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『がん患者の皮膚障害アトラス』より

連載 宇原久

2024.02.09

 分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬の登場により,がん薬物療法は大きく進歩した一方で,患者に見られる皮膚障害は複雑になってきています。さらに担がん状態では薬剤と直接関連しないさまざまな皮膚障害もあらわれます。書籍『がん患者の皮膚障害アトラス』は全ての医療者のために,がん患者に起こりうるすべての皮膚障害を「症候・症状」「薬剤関連」の切り口から網羅しました。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,「多形紅斑」,「帯状疱疹と単純ヘルペス,伝染性膿痂疹,皮膚カンジダ症」,「移植片対宿主病による皮膚障害」,「EGFR阻害薬・抗EGFR抗体薬による皮膚障害」の項目をピックアップし,4回に分けて紹介します。

重症多形紅斑(多形滲出性紅斑)

危険度:★★★
頻度:★☆☆
皮膚科コンサルトのタイミング:すぐ(最も危険な皮膚疾患!)

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Point! 
1. 三重丸(典型的)または二重丸のターゲット状病変が特徴的である(薬剤性では明瞭でないことがある)。
2. 原因は薬剤と感染症(単純ヘルペス、コクサッキーウイルス、溶連菌、マイコプラズマなど)が多い。

3. 薬剤性の場合は危険である。
4. 粘膜病変と全身症状を伴う場合はSJSとみなし、まず皮膚科と眼科に紹介する。
5. 感染症による場合は多くは自然治癒するがピークの予測は難しい。


| 多形紅斑(二重丸)

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1. 腹部。少し形のくずれた多形紅斑。薬疹に多いパターンである。

|多形紅斑

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2. 背部。上気道感染症状と発熱の後に皮疹が出現した。ステロイド外用により1週間程度で皮疹は軽快した。
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3. 2と同一症例。口唇は赤く腫脹し始めているが、びらんはない。危険なサインである。

| 多形紅斑(三重丸)

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4. 臀部。大型で少し盛り上がっている三重丸紅斑。

| 抗真菌薬による多形紅斑

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5. 大腿。抗真菌薬による多形紅斑。少し形のくずれた二重丸の紅斑。

4,5の症例は、個々の皮疹が1cm以上と大型で少し盛り上がっている(浮腫による)。チリチリとした痛み、口唇や咽頭の違和感などがあれば重症化の可能性を考えて、特に24時間以内は慎重に経過をみたほうがよい。

|1|臨床対応とコンサルテーション

 多形紅斑(多形滲出性紅斑、erythema multiforme;EM)はサイズが1〜3cm程度でわずかに盛り上がった二重丸または三重丸の鮮紅色紅斑(ターゲット状病変)が左右対称性にできる。ピリピリとした痛みやかゆみを伴う。薬剤以外に、単純ヘルペスウイルス、コクサッキーウイルス、溶連菌、マイコプラズマなどの感染症によっても発症する。全身症状は軽微なことが多く、重篤感はあまりないが、粘膜症状や発熱などの全身症状を伴うときは多形紅斑重症型(EM major)やSJS/TENとの鑑別が難しい例がある。そのため次の4つの所見のどれかが認められたらすぐに皮膚科、眼科へコンサルトする。また、可能な限り使用薬剤をすぐに中止する。
① 1cm以上の大型の皮疹が多発し、皮疹同士が癒合し始めているとき
② 口唇のびらん、血痂皮
③ 喉、口腔粘膜、皮膚の痛み
④ 発熱

|2|多形紅斑の原因は?

がん治療中の患者に二重丸または三重丸の赤い皮疹が生じた場合は原因としてまず薬剤(表11と感染症(表2)を考える。

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|3|診断2

多形紅斑の特徴

1. 色と形
 二重丸、三重丸にみえるターゲット状病変が特徴的である。1つひとつのサイズは1〜3cmくらいまでの大きさでわずかに盛り上がった丸い形をしている。はじめは二重丸にみえるが、サイズが大きくなるにつれて三重丸を形成する。三重丸では、「中心部が少し暗い紅色、中間部が少し明るく、最も外側が暗い紅色」を呈す。Grade 2以上になると皮疹同士がくっついてべたっとした平坦かつ大きな皮疹になる。
2. 皮疹の部位
 ほとんどの場合は全身に対称性に多発する。皮疹は四肢、特に手指背と前腕伸側に初発しやすい。
3. 粘膜病変
 多形紅斑は、粘膜病変を伴うとEM major(多形紅斑重症型)と呼び、粘膜病変を伴わないものをEM minorと呼び、前者はSJSとの鑑別が問題となる。初期にEM majorと診断しても、経過中に粘膜に水疱やびらんを形成することがある。目や陰部も障害され得るが頻度は低い。臨床的には早期対応が必須でありSJSとの鑑別に時間をかけてはいけない。
4. 全身症状
 多形紅斑重症型では発熱などの全身症状を伴うことが多い。全身症状は皮疹の発生に対して先行することがあり、種々の程度の発熱と倦怠感・衰弱を伴う。関節痛・腫脹や、非定型的肺炎様の肺症状を伴うこともある。粘膜病変を伴わないEM minorでは全身症状は非常に軽度、もしくはみられない。
5. 経過
 皮疹は急激に出現して72時間までに最盛期を迎える。感染症に由来する場合は2週間程度で自然治癒することが多い。

