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緩和ケア・コミュニケーションのエビデンス
ああいうとこういうはなぜ違うのか?

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「20%効果がある」「80%効果がない」──言い方によって患者の判断が変わる? 立って話すか、座って話すかで、与える印象が変わる? 臨床で出合うちょっと不思議な現象や、どうにもうまくいかない場面。その背景にあるのは、人間の心の特性や、個々人が培ってきた価値観の違いかもしれない。緩和ケアだけでなく、心理学、行動経済学の領域で蓄積されたエビデンスが、臨床での困りごとを解決するヒントを与えてくれる!

森田 達也
執筆協力 森 雅紀
発行 2021年06月判型:A5頁:168
ISBN 978-4-260-04586-5
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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はじめに

 また,〇〇のエビデンスの本を書いてしまった…マニアな人だと思われる…。――実は世の中で思われているよりかなり余裕のある毎日でついつい。
 筆者がベッドサイドで最も忙しかったのは,卒業から15年ほどの1992年から2007年,月に8回ほど当直やら患者さんの対応やらで夜も病院で過ごす合間に臨床研究をする毎日だったけど,忙しいという認識はなく,ただただ楽しい日々だった。社会活動で最も忙しかったのは,緩和ケアが時代の光に照らされはじめた2007~12年頃で,緩和ケアチーム・地域連携,研修会やら研究会の立ち上げで夜はともかく土日祝日年末年始もなかったが,毎日新鮮だった。
 2020年代に至り,院内にも地域にも全国にも信頼して仕事を任せられる人たちが急速に増えた。自分がすることといえば,だいたいのことはもう自分でできる人に,年の功で少しは知っていることを聞かれて答えるくらいのことだ。――かくして,コミュニケーションのエビデンスに関するまとまった本はないなぁと思い,本書を上梓することにしてみた(とはいえ,変な人と思われないようにエビデンス以外のコラムも入れさせてもらいました)。
 本書は,緩和ケアの臨床家が出合うちょっと困る場面で,ああいうこういうのどちらがどういう影響をもたらすかをまとめた書籍である。緩和ケアの古典的テーマでわかりやすくいえば,オピオイド(医療用麻薬)を最初に内服する時に,「30%で吐き気が出ます」と言うか,「だいたい(7割方)の人は何もありません」と言うか,言い方で何か違いはあるのではないだろうか?「(残された時間は)あとどれくらいですか?」と切実に聞かれた時,「そればかりはわかりません」なのか,「う~ん…難しいんですけど…〇〇くらいかもしれません」なのか,「〇〇くらいかもしれないんですけど,一番いいと…で一番悪いことも考えると…くらいかも…」,なのか? 正解があるわけではないが,どういう言い方をするとどういう反応が多いのだろうか?
 コミュニケーションを専門にしている研究者から見ると,「どういう言葉を使おうと,言葉そのものより,共感性や態度でコミュニケーションの質は決まる」というのが定説である。共感性や態度とは,話す時には相手の目を見る,声のトーンをそろえる(ペーシング),話されたことを自分が理解しているかを言い換えて確かめる,といった一連の技術でもある。それはその通りなのだが,人は共感性も態度もなかなか変えられない。それならば,せめて,ああいうこういうを工夫することで,いくらかでも患者さんによい変化が起きているならそれに越したことはない。――これが本書をまとめた動機である。
 コミュニケーションに文化差があるのはいうまでもなく,輸入ものは日本人のコミュニケーションに当てはまらない。本書で扱っているエビデンスは国内のものを中心とした。この点,本書の少なくない部分を同僚である森雅紀の研究から得ていることに感謝を述べておきたい。あわせて,いつものことであるが,丁寧に図表を作成し,活字を超えて文章が読者に届くような編集上の工夫を凝らしてくれた医学書院の品田暁子さんにいつもありがとうと言っておきたい。
 本書が,ああいうか? こういうか? で悩んでいる,緩和ケアの臨床家の日々の実践に少し色を添えるものになれば幸いです。

