レジデントのためのビジネススキル・マナー
医師として成功の一歩を踏み出す仕事術55
あなたを変える、医師としてのビジネススキルとマナー集
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なかなか教えてもらえない、院内でのコミュニケーション、電話対応、メールの時短方法、学会での自分の売り込み方、カンファレンスでの質問ポイントなど、忙しい研修でも無駄なくソツなくこなせるビジネススキル集。白衣やスーツの着こなし、名刺の渡し方、正しい敬語や目上の人とのタクシーの乗り方など、マナーについても詳しく学べます。一生使える、医師として成長するためのビジネススキルとマナーを集めました!
著 | 松尾 貴公 |
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発行 | 2024年03月判型:A5頁:224 |
ISBN | 978-4-260-04795-1 |
定価 | 2,970円 (本体2,700円+税) |
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序文
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序
私は2011年に医学部を卒業し、研修医になってから数え切れないほどの失敗を経験してきました。その一つが社会人としての礼儀やマナーです。研修医としての最初の数か月が過ぎた1年目の8月のことです。ビジネス書の著名な講師によるリーダーシップ講座に参加する機会を得ました。その講座は非常に充実した内容で、満足のいく学びを得ることができました。しかし、講座終了後の懇親会で、他の参加者が次々と名刺交換をし、交流を深めている中、私は名刺入れを持参していませんでした。それどころか、名刺すらそれまでに作ったことがなく、その場をどうやって乗り切るべきか大変戸惑っていました。そこである企業の社長が「医者って常識を知らない人が多いよね」とつぶやいたのを聞きました。その一言が私にとって強烈な印象を残し、大変気まずい思いをさせられました。
私は恥ずかしながら、指導医からの指示に対して「了解しました」と言う言葉が失礼にあたることを知らずに多用していました。また、友人の結婚式の場でお世話になった先輩にビール瓶を持ってお酒を注ぎに行くことがマナー違反であることを知りませんでした。その他にも例を挙げれば切りがありません。幸いにも、私はこのような失敗を指摘してくれる指導医や、周囲の環境に恵まれていました。そのたびに恥ずかしい思いをしましたが、それらの経験は非常に貴重でした。
私はこれまで聖路加国際病院で多くの研修医と接する中で、医学部卒業後にすでに社会人としての基本的なマナーや礼儀を身に付けている人もいますが、前述のように私と同様の失敗をしている研修医が少なくないことに気づきました。一般的なビジネススキル書は多く存在するものの、忙しい臨床現場の中でこれらを読み込む時間がなかなか作れないという研修医からの声を聞きました。
研修医生活を乗り切るためのもう一つの重要なスキルとして私が大きく感じたことは、医師としての仕事術です。決して仕事が早い方ではなかった私は、同じタスクをこなすのに、どうして周囲の同期はこんなにも仕事が早いのだろうと疑問に思ったことが何度もありました。よく話を聞いてみると、それぞれがタスクを早く効率的にこなし、学びを最大限にするための工夫や仕事術を持ち合わせていることにも気がつきました。
そこで、2014年に内科チーフレジデントを務めた際に、毎週土曜日の朝に行われる研修医向けの教育レクチャーの最後の5分を利用して、ビジネスマナーや研修医として必要なスキルについて学ぶ機会を設けました。そのために、自分自身がまずマナーや仕事術に関する書籍を熟読し、都内で開催されるセミナーに何度も参加し、そこで学んだスキルを共有しました。医学部を卒業し、研修医としての道を歩む皆さんは、社会人としてさまざまな責任を担うことになります。企業に入職した会社員は、新人研修で一通りの社会人としての基本的なマナーや仕事術を系統的に学ぶことも多いですが、医師にはこのような機会が少ないのが現状です。その結果、医師以外の職種の人と接したり、患者さんやその家族と関わったりする中で、恥をかいてしまったり、中にはトラブルにいたってしまったりするケースも少なからずあります。したがって、皆さんは初期・専門研修医の期間に診療のスキルを身に付けることと同様に、あるいはそれ以上に、社会人としての基本的な礼儀やマナー、仕事術を身に付けることが必要不可欠です。
本書では、前半で社会人として必要な、基本的な心得や、院内・院外で必要なマナーについて説明し、後半では忙しい日々の日常業務の中、医師として自己成長を成し遂げていくために必要な仕事術について解説しています。これまでの自分の失敗やうまくいかなかった経験を振り返り、自分が研修医だったらこのような情報が欲しかったと思う内容を前述のレクチャーの内容をもとにボリュームを大幅に増やしまとめました。また、忙しい皆さんが一から読み進めるのではなく、自分に必要なトピックから読めるように、目次を分かりやすく示しました。
