医学界新聞

ケースで学ぶマルチモビディティ

「マルモのプロブレムリスト」の作り方

連載 大浦 誠

2020.07.13



ケースで学ぶマルチモビディティ

主たる慢性疾患を複数抱える患者に対して,かかわる診療科も複数となり,ケアが分断されている――。こうした場合の介入に困ったことはありませんか? 高齢者診療のキーワードであるMultimorbidity(多疾患併存)のケースに対して,家庭医療学の視点からのアプローチを学びましょう。

[第4回]誤嚥性肺炎(前編) 「マルモのプロブレムリスト」の作り方

大浦 誠(南砺市民病院 総合診療科)


前回よりつづく

 初期研修医にとってmultimorbidity(マルモ)症例の中で遭遇頻度が一番高いのは誤嚥性肺炎ではないでしょうか。研修の開始当初はプロブレムリストを作るところで苦労すると思います。プロブレム数が少ない場合は問題ないのですが,ざっと数えて10個を超えるプロブレムリストになってしまうと,それだけでも見づらくなり,どこが重要なのかわからなくなってしまいます。今回はマルモのバランスモデルのアプローチに入る前に,「マルモのプロブレムリスト」の作り方を紹介します。次のCASEで,マルモな高齢者のプロブレムリストを考えてみましょう。


CASE

90歳男性。92歳の妻と2人暮らし。過去に何度か転倒しながらも,トイレは自宅のトイレを使用している。食事はとろみ食を自力で食べている。子は遠方に在住。高血圧・慢性心不全・慢性心房細動・2型糖尿病・慢性腎臓病・肺気腫で一般内科に,レビー小体型認知症(DLB)・嚥下障害で神経内科に,骨粗鬆症・変形性膝関節症(OA)で整形外科に,早期前立腺癌・神経因性膀胱で泌尿器科に通院中。【既往症】60歳代で心筋梗塞のためステント留置,80歳代で転倒による腰椎圧迫骨折,過去1年で2度の誤嚥性肺炎による入院歴あり。【処方薬】一般内科でワルファリン,ペリンドプリル,ヒドロクロロチアジド,エポエチンベータペゴル。神経内科でドネペジル,整形外科でセレコキシブ,エソメプラゾール。泌尿器科でウラピジル,ベタネコール。【サービス】1年前の更新で要介護2,デイサービス週3回利用。【受診までの経緯】来院前日の夕食後に38℃の発熱と湿性咳嗽を認め,当日も食欲減退が持続しているため一般内科を受診。誤嚥性肺炎の診断で入院となった。仙骨部に褥瘡があり,転倒も繰り返していることからADL低下も予想される。


誤嚥性肺炎はマルモの代表的疾患

 連載第2回(第3371号)で,マルモの患者には5つのパターン(心血管/腎/代謝,神経/精神科,骨格/関節/消化器,呼吸器/皮膚,悪性/消化器/泌尿器)があることを紹介しました。では誤嚥性肺炎患者はどのパターンに当てはまるでしょう? 誤嚥性肺炎は70歳以上の肺炎の80.1%を占め1),サルコペニアとも関係がある高齢者特有の疾患です2)。高齢やサルコペニアと関連した心血管疾患パターンや呼吸器疾患パターンだけでなく,嚥下障害を背景とした神経疾患パターンも多いでしょう。大腿骨骨折手術の4.23%に誤嚥性肺炎を合併し3),胸腰椎圧迫骨折が誤嚥性肺炎のリスクとなります4)。悪性腫瘍でも頭頸部癌の放射線治療の17.6%が誤嚥性肺炎になりますし5),経鼻胃管や逆流性食道炎も関連があります。すなわち,誤嚥性肺炎は高齢・サルコペニアをはじめ,5つのマルモパターンのどれにも当てはまることになります。

マルモのプロブレムリストはグループ化

 冒頭のCASEで,皆さんはどのようなプロブレムリストを考えたでしょうか。プロブレムリスト作成の際,「プロブレムにナンバーを振って縦に並べる」という従来の常識があります。これとは別に今回は,マルモの包括的プロブレムリストでグループ化する方法をお勧めします。これは『「型」が身につくカルテの書き方』(医学書院)でおなじみの佐藤健太先生も紹介している方法6)で,プロブレムリストが10行以上になりそうな複雑度の高い症例は①プロブレムナンバーを振らない,②個々のプロブレムの深化にこだわらない,③心理・社会面の項目でまとめる,というルールを述べています。今回はそこにマルモのバランスモデルの内容を含め,④ポリファーマシーの視点,⑤複数の診療科の視点を加えてまとめたものを解説します(表1)。

表1 マルモのプロブレムリスト(案)

ポリファーマシーの視点

 マルモ状態ならばポリファーマシーであることまでカルテにわざわざ書く必要はないと思われるかもしれません。入院の理由を調べた論文では,プロブレム数が増える影響と比較するとポリファーマシーによる影響は限定的という論文もあります7)。一方で,高齢者の入院の23%は不適切な処方薬や処方し忘れが関連しているとも言われています8)。やはりマルモ状態の場合には,ポリファーマシーの視点を盛り込むことは必要でしょう。

 よくあるまとめ方に,各疾患・病態に関連する薬剤がないかという視点があります。例えば誤嚥性肺炎を例にすれば,抗精神病薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬はマイナス方向に,ACE阻害薬はプラス方向に働くといったイメージです。

 その視点に加え,減らせそうな処方薬をカテゴリーに分けて分類すると見やすいです(表2)。例えば,出血関連,血糖関連,易感染関連,脈拍関連,老年症候群関連(転倒/誤嚥/認知症/尿閉),腎機能関連,排便/消化器関連,漢......

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