 2021年5月
 森田達也

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はじめに

1章 ああいう vs. こういう の裏には理論あり
 01 「薬を使ったら寿命が縮まるかもしれません」 vs.  「縮まったとしてもとても少しです」
 02 「薬を使っても寿命は縮まらないんです」 vs.  「例えばこういうこともあってですね…」
 03 「80%無効です」 vs. 「20%有効です」
 04 前提なしで話し合う vs. 話し合う前に想定される予後を見積もる
 05 「○○になった時のことを相談しておきましょう」 vs. 「なったらなった時にまたお聞きします」

2章 患者の死に備える おどかさず心構えも促すには?
 01 「いつ何が起こるかわかりません」 vs. 「だいたいこういう変化が起きてきます」
 02 立ち会うこと vs. お話ししておけること
 03 死が数日以内に迫っているとはっきり言葉にする vs. はっきりとは言わないが一緒に何かする
 04 「決めてください」 vs. 「…してあげたほうがいいと思います」

3章 希望を支える 何かできることを付け加える
 01 「できることはありません」 vs. 「ありませんが,○○をがんばります」
 02 「もう治療はできません」 vs. 「元気になったらまた治療は再開できます」
 03 (代替療法は)「効かないと思います」 vs. 「効くかどうかは別としてちょっと教えてください」
 04 緩和ケア vs. ホスピス vs. サポーティブケア

4章 症状緩和にいかす ああいう vs. こういう
 01 「鎮痛薬飲むと痛みが減りますよ」 vs. 「薬あんまり気がすすまないなら頓服だけでもいいですよ」
 02 「点滴すると苦しくなりますよ」 vs. 「何かしてあげたいことがあったんですね」
 03 「飲むと吐き気が出るかもしれません」 vs. 「吐き気はちょっとある人もいますが,まず出ませんねぇ」

5章 日頃の立ち居振る舞いの ああする vs. こうする
 01 立っている vs. 座っている(座りすぎもよくないか?)
 02 スマホで死亡確認 vs. 時計で死亡確認

6章 予後に関するコミュニケーション 「わからない」はとにかくよくない
 01 「わかりません」 vs. 「わかりませんけど,どうしてそう思われるのか,わけを教えてくださいますか」
 02 「○○くらいです」 vs. 「○○くらいですけど,△~△という幅があります」
 03 はっきり言う vs. 言わない

長めのColumn
 ・スキルはなくても相手をわかろうとする気持ちがあればそれでいい
 ・コミュニケーションにおける「実感」の役割──気持ちがついてくることの大事さ
 ・「へぇ⤴どうして?」はどうして魔法の言葉になりうるのか
 ・文化の話──自己決定と以心伝心

Column
 ・「みんな飲んでいるのじゃなくて,新薬ありませんか?」
 ・ビジネス傾聴
 ・「○○は信用できるやつだ」「△△さんにはかないません」「来てくれるとモルヒネの1,000倍効く」
 ・「性格,性格」
 ・フレンチに行って「おいしくないな~」と思ってても,最後にシェフが出てきて「どうでしたか」って聞かれたら…
 ・リアルな指示がくる
 ・「おやじが怖い,おやじはがん性髄膜炎より怖い」
 ・「痛みどうですか?」──「痛み止め飲むと,拷問のようです」
 ・不条理
 ・「ちゃんとした返事が返ってくるってことはね,ちゃんと聞いてもらってるってことですからね」
 ・「せめて小枝になってほしい。藁だとつかんでも浮かべないから」
 ・「怒ってる時はね,返事をしないといいのよ」

索引

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また森田先生のファンになってしまった!
書評者:勝俣 範之(日医大武蔵小杉病院 腫瘍内科部長)

 「患者さんとのコミュニケーション」というなかなかエビデンスが成り立ちにくい分野で,第一線で臨床,研究をされている森田達也先生のこの本を一気に読ませていただきました。森田先生たちが,自ら臨床の現場で成し遂げた研究の成果,エビデンスと,それに対する解説,また臨床現場での用い方まで,詳しく楽しく物語風に描いてくださったので,非常にわかりやすく,かつ実践的であり,読み終わったときには赤ラインと付箋でいっぱいになってしまいました。この本は,がん医療にかかわる医師や,医療従事者の人たちにぜひ読んでほしい,特に,がん治療医,腫瘍内科医に必読の本と思います。

