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『緩和ケア・コミュニケーションのエビデンス――ああいうとこういうはなぜ違うのか?』より

連載 森田 達也

2021.11.12

 

同じ内容を伝えるのであっても,緩和ケアの臨床家がコミュニケーションにひと工夫を加えることで,患者さんにいい影響を与えることができます。緩和ケアの実践に関する多くの著作を持つ森田達也氏による『緩和ケア・コミュニケーションのエビデンス――ああいうとこういうはなぜ違うのか?』は,臨床家が押さえるべき話し方のコツをまとめた一冊です。医学界新聞プラスでは,臨床家がしばしば出合う3つの場面を通じて患者さんに有効なコミュニケーションの方法を紹介します。

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「患者さんと話す時は立って見下ろすんじゃなくて,座って話すように」…現場に出ると必ず言われるのですが,立っている vs. 座っているを科学するとどういうことがわかるのでしょうか。思ったより(思った通り?)もう少し深みのある結果が待っています。

エビデンスを覗いてみよう

 最初にこのテーマを実際に研究したのはBruera先生(現 MD Anderson Cancer Center)で,緩和ケアにおいてはすべての研究領域でのパイオニアです。

 168名の進行がん患者に,医師が患者と話しているところに関する2つのビデオを見て評価してもらいました1)。1つは「座って」話しており,もう1つは「立って」話しています。評価項目は,Physician Compassion Scaleと呼ばれる,医師が親身になってくれているかどうかを評価する尺度を使っています。

 結果ですがPhysician Compassion Scaleでは,合計点でも,個々の項目(冷たい/あたたかい,感じが悪い/感じがいい,など)でも,いずれも座っているほうに軍配が上がりました(表1)。追加で,「どっちの医師を好むか」という簡単な質問をしたところ,50%は座っている医師を選びましたが,32%はどちらでもよく,17%は立って話す医師を選びました。

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表1 「座って話す vs.立って話す」での医師が親身になってくれているかの患者評価の違い

 ざっとみると座って話すほうがいいということになるのですが,もう少し踏み込んだ質問をしています。「座って話す/立って話す」の他に,患者が望みそうなこと─目を見て話す,きちんと挨拶する,握手する,嘘をつかないについて,どれくらい大切かを0~10点でつけてもらいました。そうすると,「座って話す/立って話す」ということの重要性はそう高くありませんでした(座って話すのを好む患者では9点でしたが,立って話すのを好む患者では座っているか立っているかは6点,どちらでもよいといった患者でも6点くらいの重要性でした)。一方,目を見て話す,きちんと挨拶する,握手する,嘘をつかないことはすべて9点以上でした。このことから,確かに,立って話すか座って話すかも大事ではあるだろうけれど,それより大事なことがいっぱいあるという結論をしています(表2)。

 ところで,目を見て話す,きちんと挨拶する,握手する,嘘をつかない…は多少米国的であり,じーっと目を見すぎると日本では少し失礼な感じもしますし,「Hi, Dr. Moritaです」といって握手をしようと手を差し出したら「あれ?」という雰囲気になる日本人も多いでしょう。日本には日本の共感を表す方法があると思いますが,いずれにしろ,立つか座るかだけでもないよ,ということかと思います。

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表2 「座って話す/立って話す」以外に重要なこと

 同じチームからの研究をもう1つ(今はスイスの腫瘍内科医となった,日本大好きのStrasser先生です)。こちらも「立って話す vs. 座って話す」ビデオを69人の患者さんに見てもらいました2)。やはり,51%が座って話すほうがいいと評価しましたが,26%はどちらでもよい,23%は立って話すほうがいいと回答しました。医師をどう思うかについて,Physician Compassion Scaleの他に,General Physician Attributes,患者の満足度も聞いてみました。そうすると,Physician Compassion Scaleでは座っているほうがややよい傾向にありました(差はそれほど大きくありませんでしたが)。今回追加した他の指標(General Physician Attributesや満足度)では立っているか座っているかに目立った差はありませんでした。この研究では,立って話すか座って話すかは患者の好みでどちらでもよいと結論しています(表3)。

