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『IVRマニュアル 第3版』より

山門 亨一郎

2024.05.03

 医療における不可欠な治療法として,日本においても発展・普及し,有用な治療手段として定着したIVR(interventional radiology)。『IVRマニュアル 第3版』は,そんなIVR手技を横断的,網羅的に解説した定番書の改訂第3版です。新たなIVR手技を多く取り入れるとともに,肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術,緊急出血に対する動脈塞栓術といった基本的なIVR手技についても情報を最新のものにアップデートしています。

 「医学界新聞プラス」では,本書の中から「バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)」「経皮的エタノール注入療法(PEIT):肝」「ラジオ波焼灼療法(RFA):肝」の3項目をピックアップして,内容を紹介します。

適応

○ 肝細胞癌。
○ 腫瘍径は3cm以下が望ましい。
○ 腫瘍個数は3個以内が望ましい。
○ 被膜を有することが望ましい。
○ 画像(超音波またはCT)で腫瘍が確認できる。

禁忌

○ 凝固異常:一般的に血小板数50,000/μL以下,PT-INR1.5以上。
○ アルコールアレルギー。
○ 大量腹水:腹水の存在だけで禁忌とは言えないが,腹水が多いと穿刺により肝臓が移動するので,出血や誤穿刺の原因となる。

術前準備

 1 術前検査 

○ CTまたは超音波で穿刺経路を確認する。造影CTで穿刺経路に血管や腸管がないことを事前に確認しておくことが重要。

 2 使用器具 

○ PEIT針:先端孔のものと複数の側孔を設けているものがある。
○ 超音波またはCT。
○ 局所麻酔(0.5%リドカイン)。
○ 無水エタノール:リピオドール®を混合するとCTでエタノールの動態を確認できる。混合比はエタノール10に対してリピオドール®1~2。

 3 前投薬 

○ 点滴ルートを確保し,必要に応じて以下のような前投薬を行う。
1)鎮静薬:ヒドロキシジン(25mg)。
2)副交感神経遮断薬:アトロピン(0.5mg)。
3)鎮痛薬:ペンタゾシン(15~30mg)。
4)デクスメデトミジン:成人では6μg/kg/時の投与速度で10分間静脈内へ持続注入し(初期負荷投与),続いて患者の状態に合わせて,至適鎮静レベルが得られるよう,維持量として0.2~0.7μg/kg/時の範囲で持続注入する(維持投与)。
5)抗菌薬。

手技(図1)

①術野消毒 
②穿刺部の局所麻酔 
③PEIT針の挿入
 
1)超音波法
○ 超音波で腫瘍が確認できる場合に用いる。最も一般的。横隔膜下に腫瘍が存在する場合など,超音波で確認が困難な場合はCT法を用いる。
2)CT法
○ 通常のCT撮影を用いる方法と,CT透視を用いる方法がある。後者はリアルタイムで穿刺が可能であるため,手技時間が短く正確に穿刺できる。
④エタノール注入 隔壁のない小型肝細胞癌では,1回のエタノール注入で腫瘍全体にエタノールを灌流させることも可能であるが,腫瘍内に隔壁が複数存在するある程度大きくなった腫瘍ではエタノールの灌流が隔壁で妨げられるため,腫瘍全体にエタノールを灌流させるよう,PEIT針の位置を変えて注入を繰り返す。1日エタノールの注入量は最大10mLが原則。
⑤合併症の確認 超音波またはCT画像で確認する。

メモ

 エタノール局注療法(PEIT)はラジオ波焼灼療法(RFA)が熱治療と呼ばれるのに対して,化学治療と呼ばれている。1990年代には肝腫瘍局所療法の中心であったが,2000年代に入ると,その地位をRFAに明け渡した。これは,RFAのほうが少ない治療回数で腫瘍の壊死を得られるという報告に基づく。しかし,PEITは合併症がRFAよりも少なく安価な手技である。使用される頻度は確実に減ってきているが,肝腫瘍が腸管から離れない場合や腫瘍が拡張胆管に接していてRFAによる合併症が懸念される場合などに用いることが可能で,依然その価値は色あせていない。

手技のポイント

◎肝細胞癌は腫瘍内部に隔壁構造を持つため,エタノールが灌流しにくい。このため1回の治療では腫瘍が残存することが多いので,繰り返しの治療が必要となることがある。

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術後管理

○ バイタルサイン測定。
○ ベッド上安静。
○ 翌日肝機能チェックを行う。

成績

○ 1腫瘍に対する平均治療回数:4~6回1)
○ 局所再発率:2~3年で11~26%。
○ 5年生存率:50~70%1, 2)

合併症

○ 合併症はRFAに比べて軽微である。腹痛,発熱が時にみられるが,概ね対症療法で対応できる。
○ まれに腹腔内出血や,門脈血栓症,肝梗塞など重篤な合併症が生じうる。門脈血栓症は流出血管である門脈にエタノールが流れるために起こるので,超音波やCTでエタノールの動態をモニターすることが重要である。

文献

1)    Livraghi T, et al:Small hepatocellular carcinoma:treatment with radio-frequency ablation versus ethanol injection. Radiology 210:655-661, 1999
2)    日本肝癌研究会:肝細胞癌に対するエタノール注入療法の累積生存率.第23回全国原発性肝癌追跡調査報告(2014-2015).p167, 2021

 

“シンプルで読みやすい” IVRに関わる医療職必携の1冊

<内容紹介>IVR手技を横断的、網羅的に解説した定番書の改訂第3版。今回の改訂では、新たなIVR手技を多く取り入れるとともに、肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術や、緊急出血に対する動脈塞栓術といった基本的なIVR手技も最新の情報にアップデートした。IVRに携わる医師、診療放射線技師、看護師必携の1冊。

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