看護のアジェンダ
[第248回] 旭川で「看護診断」を考える
連載 井部 俊子
2025.09.09 医学界新聞:第3577号より
2025年8月のはじめ,第31回日本看護診断学会学術大会(大会長=升田由美子/旭川医科大学医学部看護学科)に参加した。別の学会で,「ザ看護過程」を論じるに当たり,「看護診断」の現在地を知っておく必要があることと,私は日本看護診断学会の創設時にかかわっていたし,現在は評議員でもあるのだからと,自分に言い訳をして旭川に赴いた。学会の会期は2日間であったが,仕事の都合で,2日目のみの参加となった。オンラインではなく対面でプログラムが展開されたのも気に入った。
NANDA-International 2024-2026
学術大会のメインテーマ「もっと活かそう! 看護過程・看護診断」について,升田大会長は抄録で次のように述べている。「(前略)看護診断は臨床現場において十分に普及しているとは言いがたいのが現状です。その理由として,“時間がかかる”“実践に直結しない”といった誤解や,“看護診断を使うとアセスメント力が育たないのではないか”という懸念の声が挙げられます。これは,看護診断を単なる分類として形式的に扱うことに起因する課題であり,本来の診断的思考を浮かせば,むしろ深いアセスメントと臨床推論力が養われます」とした上で,「医師が医学診断をするように,看護師が看護診断を行うことが当然となる未来を見据え,私たちはその実践基盤を築いていかねばなりません」と前向きなメッセージを提示している。大会1日目の大会長講演に参加できなかった私は,大会長と意見交換できなかったことを悔やんだ。
抄録を見るに,1日目の特別講演も興味深い内容である。「NANDA-I看護診断分類2024-2026:何がどう変わった?」と題した上鶴重美氏(看護ラボラトリー代表)の講演である。抄録によると,看護診断が前版の267から277に増え,多くの診断名が刷新された。その背景には,①診断名が最新のエビデンスに基づくよう文献が再検討されたこと(例えば〈非効果的コーピング〉は〈コーピング不適応〉に変更された),②診断用語「過剰」「不良」などが多角的に追加され,診断概念が明確化されたこと(〈不安〉は〈不安過剰〉に,〈過体重〉は〈過体重自己管理不良〉に,〈便秘〉と〈下痢〉が〈排便障害〉に統一された),③同義語が多かった英語の判断用語が統一されたこと,④性別に依存しない表現への見直し(〈非効果的母乳栄養〉は〈母乳育児不良〉に変更された),⑤日本語訳の見直し(「非効率的」を「不良」に,「自主管理」を「自己管理」に,「統合性」を「完全性」に見直した)などが挙げられる。さらに全体的な変更点として,領域12への類4の追加,多軸構造に8軸を追加した活用方針の見直しがある。各診断にMeSH用語が付与され,看護診断用語の定義も変更された。また,機能的健康パターンを用いたアセスメントに基づく診断プロセスも新たに解説されている。
大会2日目のシンポジウムⅡでは,「看護基礎教育と臨床の現状」について,慶應義塾大学看護医療学部と慶應義塾大学病院,京都大学医学部人間健康科学科と京都大学医学部附属病院が,「看護過程」を用いてどのような連携をしているのかについて報告があった。
大会長の報告によると,今大会の参加者は266人であり,目標の300人には届かなかったというが,私は久しぶりに“お祭り”的ではない静かな学会の雰囲気にほっとした。
会員数減少と学会の先行き
ところで,日本看護診断学会では,将来構想委員会(委員長・佐藤正美)が2024年度報告書を提出している。その中に下記のような率直な記述がある。「本学会は近年会員数,学術大会参加者数,学術大会発表数,学会誌投稿数ともに減少し,資金面においても厳しい状況に置かれている。急速に看護診断離れが進んでいると言われることもあるが,拡大する看護職の専門的診断が実践に貢献するためには看護診断は重要な位置づけにある」という見解のもと,以下について継続審議としている。①学会名称の再考(会則第1条),②学会の目的(会則第3条)の見直し,③学会の事業(会則第4条)の見直し,④「看護診断」の定義について,⑤Webサイトと会員管理システムの活用についてなどである。
会員動向をみると,2023年3月末に488人であった会員は,2024年には入会者26人に対し退会者数が51人に上り,年会費3年未納者25人を加えると76人減となる。したがって2024年度末の会員数は438人である。
日本看護診断学会は,2025年7月定期総会で役員が交代となった。次期執行部のかじ取りが極めて重大責任であることがわかる。将来構想委員会は,会則第1条「日本看護診断学会と称する」ことや,会則第3条「本会は,適切な看護を行うために看護診断ならびに介入・成果に関する研究・開発・検証・普及を行うと共に会員相互の交流を推進する。また,看護診断に関する国際的な情報交換や交流を行うことによって,看護の進歩向上に貢献することを目的とする」ことの見直しを提案しているのである。そうなるともはや現組織とは別物になってしまう可能性がある。
ここからは私見である。日本看護診断学会は今もって法人化されていないため任意団体であるから,会の先行きをどうディレクションするかは自由であろう。そこで,NANDA-Iの日本組織として連携しつつ,日本版看護診断学の開発研究を目的とする研究開発組織として再出発することを提案する。
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