ケースで学ぶマルチモビディティ
[第23回]マルモは多職種チームでアプローチしよう
連載 大浦 誠
2022.02.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3457号より
CASE
91歳男性。93歳の妻と2人暮らし。転倒を繰り返すため次第に歩かなくなり,徐々に排泄をおむつに頼るようになってきた。とろみ食を自力で食べていたが,最後まで食事に集中できず妻が介助するようになっていた。高血圧・慢性心不全・慢性心房細動・2型糖尿病・慢性腎臓病・肺気腫・レビー小体型認知症・嚥下障害・骨粗鬆症・変形性膝関節症・仙骨部褥瘡・早期前立腺癌・神経因性膀胱を総合診療科で一元化して通院中。
【既往症】60歳代で心筋梗塞のためステント留置,80歳代で転倒による腰椎圧迫骨折,過去1年で3度の誤嚥性肺炎による入院歴あり。【処方薬】ワルファリン,ペリンドプリル,ビソプロロール,ドネペジル,ウラピジル。【サービス】半年前の介護認定更新で要介護2,デイサービス週3回利用。【受診までの経緯】普段は夫婦で受診していたが,今回は遠方に住んでいるはずの長男が付き添っていた。理由を尋ねると「今まで2人でなんとか生活していたが,食事の世話や排泄の手伝いなどの介護で母が疲弊している。介護サービスを変更するか,父を施設に入れようと思う。ケアプランの見直しをしたいため相談に来た」とのことであった。*本連載第4回のCASEの1年後の話です。
遠方にいる長男が今後の介護サービスや施設入所についての相談に来たCASEです。医師の仕事は主治医意見書や紹介状などの書類作成のみで,あとはケアマネジャーにケアプランの作成を任せるのが一般的かもしれませんが,本当にそれでいいのでしょうか? 多職種で意見を出し合うと新たな選択肢が生まれるかもしれません。今回は多職種チームによるマルモへのアプローチについて解説します。
まずはマルモのトライアングルの全体像を紹介します。プロブレムリストは,心血管/腎/代謝パターンと神経/精神科パターンのほか,生命・ADLにかかわる問題として,レビー小体型認知症による嚥下障害,廃用症候群が考えられます。不要な薬剤(高額薬剤)はあるものの緊急性はありません。社会的問題としては老老介護の限界が来ていることでした。バランスモデルで考えると,患者負担(3つのポリ)の視点では,通院や介護に関する負担が大きいです。患者のできそうなこと(つなナラ)の視点では,長男による介護のサポートは期待できずこのままでは施設入所になってしまいそうです。
では,読者の皆さんは四則演算の発想でアイデアが浮かぶでしょうか? ひょっとしたら医師が1人で考えているだけでは良いアイデアが浮かばないかもしれませんね。そんな時こそ,多職種チームアプローチの出番です。
マルモ患者の多くは,医師だけでは満たすことができない複雑なニーズを抱えており,専門家間の協力が必要です。一方で,マルモへの多職種介入に関してこれまでさまざまなRCTが発表されてきましたが,その有効性は証明できませんでした。
2021年のカナダの研究で,看護師,栄養士,リハビリ職種などの専門家による「患者中心の多職種介入(Patient-Centered Interdisciplinary Care:PCIC)」を,プライマリ・ケア診療の場でマルモ患者に実践した混合型
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