感 → 体が熱くなる感覚で,30秒ほどで治まります。下腹部が熱くなり,尿が出そうな感覚になることもあります。

●アナフィラキシー → 重いアレルギーで,血圧が低下や, 呼吸が苦しくなる可能性があります。1万人に1人程度1)と頻度はまれですが,すぐに対応できるよう準備しています。

ステップ3. 視覚情報で補う

写真に写っているこちらの機械の中に入ります。狭いところが苦手な方もいらっしゃいますが,ドーナツ型でMRIよりもトンネルの幅が広く開放的です。撮影自体は10~15秒ほどです。すぐに終わりますのでご安心ください。

ステップ4. よくある質問に備える

●治療に対するリスクや,造影剤を使用する必要性などについて患者さんから問われることが多いです()。

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表 よくある質問
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 患者さんへの造影CT検査の説明では,研修医が家族に同意書の説明を行いました。「腎機能が悪いのに大丈夫なのか」という家族からの質問に対し,一瞬言葉に詰まった研修医でしたが,「今回は撮るリスクより撮らないリスクのほうが大きい」という上級医の言葉を思い出し,造影剤のリスクとベネフィットをわかりやすく説明することができました。今回のCASEでは,研修医が事前に上級医と方針を確認していたことがポイントです。また,CT室での患者さんへの説明では,「体がカーッと熱くなる」という具体的な予告をしたことで,患者さんも安心して検査を受けることができました。緊急の場面でも,相手の立場に立った短い言葉かけが大切ですね。

 筆者(伊藤)が研修医の頃,緊急で造影CT検査を行う際に上級医に頼まれて「とにかく急いで同意書をとらないと!」と焦って説明をしたことがありました。 その患者さんは以前にも造影剤の使用歴があり,家族からも特に質問はなかったため,説明をかなり省いてしまいました。ところが,撮影中に患者さんがアナフィラキシーショックを発症してしまったのです。幸い上級医の素早い対応で問題なく終わりましたが,患者さんや家族に不安を与えてしまいました。何より,私自身も事前に説明しきれていなかったことで,いざ目の前で起こったことに冷静でいられなくなってしまった苦い経験です。

 救急の現場は常に時間との戦いです。でも「急いでいるから説明を省く」のではなく,「急いでいるからこそ,短い言葉で的確に伝える」ことが大切なのだと思います。30秒の説明が患者さんの不安を和らげ,検査への協力を得やすくする。結果として,検査全体がスムーズに進む。“伝わる”説明は,患者さんのためだけでなく,医療者のためでもあるのです。


1)Invest Radiol. 2019[PMID:30998567]
2)Radiology. 2020[PMID:31961246]
3) American College of Radiology. ACR Manual on Contrast Media. 2025.
4)Front Med (Lausanne). 2022[PMID:35573008]
5)日本循環器学会,他.大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン2020年改訂版.2020.
6)Munn Z, et al. Claustrophobia in magnetic resonance imaging:A systematic review and meta-analysis. Radiography. 2015;21(2):pp e59-63.
7)JBI Libr Syst Rev. 2012[PMID:27820328]
8)JAMA Surg. 2023[PMID:37133836]

鋸南病院内科 / 君津中央病院救急・集中治療科

広島大学救急集中治療医学

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