本書を通じて、自分の失敗から学んできた社会人としてのマナーや、周囲から学んできた仕事術を皆さんに少しでも早い段階で共有することにより、皆さんが社会人として良いスタートを切り、医師としてのキャリアを成功できるお手伝いができれば幸いです。
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本書の執筆において、アイディアの発案や企画、繰り返しの校正に親身に継続的にサポートしてくださった医学書院の藤島氏には心から感謝申し上げます。また、これまで多くのフィードバックやご指導をいただいた諸先輩方、さまざまなアドバイスや質問をくれた同期や後輩の皆さん、そして普段から自分にさまざまな気づきをもたらし、常に支えてくれる妻と家族にはこの場を借りて感謝の意を表したいと思います。
2024年1月
松尾貴公
目次
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1章 社会人としての基本スキル・マナー ──医師としての心構えとまず身に付けるべき習慣
1 社会人としての心構え
医学生からの脱却! 与えてもらう側から与える側へ
2 社会人基礎力
人生100年時代の3つの社会人基礎力とは
3 ローテーションの始まり
ローテーション開始時に習慣づける3つのこと
4 ローテーション終了時
ここで差がつく終了時にやるべき3つのこと
5 雑用力
人がしたくないことをいかに率先して丁寧にこなすことができるか
6 時間を守る
小さな心がけがあなたへの信頼感を大きく動かす
2章 医療者としての必須スキル・マナー ──効果的なコミュニケーションと実践テクニック
7 身だしなみの心構え 1 白衣編
毎日着る白衣だからこそ、注意点をおさえよう
8 身だしなみの心構え 2 スーツ編
清潔感を意識してフォーマルな場にふさわしい着こなしを
9 先手必勝! 気持ちの良い「挨拶」
朝から10人に挨拶してみよう!
10 敬語があなたの評価を大きく上下させる?!
「了解しました」使っていませんか?
11 クッション言葉でソフトに伝えるテクニック
言いづらいことをどのように表現するか?
12 電話を受けるときの心得
電話応対を通して周囲から信頼を勝ち取ろう
13 代わりの電話に出るときの心得
相手のニーズを把握し、効果的な伝言メモを残すテクニック
14 電話をかけるときのテクニック
相手は常に忙しい! 事前準備で勝負はすでに決まっている
15 スマートフォン・SNSのテクニック
公と私の間で ~あなたは常に見られている~
16 エレベーターでのテクニック
一言&1アクションのすすめ
17 院内を歩く
You are always on stage
18 メールの書き方の基本
ビジネスメールを制するものは仕事を制す!
19 選ばれるメールとは
読んでもらえるための件名のつけ方
20 メールで伝わるあなたの仕事の丁寧さ
基本フォーマットをおさえてスマートに
21 伝わるメール作成のテクニック
ビジュアルと文章のコンパクト化が鍵
22 返信・転送・添付のテクニック
ここでも差がつくデキる思いやりの要素とは
23 ここで差がつく時短のテクニック
処理時間を減らす3つの工夫が鍵
24 診断書の書き方
テンプレート化して素早く丁寧にこなす
25 診療情報提供書の書き方
相手が必要としている情報を十分かつ簡潔に
26 患者満足度向上のために
満足度に影響する因子を把握しておく
27 患者さんの家族への接し方
自分が患者の家族だったら主治医に何を期待するか
28 残された患者さんの家族への接し方
死をみとる1週間
29 ケースカンファレンスに参加する際の心得
積極的な発言と質問をルーチン化
30 有効なオンラインカンファレンス参加のコツ
事前準備・参加中・参加後で差がつくテクニック
31 見学生を受けるときのテクニック
「学生さん」と呼んでいませんか?
3章 病院外での応用スキル・マナー ──なかなか教えてもらえない院外で役立つテクニック
32 名刺を使いこなす
社会人としての基本! 意外に見られている名刺の受け渡し
33 学会でのコミュニケーションを通して自分を売り込む!
その道の大家と知り合いになれる絶好のチャンス!
34 学会に参加する際の必須テクニック
3-3-3を意識して最大効果の学びを発揮する
35 病院見学の心得
一緒に働きたいと思ってもらえるかどうかが鍵
36 立食パーティーでのマナー
交流を広げるチャンスをものにする
37 テーブルマナー
ここで差がつくナプキンの使い方
38 タクシーに乗る際のマナー
上・下座だけでない! こんなに深いタクシー利用の際の必須テクニック
39 結婚式でのマナー
お世話になった先輩にお酒を注ぎに行っていませんか?
