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伝わる!同意書説明の4ステップ
[第4回] 行動制限(身体拘束)に関する同意書の読み合わせ
連載 高橋 毅史,三谷 雄己
2026.03.10 医学界新聞:第3583号より
CASE
上級医 誤嚥性肺炎が疑われる高齢女性が救急搬送されてきました。酸素投与が必要で入院となる見込みです。前回の入院では不穏が強くて大変だったと看護師から聞きました。今回は行動制限についてもあらかじめ説明しておきましょう。
研修医 えっ……わかりました(身体拘束の説明苦手なんだよな)。
~説明場面への転換~
研修医 入院に際して,身体拘束を行う可能性がありますので,行動制限の同意書にもご署名をお願いします。
家 族 拘束? 肺炎を治すだけなのに,なぜそんなことが必要なんですか?
研修医 えっと,それはですね……。
ご家族の表情には強い不安が浮かび,研修医の説明はぎこちなくなっていく……
行動制限の本質を理解する
医療現場で行動制限(身体拘束)が実施されるのは,転倒防止や治療チューブの自己抜去防止など,患者さんの安全確保のためであることが多いです。ただし,精神科領域を除き,身体拘束の可否を明確に定めた法律はありません1)。厚労省「身体拘束廃止・防止の手引き」2)では,身体拘束が許容される条件として3つの要件(切迫性・非代替性・一時性)を全て満たすことが求められています(表1)。この手引きは主に介護施設を想定して作成されたものですが,急性期医療においても3要件の考え方は基本姿勢として重要です。日本集中治療医学会も「ICUにおける身体拘束(抑制)ガイドライン」で同様の考え方を示しています3)。
安全確保に必要である一方で,身体拘束には以下のリスクがあります。
身体的リスク:筋力低下,関節拘縮,褥瘡,深部静脈血栓症・肺塞栓症(長期の不動化による),呼吸障害
精神的リスク:ストレス,せん妄の悪化,尊厳の侵害
したがって,メリットがデメリットを上回る場合に限り,必要最小限で制限を行うという姿勢が欠かせません。
ご家族と面会でかかわることで患者の混乱が軽減し,行動制限が不要になる場合もあることから,ご家族との連携は重要です。しかしながら,いざ説明となると,「拘束」という言葉は「体を縛る」イメージを想起させ,冒頭のCASEのようにご家族に強い衝撃を与えてしまいかねません。そこで大切なのが,感情に寄り添う姿勢です。「患者さんを守るために必要な場合に限って行う」と患者さんを主語にして伝えることが重要です。また,3要件の内容や抑制具のイメージは,患者さんやご家族に伝わりにくいです。漠然とした不安を「形のある理解」に変えるために,わかりやすい比喩や短い言い換えを用いたり,抑制具やセンサーの実物または写真を見せたりすることが効果的です。「拘束≠縛ること」と伝えることがポイントです。では,今回のCASEにおいてはどのように実践するのか。4ステップで解説します。
“伝わる”ための4ステップ
ステップ1. 相手の立場に立つ
大切なご家族の体を拘束すると聞くと,驚かれたり「なぜそんなことを」と感じられるのは当然だと思います。私たちもできる限り避けたいと考えています。
ステップ2. 専門用語をかみ砕く
・切迫性 → 点滴や気管チューブが治療に必須の状態で動き回ると,命にかかわったり後遺症につながったりする可能性があります。
・非代替性 → 薬で動きを抑える方法もありますが,薬を使いすぎると飲み込む力が弱まり肺炎が悪化する恐れがあります。混乱が強く,声掛けだけでは患者さんの理解を得るのが難しいため,安全に治療を続けるには行動制限が必要です。
・一時性 → 病状が悪い時期は混乱しやすくなります。行動制限はその期間を安全に乗り切るための「一時的な手段」です。
ステップ3. 視覚情報で補う
ミトン型の抑制具は,点滴や気管チューブを無意識に抜いてしまうことを防ぐためのもので,体をべッドに縛りつけるものではありません。また,離床センサーを使うことで,立ち上がったことを早めに知らせ,転倒を防ぐことができます。さらに,べッドに柵を付けることで,思わぬ転落事故を防ぐことも可能です。このように,行動制限にはいくつかの方法があり,必ずしも体を縛ることだけを意味するわけではありません。
ステップ4. よくある質問に備える
・質問への回答は,結論→理由→患者さんのメリット→再確認の順で説明すると,整理されて伝わります(表2)。
CASEのその後
家族の反応に戸惑った研修医でしたが,上級医が3要件をかみ砕いて説明し,視覚的な補助も加えたことで,ご家族の納得の上で同意を得ることができました。
今回のCASEでは,「拘束」という言葉が与える強い印象への配慮や,なぜ行動制限が必要なのかという背景の説明が不足していたかもしれません。また,説明を始める前に「大切なご家族の体を拘束すると聞くと,驚かれるのは当然です」といった共感の一言を添えていれば,ご家族も少し落ち着いて話を聞きやすかった可能性もあります。行動制限は患者さんやご家族にとって心理的な負担が大きいテーマです。だからこそ,「なぜ必要なのか」「なぜメリットが苦痛を上回るのか」を丁寧に伝えましょう。
全てを伝える必要はない
行動制限の説明で重要なのは,「価値観に沿った合意形成」です。インフォームド・コンセントというと,こちらが知る全ての情報を提示して選んでもらうイメージがあります。しかし,実際にはそれではうまくいきません。例えば,カレー屋でスパイスの種類から選ばないように,レストランで店にあるワインを全て並べられても困るように,患者さん・ご家族が欲しいのは「専門家としてのお薦め」です。それにもかかわらず,医療の現場では「心臓マッサージをしますか?」「挿管しますか?」「透析しますか?」と細かい治療方針の選択肢を提示している場面をたまに見かけます。本来聞くべきは「どうなりたいか」「どこまでなら許容できるか」です。その価値観に沿って「少し苦痛は伴いますが,回復をめざすならここまで頑張りましょう」「つらい治療は避け,苦痛を和らげることを優先しましょう」と治療方針を提案するのが医療者の役割です。
この姿勢は,身体拘束の説明にも共通します。拘束そのものを選ぶのか選ばないのかという二択ではなく,「患者さんが安全に治療を受けるために,どこまでの拘束を許容できるか」を一緒に考えるプロセスが大切です。患者さん・ご家族が気にするのは「病状が良くなるのか」「つらい思いをするのか」の2点であることを念頭に置くと,説明は格段にしやすくなり,患者さん・ご家族の理解と納得も深まりやすくなります。
参考文献・URL
1)厚労省.令和6年度診療報酬改定の概要.2024.
2)厚労省.身体拘束廃止・防止の手引き.2024.
3)日本集中治療医学会.ICUにおける身体拘束(抑制)ガイドライン.2010.
高橋 毅史 田附興風会医学研究所北野病院神経精神科
三谷 雄己 広島大学救急集中治療医学
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