 われわれがん治療医が診療現場で患者さんによく言ってしまうセリフに,「いつ何が起こるかわかりません」「どちらにするか,決めてください」「もう治療はありません,できることはありません,ホスピスをすすめます」「余命はわかりません」「余命は〇か月です」などがありますが,これらの言葉かけがあまり好ましくないコミュニケーションの例として,エビデンスを交えて紹介されています。そして,どのように対応したらよいのか,具体的な例が示されているので,非常に実践的です。日頃,臨床医がよく使っている言葉が,患者さんにとってはとても傷つく言葉であったり,好ましくない言葉であったりすることにあらためて気付かされ,目からうろこでした。明日からの臨床にもすぐ使える内容と思います。

 以前,森田先生にお会いした際,まだ映画化される前だった『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)を読むように紹介されました。この小説は,主人公が難病になりながらも日常生活に喜びを見つけて生き生きと生きる姿に加えて,人生の不条理を描いたものですが,森田先生の文学への造詣の深さにも感心いたしました。本文の途中に出てくるコラムにも文学的要素が反映されており,また森田先生のファンになってしまいました。特に,コラムの中の「(文学や哲学の領域では)医学研究がわざわざ質の高いインタビュー研究やら代表性の高い集団のコホート研究やら新規性の高い実験心理研究やらをしなくても,死を前にした人間の体験はあらかたのことが,『わかって』いるのではないのかという気にもなることが多くあります」との言葉がとても印象的でした。


患者目線で読んでみた──全医療者に読んでほしい本!
書評者:頭木 弘樹(文学紹介者)

 病院に行くとき,録音機を持って行こうかと迷う。説明を覚えきれないからだ。いい加減に聞いているわけではない。その逆で,一つひとつの医師の発言に集中し,ちゃんと理解しようとしている。それだけにそしゃくに時間がかかり,次々に繰り出される言葉を飲み込みきれなくなる。

 しかし,いまだに持って行ったことはない。医師のショッキングな発言が録音されるといやだからだ。消せばいいだけなのだが,録音されたらと思うだけで,もう胸が苦しくなり,やめてしまう。

 それくらい,医師や看護師の言葉は患者に突き刺さる。医療者が一度発しただけの言葉を,患者は何百回も反すうすることがある。病院の待合室で話していると,「20年前のあの医師の言葉がいまだに忘れられない」などという人がたくさんいる。

 もちろん,患者側が過敏すぎる面もある。医療者は大勢の患者を相手にしているわけで,全員に気を遣ってはいられない。治療さえちゃんとやってくれれば,言葉とがめはなるべくしたくないと思っていた。

 だからこの本も,読む前は,「患者の気持ちをわかってあげましょうと書いたところで,現実には難しいのでは?」と思っていた。ところが,そういう本ではなかった。「相手をわかろうとすることがどういうことか生まれついて『わからない』人に自然なコミュニケーションを求めるのは酷」とまで著者は断じている。医療者にだって,当然そういう人はいる。「人は共感性も態度もなかなか変えられない。それならば,せめて,ああいう・こういうを工夫する」という,じつに現実的な本で,目からウロコだった。

 実際,この本に書かれている工夫は,患者の側から見て,「ぜひそうしてほしい!」と思うことばかりだ。例えば副作用の説明で「5パーセントに吐き気が起こる」と「95パーセントで吐き気は起こらない」では,たしかに言われる側としては大違いだ。しかも,そのような言い方をすることで,「副作用の発生率を減らすことができる」ということに驚いた。

 客に愛想がよくてまずい鮨屋より,無愛想でもうまい鮨屋のほうがいい。医療者に関しても,そういうふうに思ってしまうところがある。しかし,この本を読むと,患者への言い方を気をつけることは,治療ともなり得るのだ。これも目からウロコだった。

 患者の「言葉と意図は違うことがある」と著者が認識していることにも深く感動した。それが原因の医師と患者の行き違いは,入院中に6人部屋でたくさん目にした。それがどういうことかは,この本に出てくる事例を読んでみてほしい。事例が豊富なのも,この本のありがたいところだ。

 というわけで,読む前とは完全に考えが変わり,今は全ての医療者にこの本を読んでほしいと思っている。自分の主治医にも。

 また,ここに書いてあることは,医療者と患者だけでなく,さまざまなところに応用できると思った。私自身,仕事やプライベートでも,ああいう・こういうを工夫してみるつもりだ。

 

 

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