4章 医師として差がつく汎用スキル ──さまざまな場面で役立つ身に付けておきたいテクニック
40 メモ力
「記憶」より「記録」! 良いメモは一生の財産になる
41 質問力
質問することは最大のアピールのチャンス
42 情報整理力
効率よく情報を整理して素早く取り出すためのテクニック
43 教えられ上手になるために
より多くの学びを得るための6つのテクニック
44 クレーム対応力
ピンチをチャンスに変えるテクニック
45 時間管理術 1
自分の時間を増やすための3つの考え方
46 時間管理術 2
ゴールデンタイムを見直す 朝・昼・夕方・夜の勉強時間の使い方
47 マルチタスクvsシングルタスク
両方の使いこなしが鍵
48 習慣化のコツ
さらば三日坊主! 誰もが継続できる7つのテクニック
49 コミュニケーション・人脈作り
可能性を引き出してくれる周囲の刺激・ネットワーク作りの重要性
50 リーダーシップ
カリスマ性は必要なし? 誰にでも身に付けられる5つのコツ
51 メンティーとしての心構え
メンターと良好な関係を築くための5つのテクニック
52 ストレスマネジメント
ストレスにうまく対処するためのコツ
53 アンガーマネジメント
怒りを抑えるための3つのテクニック
54 将来のキャリア選択
キャリアを選択するうえでの3つの軸とは
55 生涯学び続ける姿勢を
Life long learningのすすめ
索引
COLUMN
白衣 vs スクラブ
院内で知らない人に挨拶をすべきかどうか
目上の人に会ったら
これはNG! あなたの周りでいませんか?
ビジネスでの「もしもし」
エレベーターの中での会話
Cleveland Clinic「Empathy:The Human Connection to Patient Care」
以下余白とは
夢や情熱を語るリーダーや組織のもとに人は集まる
目の前の医学生が将来自分を助けてくれるかもしれない?! ~医師の世界は狭い~
エレベーター・ピッチとは
飛行機を降りる際のマナー
「結び切り」と「蝶結び」
袱ふく紗さを使いこなそう
メモを取る際の筆記用具・ノート選び
クレームを大事にする「1:29:300」
タスク管理に有用なツールの紹介
聖路加国際病院での取り組み
書評
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必読!ソフトスキルで差をつける医師への指南書
書評者:野木 真将(亀田総合病院総合内科部長/クイーンズメディカルセンターホスピタリスト部門長/ハワイ大准教授・内科学)
本書は,医療の現場で働く医師が公私にわたって日常的に直面するさまざまな状況において必要なビジネススキルやマナーを詳しく解説しています。以下に,本書を読んで特に印象に残ったポイントを紹介します。
まず,敬語の使い方は医療現場で非常に重要ですが,本書の「上下逆転敬語」(p.30)の章は特に参考になりました。日常の業務で間違いやすいポイントを具体的に解説しており,私自身も気を付けなければと感じました。また,医療従事者としての院内での行動は常に見られているという点も印象的でした。これは,私が勤務するハワイの病院でもよく「on-stage, off-stage」として注意喚起されるポイントです。患者や同僚に対する態度はプロフェッショナリズムを保つために重要であると再認識しました。
さらに,院内コミュニケーションにはTeamsやSlack,LINEなどのテキストが多用されていますが,学会や他施設との連絡には依然としてEメールが重要です。本書のメール作成や診療情報提供書作成のテクニックは,効果的なコミュニケーションを図るために非常に役立ちました。経験を積むにつれ,周囲に尋ねにくくなるお看取りの際の適切な言動やフレーズもまとめられており,特に若手医師にとって貴重な情報です。
一般的なマナーについても,本書は非常に詳しく解説しています。祝儀袋やお香典の用意の仕方など,社会人として知っておくべき重要なポイントが網羅されており,これらの知識は医療現場に限らず日常生活でも役立ちます。また,個人的に面白かったのは,アンガーマネジメントの章(p.197)です。内容が非常に実践的で,時には家庭内でも応用できると感じました。冗談ですが,わが家の6歳児にも読ませたいと思ったほどです。
他にも,時間管理術,質問力,クレーム対応力,教えられ上手など,いわゆるソフトスキルが満載です。これらは大学では教えられませんが,臨床現場では潤滑油のように役立ちます。「暗記力」だけでは大学までしか通用せず,社会人になってから信頼を得てキャリアアップするためや,新しいプロジェクトを立ち上げて実現するリーダーの特徴は,このソフトスキルの充実にかかっていると感じました。
本書全体の構成は簡潔で読みやすく,一気に読破することができました。各章が短く,具体例を交えた解説がわかりやすさを引き立てています。さらに,SBAR,HCAHPS,エレベーターピッチ,グラウンディング,コーピングマントラ,ストップシンキング,ブルーオーシャンなどの用語になじみがない医師は,ぜひとも本書を読むべきです。これらの用語の理解は,ビジネスシーンだけでなく医療現場でも役立ちます。
最後に,私がかつて著者に勧めたクリーブランドクリニックのYouTube動画(p.58)が本書に取り上げられていたのは非常にうれしかったです。この点からも,著者の細やかな配慮と読者への共感が伝わってきました。総じて,本書は,医師としてのプロフェッショナリズムを高めるために必読の一冊です。