■多形紅斑と似た疾患とその鑑別のポイント

1.蕁麻疹

鑑別のポイント
 
蕁麻疹も周囲に少し色の濃い紅色の縁取りがあり、二重丸にみえることがある。皮疹が小さい場合は多形紅斑に似る。
 蕁麻疹の診断のポイントは、まず蕁麻疹は非常にかゆいという点、次に1つひとつの皮疹が時間単位で変化するという点である。皮疹は何日も全身に出続けるが、個々の発疹の寿命は短い(通常は1日以内に消えてしまう)。個々の皮疹の短時間の動き(出現→増大→自然消失)と皮膚描記(皮膚に字が描ける)と強いかゆみがポイントである。

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6. 地図状の膨疹。時間単位で形が変化し、通常、時間単位で出没を繰り返す。
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7. 皮膚描記。受診時に皮疹が消えていても強くこすると膨疹が出現してくる(蕁麻疹の重要なサイン)。
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8. 蕁麻疹。二重丸構造をとる点は多形紅斑と似ているが、時間単位で形や部位を変えていく点が異なる。
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9. 蕁麻疹。形態状は多形紅斑との鑑別は難しいが、強いかゆみと皮疹の日内変動有無が重要な鑑別点となる。

2.水疱性類天疱瘡(早期)

鑑別のポイント
 
水疱性類天疱瘡は初発時(早期)は、環状から地図状の浮腫を伴う紅斑として認められるため、多形紅斑に似る。また、症例の半数に初診時に好酸球増多(重症例、高齢者、掌蹠病変との関連性がある)を伴うため、一般的な薬疹も重要な鑑別疾患となる。
 本症は強いかゆみを伴う点が特徴で、診断上有用である。抗BP−180抗体を調べ、生検組織像と組織における自己抗体の沈着を確認する。抗PD−1抗体やDPP−4阻害薬による場合がある。

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10. 水疱出現前の水疱性類天疱瘡背部の滲出性紅斑。二重丸を呈する。
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11. 腹部は二重構造の地図状を呈する。

3.接触皮膚炎症候群

鑑別のポイント
 
接触皮膚炎(かぶれ)は本来原因物質が付着した部分のみに症状が限局するが、重症の場合は全身に皮疹が波及する。これを接触皮膚炎症候群と呼ぶ。皮疹は浮腫を伴って少し盛り上がり、環状を呈することがあり、多形紅斑に似ることがある。強いかゆみが鑑別点となる。進行すれば小水疱を伴う。外用剤(ステロイド、局麻薬、抗菌薬、抗ヒスタミン薬)、痔疾患薬、湿布薬などが原因となる。

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12. 染毛剤による前額の接触皮膚炎。前額部にびまん性の淡紅色斑を認める。
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13. 染毛剤による後頸部の接触皮膚炎と全身の皮疹(接触皮膚炎症候群)。環状を呈しており多形紅斑に似る。かゆみが強い。

4.全身性エリテマトーデス(SLE)

鑑別のポイント
 
エリテマトーデスでは、多形紅斑のように二重丸にみえる盛り上がった紅斑ができることがある。

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14. エリテマトーデスによる胸部~上肢の地図状の皮疹。
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15. エリテマトーデスによる肩の不整形の滲出性紅斑。
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16. エリテマトーデスによる上腕の鮮血症の不整形の滲出性紅斑。
  • 参考文献
  •     1)   福田英三,福田英嗣(編):薬疹情報 第20版.福田皮ふ科クリニック,2023
  •     2)    重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会:重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン.日皮会誌 126(9):1637-1685,2016
 

がん患者に起こる皮膚障害のすべてがここに。テキスト400頁超、症例写真555枚。

<内容紹介>臨床での実用性とアトラスの網羅性。両方を兼ね備えた、がん関連皮膚障害の決定版。1章では皮膚障害に対する考えかたと向き合いかたを解説し、「症候・症状編」の2章から6章、「薬剤編」の7章から10章の2つに分け、がん患者に起こる皮膚障害のほとんどをカバー。診療科を限定せず、がん診療に関わるすべてのひと(医療者・患者・家族)に向けた一冊です。

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