 何かと何かを比較する時に,効果を表す尺度ががちっと決まっていない緩和ケアの領域では,測り方によって結果がちょっと変わってしまうことも多いのですが,今回の結果は,Physician Compassion Scaleでは座っているほうがおおまかにいえば好まれる傾向にあります。ただそれだけでいいかというと,人によっても違いますし,座っていればそれだけでいいかというとそんなことはなく,ちゃんと真剣に話を聞いて(目を見て)ほしい,という解釈が妥当というところです。

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表3 「座って話す vs. 立って話す」での医師が親身になってくれているかの患者評価の違い

臨床の場面で考えてみる

 緩和ケアの教科書には,患者さんのお話は必ず座って聞くこと,という教えがあります。確かに,少し時間をとって診察する,お話しする時は座っているほうが落ち着くと思うのですが,最近,短時間の複数名で行う回診でも,「みんなその辺に座っている(「床にしゃがんでいる」」図を見ることがあります。緩和ケアチームの回診になると,医師,看護師,精神科医,薬剤師,心理士,MSW,栄養士,○○療法士…となんだかものすごい人数になっている施設もあり,その人たちがまとまって座っていると,患者さんのほうが気をつかって「せめて椅子に座ってもらったほうが…」。これはこれでかえって気をつかうなら,一考の余地があるのではないでしょうか。

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 筆者が病棟でパソコンにカルテを書いている時でも,世の中の居酒屋とかの風潮もあるのか,看護師さんが「せんせーちょっと○○さんのことなんですけど…」と言って,突然,椅子に座っている筆者に片膝つく感じで下目線になると,「あ…立ったままでいいです」と思うところ。

 現場での出来事を踏まえて考えると,座って話す vs. 立って話す課題は,もともとは,「患者さんを見下ろすように」(しかも,患者さん=1人の人間ではなく,患者さん=病気,として)見ていた時代での人間尊重の証しとして生まれました。時代が過ぎた今は「座って話すvs. 立って話す」だけが重要ではなく,患者さんに関心をもって心配する態度が満ち満ちていれば姿勢はそれほど大事でもないというほうが正確になってきたともいえます。

 確かに,座って話はしているけど,まったく目を見ず,挨拶せず,何を聞いてもまともな(聞いた意図をくみとった)返事が返ってこない医者が来たら,立っててもいいから,ちゃんと目を見て,聞いたことにはなんでそういう質問をしたのかをわかって答えてくれる医者に代わってほしくなります。

 「座って話すこと」にこだわらずに,患者さんにとって自然になるような姿勢をとればいいということかと思います。

まとめ

「座って話す vs.立って話す」では,全般的には座って話すほうがいいですが,それより大切な,きちんと患者の質問を理解して対応することのほうが重要です。

1)Bruera E, Palmer JL, Pace E, et al.: A randomized, controlled trial of physician postures when breaking bad news to cancer patients. Palliat Med, 21(6):501-5, 2007.
2)Strasser F, Palmer JL, Willey J, et al.: Impact of physician sitting versus standing during inpatient oncology consultations: patients' preference and perception of compassion and duration. A randomized controlled trial. J Pain Symptom Manage, 29(5):489-97, 2005.

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<内容紹介>「20%効果がある」「80%効果がない」──言い方によって患者の判断が変わる? 立って話すか、座って話すかで、与える印象が変わる? 臨床で出合うちょっと不思議な現象や、どうにもうまくいかない場面。その背景にあるのは、人間の心の特性や、個々人が培ってきた価値観の違いかもしれない。緩和ケアだけでなく、心理学、行動経済学の領域で蓄積されたエビデンスが、臨床での困りごとを解決するヒントを与えてくれる!

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